21.蒸奇殺法十番斬り

 新九郎は大きく息を吐き、吸った。

 敵は一一。うち一機を中心として二機一組の防御陣形を取っている。北東・北西から憲兵の超電装が接近を試みるも敵の砲撃により釘づけにされている。繰り返し装甲ビルに着弾する超電装用の弾丸と、本来は宇宙戦艦の甲板上の機体が装備し質量散弾の緊急排除に用いられる携行六連蒸奇機関砲。装甲化されていなければとっくに一帯は壊滅、超電装は大破だった。

 憲兵隊の武装は基本的に市街への被害を最小限にし、単独目標を確実に撃滅する目的で徹甲弾や成形炸薬弾が主流であり、榴弾系の武器はあまり用いられない。しかしいくら装甲を弾丸が貫通しても、敵蒸奇亡霊オルゴン・ゴースト機構により即座に修復されてしまう。

 さらに足元には敵小電装部隊。憲兵と警察がなんとか侵攻を押し留めているが、偽装皮膜に加えて舞踏会仮面で顔を隠しているため中に紛れた三〇三特務隊所属の地球人との区別がつかず、航空戦力や超電装での反撃が封じられている。帝都の入り組んだ構造から防衛側が戦力の分散を余儀なくされ、敵の突破を許しては防衛線を再構築することを繰り返す。そして次第に、戦線は天樹側へと近づいている。

 自らを人質にした陸戦部隊と、徹甲弾での損傷を即座に修復してしまう超電装。憲兵には分が悪い。

 そしてその鍵となっているのが、敵超電装部隊の中心にいる一機だ。

 チレイン連合艦隊機の半数は地球産の四八式〈兼密〉かその系列機の〈パスティーシュ改〉を重力下仕様に換装したもの。そして残り半数は四脚に二腕を持つチレイン星人の形を模した機体だ。生物の形では頭部に取りつき脳に潜り込むための四本脚だが、巨大機械になれば全地形型の脚部となる。そして宇宙空間では姿勢制御スラスターになる。コード66〈蜘蛛蜥蜴〉という名は、天樹での暗号名が可能な限りの直訳で伝えられたものだ。なるほど、地球の生物に当てはめるなら蜥蜴としか言い表しようがない上半身と、多少脚は少ないが蜘蛛としか言い表しようがない下半身をしているのである。

 中心の、指揮官と思われる機体もこのコード66〈蜘蛛蜥蜴〉である。外観上の違いは頭部の二本角。そして背中に装備した、蒸奇亡霊発生装置だ。

 まずはあの指揮官機を撃破し、蒸奇亡霊を無力化しなければ、憲兵隊は一方的な戦いを強いられ続け、いつか全滅する。

 敵陣の中心は浅草東本願寺。震災で本堂が焼け、頑丈な建物に作り変えたら今度は戦争で内部が焼け、ようやく再建した受難の建物は今、チレイン連合艦隊の超電装・コード66〈蜘蛛蜥蜴〉の生白い四本脚に入念に地均しされていた。周辺では憲兵隊の超電装がやはり指揮官機を撃破すべく進撃を試みていたが、二機一組の防衛線に苦戦を強いられ、損傷を積み重ねている。

 敵は用いる火器をすべて蒸奇機関砲へと切り替えていた。蒸奇亡霊発生装置には新九郎の〈闢光〉が〈蒸奇殺刀〉を発生させるものと共通するDOR取り込み機構が搭載されており、そこから無限に供給される動力によって蒸奇機関砲は弾切れしない無敵の武装と化していた。もしも市街が装甲化されていなかったら、街ごと薙ぎ払う機関砲の前にとうの昔に憲兵隊は敗北していただろう。

 しかし敵機が天樹の包囲を解いてまで集結したということは、動力の無限供給も損傷の復元も、効果範囲が限られているということだ。そして憲兵隊も、敵超電装を東本願寺から引き離して各個撃破しようと試みているが、今のところ功を奏してはいない。

