第14話「いきなり窮地に(早く渡すのニャン)」

 それで冒頭に戻るのだけど、ミナの愚痴を聞きながら、すでに着替えているミィを見た。

 服を着させたら魔女っぽく見えるものなのだな。本当に馬子にも衣裳……。

 ほうきに乗りながら、宙に浮いているミィはピクリと身体を揺らした。

「にゃーん。ニャにか私を見て思った事を言ってもらおうニャン。場合によっては背中でカリカリの刑だニャン」


「何それ、怖い。何でもないよ。本当に魔女っぽいねって」

 ミィは頬を膨らませながら、プイっと顔を背けた。湯舟に浸かっているミナは勢いよく立ち上がり、

「そうなのじゃ。わら、いや我は、このボトルに入っているものが気になるのじゃ。石川!そのボトルには何が入っておるのじゃ?」

 しゃがんでいる俺を見上げるようにして、ミナは笑みを浮かべながら見ていた。

「ああ、あのボトルの中身は、シャンプーとリンス、ボディーソープが入っているよ」


「シャ…ンプー?リンス?なんじゃそれは?」


「身体を洗うものだよ。もしかしてお前、使った事無いの?」


「え、ふん、わらわは魔王様だぞ。そんな使い方など……、使い方教えるのじゃ」

 妙に上からなのかが気になるところだが、そうだな。うーむ。どうしよう。教えろって言ってもなあ。

「シャンプーは髪を洗うものだよ。リンスは髪を整える役割で、ボディーソープは身体を洗うものだよ」

 無難に言ってみたのだけど、納得するだろうか。ミィはボソリと「ヘタレニャン」と聞こえてきたのだが、そんなの知ったことか。初対面の奴の髪を洗う奴なんてどこに居るんだよ。さっきはキスをされたけどな。

「分かったのじゃ。石川!、下僕の最初の仕事じゃよ。私の髪を洗うのじゃ。これは最重要事項なんじゃからな」


「断る!」


「なんじゃい。わらわの命令が聞くことが出来ないのか?」


「初対面でそれに女の子の髪を洗うなんて出来るかよ。それに幼女ときた、事案案件だよ」

 俺はミナに強く言いながらも、ミナは首を傾げながら頭にハテナマークを浮かべていた。

「わらわの髪は下僕や城に居たメイドに身の世話でやってもらってたのじゃけどな。当然、今、わらわの下僕となった石川が髪を洗うのは当たり前であろう」

ミナは堂々と腕組をしながら言ってくる。それも全裸の姿、生まれたあられの無い姿で。

 俺はそんなミナの姿を見ながら、はーとため息を吐いた。仕方がない。これは洗ってやらないといけないのか。

「待て待て、良いものをやるから待て!」

 俺は手のひらをミナに見せると、ミナは首を少し傾けた。

「良いモノ?それはなんじゃい。さてはわらわを物でつる気かなのか……、ちなみに良いモノってのはなにじゃ?」

 よし食いついた。こいつはちょろいかもしれない。俺は鼻でフンと笑いかける。

「なんじゃ?下僕、主従関係の契約を結んだというのに、わらわをバカにするとはいい度胸だな。わらわをなめると痛い目にあるぞ」

 裸の幼女が脅迫じみたことを言っても何も怖くはないのだが。俺はまあまあと目の前のミナに言い聞かせる。

「美味しいものを食べさせてやろう。ミックスオレよりも美味しいモノをな。今ここに持って……」

 俺は途中で言葉を濁した。なぜ言葉を濁したのかと言うと、本来お風呂に入り来ただけであって、美味しいものなど持っては居なかったのだ。

 ミナは俺のズボンの足に近づき、揺らす。上目目線でジッと見ながら、

「美味しいモノを早く見せるのじゃ、石川!ウソだったら許さないのじゃよ」

 これはどうしよう。どう言いわけをしようかと考えているところ、隣に近づいてきたミィが言ってきた。

「その美味しいモノっていうのは、チュールのことだニャン!あのマグロ味は格別な味だニャン」

 にこやかな笑みを浮かべ、口からよだれを垂らしながら、人差し指を立てていた。

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