✅篠塚家の日常④
篠塚家の玄関先。
ツナは、前足をきちんと揃えて、お行儀よく待っていた。
昨夜は【猫集会】だった。
野良猫も、飼い猫も、関係ない。
かがり町に住まう猫たちの月一夜会だ。
集会場は坂下の、みかづき公園。
猫の誇りと人間との共存を主題として、にゃあにゃあと夜通し語り合う。
縄張りの改めや、ルールの取り決め、新顔猫の紹介なんかもやったりする。
かがり町には、そこらかしこに猫がいる。
とても平和で猫らはのんびり暮らしている。
猫集会とは、猫の自治会なのだ。
その役員でもあって、現在かがり町猫界の頂点へ君臨しているのが、篠塚家の飼い猫ツナ。
ツナは大型種の猫で、いたずら好き、ちょっとオラついた生意気な性格。
そして【あまりにもイケメンすぎる猫(規格外)】として町で有名な雄猫。常に羨望のまなざしを向けられていて、言い寄ってくる猫があとを絶たない。
そんなわけで猫集会の夜のツナはがっつり遊んで帰ってくる。
今朝もだ。三日月型の公園遊具をグループで占領。そこへお気に入りの町猫らをはべらせて、もふもふ、ごろにゃんと寝そべっていたのだが――、ぼんにゃりおねむなツナの目に、ちらほらと通勤通学する人間たちの姿が見えてきた。
なんと、平日だ!
ツナは「ギニャ」と飛び起きると、もう一目散に走って帰ってきた。
通りすがりの近所の爺さん『ほえ……アライグマかえ……?』
自然豊かなかがり町で、狸やアライグマなんかと間違えられるツナ。否、そんなことはどうでもいい、ツナには時間がない。全力で坂道を駆けあがって、
そうして今朝もなんとか、大好きな大好きな飼い主さん、忍の登校時間までに間に合ったのだった。
(ツナのお世話をしているのは、鷹史です。※篠塚家の日常)
さあ、今。
キラッキラとした金青
「ツナ、おかえり~」
ガララと開いたそこから顔を出したのは、なんだ……ただの鷹史だった。
「にゃ……」
ツナの表情が見る見るうちに曇っていく。
おじさんデレデレしちゃって、違うんだよ。
ツナのお目当ては、忍ひとり。愛しの忍が小さく屈んで「ツナ、おかえり」と優しく出迎えてくれるのを待っていたのだ、期待していたのだ。そのために猫ダッシュで帰ってきた。
なんだ、鷹史か。
両目を輝かせても、猫カロリーが無駄なので、消した。
忍のために一生懸命したが、ツナのテンションは尻尾とおなじで、だださがり。
もしかしたら、忍はもう学校へ発ってしまったのかも。
「ツナ~、遅かったじゃん!」
鷹史は鷹史で、鈍感だ。
忍と、
「……ツナ様」
否、気づいているのかも。
「フン……ニャ!」
「ああっ、鼻で嗤った!」
鷹史、めげない。
表情を消したツナの、もふもふたっぷりとした毛並みを撫でようと果敢に手を伸ばしてくる。が余裕で避けられて、ばふっと、大きな尻尾でふり払われてしまう。
「お願い、ワンタッチでいいから! ワンタッチで……あ、ニャンタッチか☆ とかつって……フゴ!」
ツナの豪速ツッコミ、猫ぱんちだ。
篠塚家の玄関先で、猫と中年による【もふりこ攻防】がしばし展開される。
「ねぇ忍~、飼い猫様まで冷たいっ!」
言葉とは裏腹のどこか嬉しそうな鷹史の声に、ツナの特徴的な耳がぴんと立つ。
忍はまだ、おうちの中にいるらしい。
とたんに、きらきらと輝き出す
ツナという猫の、本気を見せるときが来たようだ――!
まずは、よそ見したお邪魔虫、鷹史の脇を涼しげに通り抜けて、玄関の段差をひじょうに軽やかに飛び越える。正面の階段を光の速さで駆けていき、あっという間に三階の、忍部屋へと到着。
一階から鷹史の声「すっげ……ツナ様」
昨夜ぶりの、忍の匂い。
ドアの少しの隙間から、朝日とともに溢れている。ツナはささっと毛繕いをして一呼吸。そして、ぽふ……とドアを押し開いた。
「あ……おはよう、ツナ」
少し低くて、猫心地のよい穏やかな声。
ツナが唯一飼い主と認める忍は、制服へと着替えているところだった。
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