第23話 大貫さんご夫妻 ③ 暴走

「………… !! 」

 大貫さんの行動にみんなは心の中でブツクサ文句を言いつつも、相手が高齢の患者さんなので、まさか喧嘩する訳にもいきません。

「しょうが無いなぁもう… ! 」

 という訳で、病室内は今夜もまた各自ごそごそと床に就きましたが、僕もみんなもそんないきなりストンと眠れるはずも無く、何だかやたらと夜が長く感じられるのでした。


 …それでもいつの間にか睡魔が訪れ、部屋のみんなが静かに熟睡していた時、僕は突然顔にライトを当てられ、ビックリして目覚めました。

(いったい何ごと !? …眩しいっ !! )

 思わず上体を起こして周囲を見ると、

「皆さん!起きて下さい、もう朝ですよ!」

 何と大貫さんが僕たちみんなの顔を自分のスタンドのライトで照らしてそう言ったのです。

 …しかし朝と言われても病室の窓の外は真っ暗です。僕は自分の腕時計を目をこすりながら覗き込みました。

(…3時15分 !! …)

 …これにはさすがにみんなも堪らず、

「…大貫さん!…ちょっと勘弁して下さいよ!俺はまだもう少し眠らないとまた病気が悪化しちゃいますよ!…朝の検温の時間まではそっとしといて下さい!…お願いしますよ」

 中尾さんがそう言ってベッドの仕切りカーテンをシャッ ! と閉めました。

「…皆さんに主人が勝手を申すのではないかと…」

「…年寄りのたわ言と思って聞き流して下さいませ…」

(奥さんが言ってたのはコレだったのか !? …)

 僕はこの時ようやくあの老婦人の献身の訳が理解出来た気がしたのでした。


 …夜が明けて、いつもの検温の時間…。

 夜中の熟睡中に強制的に大貫さんに起こされたみんなは、誰もがどよ~んとした顔で目を開けたのでした。

「…今朝は皆さん、何だか寝覚めの悪いような顔色ですねぇ…どうしたのかしら?」

 病室に廻って来た看護師さんもそう言いました。

「…いえ別に…夜中ちょっと寒かったからじゃないかな?…」

 僕がそう言ってごまかすと、

「あら、それじゃ掛け布団の追加を出しましょうか?そんなに寒かったのなら… ! 」

 看護師さんは驚いた顔で言いました。

「いやいや、そんな必要はありませんよ!…昨夜はみんなたまたま寝相が悪かったんです」

 中尾さんが大人のフォローを入れました。


「…あの大貫の爺さんさぁ、自分は6時半に寝ちまうもんだから3時くらいに目が覚めちまうんだろうけど、そんな夜中に叩き起こされたんじゃこっちは堪ったもんじゃ無いぜ!…」

 しかし朝御飯の後でトイレに行くと、先に小用を足していた中尾さんが僕にそう言ってこぼしました。

「…そうですねぇ…」

「…年寄りのたわ言なんて、そんな可愛らしい話じゃ無いぜ全く!…」

 僕は中尾さんの訴えに頷きながら応えていましたが、よく考えてみれば超早寝早起き品行方正な大貫爺さんと、不摂生放蕩親父中尾さんが同室になった訳ですから、こうした事態になるのもある意味当然の流れなのかも知れないな…とその時思ったのでした。

「中尾さん…僕たちも早く退院しましょうよ!…」

 結局のところ僕はそう言うしかありませんでした。


 そしてその日…午前中の点滴、昼食が終わり、午後の回診の時間となって先生が看護師さんを連れて病室にやって来た時、僕はついに思い切って言ってみました。

「先生!…おかげ様で入院して以降、発作も全く起きなくなりました。治療の効果か体力気力もかなり回復して来ました。…そろそろ退院させて頂けませんか?」

 僕の訴えに先生は、看護師さんから示されたカルテを見ながら、

「…え~と、森緒さんは…入院9日目か…でも今は寒暖の差が激しい、喘息患者さんにとって一番条件の悪い時期だからねぇ…う~ん」

 と思案顔になりました。

 もうそろそろ日数的にも簡単に退院許可をくれるだろうと思っていた僕は、先生の反応を見てにわかに不安な気持ちを覚えたのでした。





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