 新九郎はもう一度深呼吸し、〈闢光〉が動いた。

 既に星鋳物の接近を検知していた敵部隊が憲兵の相手を放棄して陣形を変更。装甲家屋の影から飛び出し、〈闢光〉の前へと立ちはだかった。

 憲兵に通信を繋ぎ、新九郎は言った。

「僕に続け」

 新九郎の眼鏡の上で、五組の配置が帝都の平面地図に重なって表示される。まずは先頭の二機。〈蜘蛛蜥蜴〉と〈パスティーシュ改〉だ。

 四八式〈兼密〉と基本設計を共有しつつも二足走行を基本とし、鍛えすぎた人間のような体型をしているのが〈パスティーシュ改〉である。腰溜めに大型の蒸奇機関砲を構えて掃射。左右の建物の装甲板を削り取りながら射線が〈闢光〉へと迫る。

 だが、悪鬼の鋳物のような表面に、ばらまかれた光の弾丸の一発も、到達すらしない。

 空中に描かれた蒸奇の幾何学文様が、着弾点とその周辺だけ可視化される。二種類の菱形を組み合わせた平面充填の文様は、地球でそれを発明した人間の名を取って、ペンローズ・タイルと呼ばれる。知性あるものの意志なくして創発し得ない文様をオルゴンで描くことでねじれた次元から現世と〈奇跡の一族〉の領域を繋げ、物理的な力を招き入れる防壁。光波防壁ペンローズ・バリアである。

 オルゴン性の攻撃への絶対の防御。〈闢光〉第一の鎧である。

 味気を失くした街路に降り注ぐ翠玉の火花。狼狽えた〈蜘蛛蜥蜴〉が四脚の中心から推進剤を噴射させ、さらに蒸奇推進で姿勢制御しながら浮遊加速。片手にした馬上槍のような武器を構えて突撃する。

 〈闢光〉は受け身すら取らなかった。

 槍の穂先が黒鋼に接触し、そして一寸たりとも刺さることなく弾かれる。姿勢を乱した〈蜘蛛蜥蜴〉の首根を、悪鬼の左手が掴んだ。

 星核の圧力で鋳造され、その分子構造の中に超微小なブラックホールを規則的に織り込んだ絶対装甲。〈闢光〉第二の鎧、翠玉宇宙超鋼である。

 他の超電装よりひと回り背丈の低い〈蜘蛛蜥蜴〉の機体が宙に浮く。空を切る四脚。蜥蜴の頭の真正面に、歯を食い縛った修羅の顔と評される〈闢光〉の頭部がある。

 新九郎が言った。

「一」

 四脚と蜥蜴の上半身を繋ぐ腹部を光の刃が貫き通した。

 力を失った〈蜘蛛蜥蜴〉を装甲家屋に叩きつけ、〈闢光〉がさらに歩みを進める。

 蒸奇機関砲の砲撃を止め、果敢にも代わりにそれを鈍器として振り上げる〈パスティーシュ改〉。だが潜脳された操縦師は、迫り来る黒鋼との間合いを見誤る。

 機関砲が打ち下ろされんとした時には、既に悪鬼の巨体は懐。星鋳物は硬く重いが、決して遅くはない。優れた操縦師を得れば、予備動作なしに数歩分を一気に進むことも可能なのだ。

 既に突き刺されている〈蒸奇殺刀〉。新九郎が言った。

「二」

 蒸奇殺法・兜落とし――ありとあらゆる障害を貫いて人ならざるものの頚椎を砕く必殺剣。翠に透き通る刃は今、蒸奇機関砲の蒸奇貯蔵缶体ごと、〈パスティーシュ改〉の喉元を刺し貫いていた。

 そのまま斬り上げる。機関砲がふたつに割れ、鳥打帽を被ったパリのパルチザンのような頭部が引き千切れて宙を舞った。

 続けて接近する〈兼密〉が二機。前衛の一機が質量散弾の飛び交う中を敵艦へ突撃するための高出力電磁シールドを展開する。その形状はあまりにも雨に差す傘に似ていた。こんな無謀な、特攻にも等しい装備を搭載するのは宇宙広しといえども地球の超電装だけだ。明らかに大提督・土方三十郎の悪影響。もちろん彼自身が、こんなことを望んでいるわけがない。

