第11話 島野さんのお注射 ② 注射
「よし、やるぞ!」
キラリと目を一瞬光らせると、先生は看護師さんから「カッター」を受け取ってプロフェッショナルモードに入りました。
「キュイイ~~~ン !! 」
カッターのスイッチが入ると、甲高く鋭い回転音が部屋の中に響き、僕には先生の顔にニヤリと笑みが浮かんだように見えました。
対して島野さんの表情は一瞬にして凍りつき、さっきの笑顔から180度急転回の顔色です。
「せ、先生、あの…」
島野さんが何か言いかけました。が、
「島野さん!私も集中してやるから、動かないでね!危ないから」
先生にそう言われ、
「あっ、ひゃい !! 」
と彼は応えました。が、声が裏返っているのがはっきりと分かりました。
「行くぞ !! 」
看護師さんとアイコンタクトを取り、先生は石膏にカッターを当てました。
「ギュイ~イイ~ン、ジュイン !! 」
刃を当てた部分から白煙のような粉塵が吹き上がり、脇で見ている僕たちにも緊張が走ります。
先生は石膏面に回転刃を縦に横に当てながら、何回かに分けてカットしつつ左足の石膏を外して行きます。
看護師さんは用意したバケツに、外した石膏のカケラをガランガランと放り込みました。
最後に膝部分の石膏を切り、ゆっくりと取り除くと、先生が顔を緩めて言いました。
「終わったよ、島野さん… ! 」
「…………… ! 」
…しかし島野さんは固まったまま言葉も出ない様子です。
「じゃあ、後で注射一本打っといて!」
先生は看護師さんにそう言って、スタスタと部屋を出て行きました。
「…島野さん、大丈夫?」
看護師さんがちょっと心配そうに言いました。
「……ひゃっ、だ、大丈夫です。ちょっとびっくりしただけです。…カッターってのがまさか、回転電ノコとは思わなかったから…」
島野さんが答えると、
「注射、どうします?…すぐに打ってもいい?…」
看護師さんが訊きました。
「いや、あのカッターに比べたら注射なんて…!すぐでも良いですよ!」
少し落ち着きを取り戻して島野さんが言いました。
「分かりました!…じゃあ用意するから、ベッドでリラックスして待っててね!」
その時、そう言った看護師さんの目が、一瞬キラン ! と光ったように僕には見えました。
「…いや~!島野さん、あの電ノコカッター…怖かったぁ、ビビりましたね!」
石膏が外れてホッとしている島野さんに僕は声をかけました。
「えっ !? …な~に言ってんだ、俺は全然ビビったりなんかしてないぜ!」
島野さんはこちらに顔を向けて言いました。
「でも、さっき顔が固まってましたよ!」
「動かないでね!って先生に言われたから顔も固定してたんだよ!」
「いや、顔固定って、意味が分かりませんよ!…もう~意地っ張りやさんだなぁ!」
…という訳で男2人でじゃれ合っていると、
「は~い、島野さ~ん!お注射よ~!」
ちょっと年配の看護師さんが注射器を持って来ました。
「えっ !? 」
ところがビックリ第2弾 !!
彼女が持って来た注射器は、思っていたよりもはるかに太く長く大きなシリンダーにたっぷりの薬液をたたえ、凶悪そうな長い針をギラン ! と光らせて医療用銀バットの中で堂々とした存在感を放っていたのです。
「…じゃあ島野さん、ベッドに寝て下さい!うつ伏せがいいわ!」
…再び顔が固定化した島野さんに看護師さんはサラッと事務的に言いました。
「…看護師さん、あの」
「仕切りカーテンは閉める?」
何か言おうとした島野さんに、さらに事務的に彼女が訊くと、
「ひゃい?カーテン?…どっちでもいいです」
またも裏返ってしまった声の返事を聞くなり、
「じゃ、行くわよ!身体の力を抜いて !! 」
看護師さんはそう言って島野さんのパジャマのズボンをパンツごとズリン ! と下げました。
「えっ !? 」
驚いた僕たちにかまわず、むき出しになった島野さんの尻たぶに彼女は素早く消毒用アルコールをチャチャッと塗ると、間髪を入れずにその特大注射器の針をぶっ刺したのです。
その瞬間、島野さんの目がカッ ! と開かれ、看護師さんは注射器のシリンダーをググググイッ ! と押し込みました。
「いっ、て~~~ !! 」
…そして島野さんの哀切なうめき声が部屋のみんなの耳に痛々しく響いたのでした。
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