第18話 志津川さんの親友 ② 事件
…話を伺うと、志津川さんの親友の名は武義 (たけよし) さんと言って、高校、大学でラグビーをやってた頑健屈強な体育会系の男だということでした。
音楽を聴いたり読書をしたりすることが好きな文学系の志津川さんとは同期で会社に入りましたが、初めはあまり接点が無く、社内でたまに顔を合わせてもしばらくは特に言葉を交わすこともありませんでした。
…しかし、勤め始めて数ヶ月経った時、2人は同じ部署に配属となり、真夏の猛暑の日に屋外の業務イベントにかり出されることになりました。
その日はカンカン照りの日射しが容赦無く身体を焦がすような厳しい条件下でしたが、何しろ上司の業務命令なので2人は汗を拭いながら働きました。
…体育会系で鍛えられた武義さんはまだ耐えられる仕事でしたが、インドア文学系の志津川さんには攻撃的日射条件下での作業はキツイものでした。
…午後になり、頭がボ~ッとして来た志津川さんは徐々に思考能力が無くなって、武義さんが気付くとすでに目の焦点がおかしい状態になっていました。
「おい、志津川 !! 大丈夫か !? 」
思わず武義さんが叫ぶと、志津川さんはちょっと唇を動かして何か言おうとしましたが、その直後にパタリと倒れました。
「志津川っ !! 」
慌てて武義さんは志津川さんの身体を抱えて走りました。
「大変です!炎天下で志津川が倒れました!持ち場を離れますが病院に連れて行きます!…はいっ、そうです !! …えっ !? 何ですって !?…」
…近くの電話ボックスから会社に報告を入れると、途中の業務連絡で、今日は猛暑の炎天下の作業なので昼からは他の者と交代させることになっていたとのことでした。…つまり2人に作業を命じた上司の中込主任がそれを伝達するのを忘れていたのです。
…病院で手当てを受けてようやく志津川さんは意識を取り戻しました。
「やはり、日射による熱中症だってさ!それより志津川 !! …会社はこの暑さなんで途中で交代させることにしたらしいんだが、中込の奴がスッとぼけて俺たちに伝えなかったんだ!」
武義さんは一気に志津川さんにそう言いましたが、
「…そう?…すまない武義…迷惑かけたね…」
志津川さんはまだクラクラする意識の中で弱々しく応えました。
「中込の野郎!…ただじゃおかねえ!」
武義さんは怒りをあらわにして拳を固めていました。
…という訳で2人で会社に戻ると、武義さんは怒りをあらわに志津川さんを連れて中込主任のところに文句を言いに行ったのでした。
「中込主任!…ひどいじゃないですか !! 志津川が途中で倒れたんですよ!」
勢い込んでそう訴えると、
「…そうらしいな!いやぁ、私も今日は忙しかったから…それにしてもそんなに具合が悪かったんなら、先に私に連絡してくれれば良かったのに… ! いきなり病院に連れて行って大騒ぎすることもないだろう !? 」
小柄で小太り、髪がやや寂しい中込主任は、眼鏡の奥の目を不愉快そうにしばたかせながら、悪びれる様子も無くそう言いました。
「中込主任!…あんた自分の連絡ミスを棚に上げてまるで俺たちが悪いとでも言うんですか !? 」
武義さんはさらに怒りを倍加させて言いました。
「…そうは言ってないよ!…ただ、もう少し冷静な対応が出来たんじゃないかと残念な気が…」
「何だとっ !! …」
武義さんの憤怒がMaxに達した時、中込主任はさらに言いました。
「武義君!…だいたい何で君が私にそんなに食ってかかるんだね?倒れた志津川君の方はさっきから何も言わないのに!…上司の私に少し失礼だとは思わないかね?」
「ふ、ふざけるな!この…」
武義さんがプルプルと震わせた拳を持ち上げようとした時、志津川さんがその腕を後ろからパッと掴んで言いました。
「分かりました、主任!」
武義さんと中込主任はハッとした顔を志津川さんに向けました。
「この度は私のことでお騒がせして申し訳ありませんでした!」
志津川さんはそう言って中込主任に頭を下げました。
「…いや、別に君が謝る必要は…」
主任は突然の展開に戸惑いを見せました。
しかしこの後、志津川さんは坦々とした口振りで反撃を開始するのです…。
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