 懐に納めた古びた葉巻入れの重さを感じる新九郎。〈闢光〉が刀を大上段に振り被った。

 鋭、と気合声とともに渾身のひと太刀。

 空を斬り、一秒。

 〈兼密〉の機体が後方へ吹き飛び、装甲ビルに背中から衝突。無傷の電磁シールドの内側で白い装甲が太刀筋に沿って砕けた。

「三」

 蒸奇殺法・鬼ノ爪――刃を通さない硬質な皮膚や外骨格を持つ異星の怪物を斬るための、防御を越えて内部構造を叩き斬るための技。しかし手心は加えた。装甲は砕いても、おそらく潜脳されている地球人だろう内部の操縦師は殺さない。

 そして後方から両手に十手を持って突進する〈兼密〉へ、蒸奇の刃が襲いかかった。

 すれ違いざま、目にも留まらぬ一刀の閃き。

「四」

 〈兼密〉の巨体がその場で力を失って崩れ落ちた。一見すると大きな外傷はない。だが、白色の宇宙仕様装甲を貫いた〈蒸奇殺刀〉は、内部の人工筋肉を駆動させる流体蒸奇の伝達回路の結節点を正確に斬り裂いていたのだ。

 さらに進撃する〈闢光〉の歩みに揺さぶられた電線が波打つ。ちらと右手を見る新九郎。密集する寺院群の一角にはかの有名な浮世絵師・葛飾北斎の墓標がある。春になったら助手を連れて行こう、と思い立つ。年に一度、収蔵する版画や版木、墨絵を見せる追悼法要が行われるのだ。

 建物の上から影が差した。

 装甲ビルの上。右腕と一体化した巨大なナイフを突き出しながら飛びかかってくる〈蜘蛛蜥蜴〉。だが新九郎とそのしもべの星鋳物の方が遥かに速かった。

「五」

 胸部に搭載された蒸奇機関を貫く逆襲のひと突き――蒸奇殺法・鳥刺し。その名のごとく、滞空しながら一撃離脱戦法を仕掛けてくる宇宙生物を一刀で確実に仕留めるための技である。その昔、葉隠幻之丞は一反木綿と戦うためにこの技を編み出したのだと弟子に語った。弟子、即ち新九郎は、その言葉を一分たりとも信じていない。

 警報が新九郎の意識を現在へと引き戻す。炸薬を満載した四発の自己推進弾が〈闢光〉へと迫っていた。発射したのは五機目と組を作っていた〈パスティーシュ改〉である。発射装置を捨て、両手に携行型の質量散弾発射機を構えて接近してくる。

 新九郎がしたことは、意識を少し自己推進弾に集中させることだけ。

 電想機がその集中を検知し〈闢光〉左肩鎧がスライド展開。あえて収束を怠った蒸奇光線を放った。

 そして全弾空中で撃ち落とされて爆散。爆煙を割って、刀を八相に構えた〈闢光〉が〈パスティーシュ改〉に肉薄した。

 質量散弾はすべて翠玉宇宙超鋼に弾かれる。光の刃が翠の炎に転じる。

 そして真っ向唐竹割りの一撃。迸る蒸奇の炎と化した〈蒸奇殺刀〉にありとあらゆる外部感覚装置を焼かれた〈パスティーシュ改〉が仰向けに倒れた。

「六」

 さらに前進。無惨に破壊されたかっぱ橋道具街に差し掛かると、四脚で器用に浮遊走行する〈蜘蛛蜥蜴〉二機が路地から〈闢光〉の正面と右へと同時に飛び出す。右手の機体が左右とも連射の利く光線銃に換装した武器腕から雨霰と光弾を発射し、一方正面の機体は拠点防衛用の高出力蒸奇砲を両手に構えて交互に照射する。

 蒸奇光線砲はその性質上必ず収束鏡を必要とする。光学鏡ではなく実態は粒子加速器に近いものだが、調整が非常に面倒で衝撃に弱いことには変わりない。そして〈闢光〉が翠玉宇宙超鋼の下に仕込んだ蒸奇電装のように小型かつ高出力のものを内蔵するには極めて高度な技術を必要とし、工業化に移行できない。従い、一般的にはビームレンズを保護するための外殻や、調整不足や衝撃による中途半端な収束を補い十分な指向性を与えるための銃身が取りつけられ、結果として、弾丸を発射する銃と似た外観となるのだ。

 違いといえば、蒸奇亡霊経由で無限に動力が供給され、弾切れしないこと。

 しかし彼らが狙い澄ました十字射撃も、悪鬼の肌を掠りもしない。すべての光線・光弾がペンローズ・バリアに弾かれ、倒壊したアーケードをさらに砕くばかり。

 〈闢光〉が正面へとさらに前進し、高出力砲の〈蜘蛛蜥蜴〉へと接近。武器腕の機体が慌てたように、左右へ高速起動を繰り返しつつ弾幕を張り、瓦礫を弾き飛ばしながら接近する。

 そして〈闢光〉から両者への距離が等しくなった瞬間。

 新九郎が息を吐いた。

 〈闢光〉の機体が沈み、刀を水平に構える。翠に輝く硝子の刃が伸びる。光線砲を内蔵した脛当に守られた、人間よりも少し短い両脚がたたらを踏む。そしてその場で回転しながらの横薙ぎの一刀。

 蒸奇殺法・旋風――多くの敵に囲まれた時や自分より遥かに大きな相手の体内に飲み込まれた時に、まさに旋風のごとく一撃で周りを薙ぎ払うための技である。その昔、葉隠幻之丞は人を丸呑みにする一三尺二寸の大蛇の体内でこの技を遣ったのだと弟子に語った。弟子、即ち新九郎は、その言葉を一分たりとも信じていない。

 二機の〈蜘蛛蜥蜴〉の両腕がそれぞれ砕け、追い打ちの蒸奇光線で頭部を破壊されて転倒する。

「七、八」

 最後の一編隊は〈兼密〉と〈蜘蛛蜥蜴〉。弾幕を張りながら後退し、指揮官機の二本角〈蜘蛛蜥蜴〉と合流する。だが、至近距離から徹甲弾や対装甲特殊弾頭弾の一斉射撃を浴びても〈闢光〉は止まらない。

 ついに黒鋼が東本願寺の敷居を跨ぐ。

 弾切れになった武器を捨てた〈蜘蛛蜥蜴〉が四脚の撥条を使い切って跳躍する。内側に仕込まれた噴射機構を向け、脚で顔面目掛けて組みつこうというのだ。まさに、チレイン星人が他の知的生命体の意識を乗っ取る時の動き。

 だが、あまりにも鈍重だった。

 袈裟懸けに繰り出された〈蒸奇殺刀〉のひと振りが、脚の二本と噴射機構をまとめて砕いた。さらに返す刀が接近していた〈兼密〉の刺股を持った手首を斬り落とす。

 落下した〈蜘蛛蜥蜴〉をさらに踏み潰す。

「九」

 手首を失った〈兼密〉の喉仏を貫き通す。

「十!」

 そして守りをすべて失った指揮官機を前に、〈闢光〉が大地を踏み締め刀を振り被った。

 大上段からの初太刀。積み上がった木材と混凝土の瓦礫を吹き飛ばしながら。

 続けざまの二の太刀。回転する巨体が土が剥き出しになった境内に楕円弧を刻む。

 蒸奇殺法・十文字斬り――二本角の〈蜘蛛蜥蜴〉が、縦横十字の太刀筋を刻まれて四つに割れた。

「斬り捨て御免」

 翠の刃が砕けて散り、〈闢光〉が偃月飾りを額に納めた。

 装甲ビルの影から憲兵隊の超電装がおずおずと姿を見せる。皆頭部カメラを〈闢光〉とその通り道に倒れた敵機の残骸に向けている。

 新九郎も息をつき、再度電探索敵を走らせる。

 そして目を見開いた。

「馬鹿な」

 倒したはずの敵超電装が、次々と起き上がっていた。

 しかし指揮官機は蒸奇亡霊発生装置ごと破壊したはず。足元を確認する。

 残骸はなかった。代わりに蒸奇の雲がささやかに漂い、風に吹かれて消えた。

 つまり、斬ったのは一〇機のみ。指揮官機は蒸奇亡霊にすぎず、本物はどこか別の場所に隠れている。だがどこに。新九郎のこめかみに冷や汗が伝う。火器管制装置が律儀に近い順に敵機を照準する。もう一度電探を確認するが、敵の反応は一一しかない。憲兵隊の超電装が陣形を組み直す。武器も、破壊したはずの駆動に必要な精密部品も、何もかもを蒸奇亡霊で補った敵超電装群が、外れた関節を無理矢理戻すように蠢く。

 その時、知っている声が通信機から響いた。

「手こずっているな、伊瀬新九郎」

 そして虹色の光が〈闢光〉の背後から立ち上った。

 量子倉の光。時間も空間も飛び越えて、姿を見せる碧鋼の超電装。とんがり帽子を被ったような頭部がまず現れ、そこから背中へと繋がる機動薄膜をはためかせながら、先の丸い処刑刀を肩に担いで俯く片膝立ちの機体がかつて寺院だった廃墟に姿を現す。

 全身の装甲に刻まれた歴戦の傷跡。マントのような薄膜には数えて六つの切れ込みがあり、七つの翻りの先には蒸奇亡霊の発生装置たるビームレンズ様の部品が露出する。だがそのうちひとつが欠損している。

 着るものの感傷を圧し殺すかのような甲冑を纏った、返り血に汚れた碧の処刑人。

「ポーラ、ポーラリス・ノースか」と新九郎。

 星鋳物第A号〈斬光ヘッドテイカー〉と、そのスターダスターだった。

 だが、〈殲光〉と第三〇三特務隊との戦いで深手を負い、戦闘不能に陥り、そして修復は後回しにされたはず。事実、破られた翠玉宇宙超鋼は修復された様子はなく、応急処置の封印テープが包帯のように痛々しく風に靡いている。

「ここは俺に任せろ」とポーラが言った。

「だが、その損傷で……」

「問題ない」〈斬光〉が立ち上がった。「傷は蒸奇亡霊で補う。憲兵の機体もな」

「だがそれでは〈斬光〉の戦闘能力は落ちる。その損傷だ、いくら君とて……」

「侮るな。腐っても星鋳物、工業製品に遅れは取らん」

「言うね」

 並び立つ二機の星鋳物。DORが吸い込まれて雲が薄れ、黒と碧の巨体に陽光が差した。

 〈斬光〉の損傷を塞いでいた封印が破れ、代わりに透き通る翠緑が光装甲となって定着する。処刑刀をひと振りすれば、薄膜の先で六つの光が輝き、同じ修復が見る間に憲兵の機体にも施される。

「手を貸してくれるとは思わなかったよ。君には嫌われていると思っていたから」

「勘違いするな。貴様の素人考えは気に食わん」〈斬光〉が刀を構えた。「だが、あの娘の素人考えは気に入った。貴様には過ぎた助手だ」

「僕もそう思う」

「それに、敵を誤るなと言ったはずだ」

 特大の警報音が操縦席に鳴り響き、二機の星鋳物が左右に散開した。

 そこに突き立つ赤錆色の銃剣、〈蒸奇爆砕銃剣〉。

 星鋳物第J号〈殲光〉が上空から高速で接近していた。一二〇の蒸奇光線が与えたはずの損傷はすべて修復され、代わりに九つの銃剣を全身に装備していた。

 爆発する銃剣。その轟音に負けじと、新九郎は叫んだ。

「雑魚は任せた!」

「貴様は貴様の敵を討て、快刀乱麻の蒸奇探偵!」

 〈斬光〉は憲兵隊を率い、不死の超電装軍団に襲いかかる。

 そして〈闢光〉の全身九つの蒸奇光線砲が、上空の〈殲光〉へと一斉に放たれた。

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