第61話 広報部のボス

 派手なサスペンダーの男とは、言わずと知れた広報部のボスである。彼は先程、部下達の仕事ぶりを検証し、この場を任しても問題は無いと判断して「人探しをしてくる」と言って部屋を出たのだった。

 「人探し」というのは、地下駐車場で隊毛頭象から依頼された件だろうか? この一癖も二癖もありそうな男が、人の言うことを素直に受けるとも思えないのだが…


 ところで、「広報部のボス」というのも座りの悪い呼称だが、仮名をつけると本当の名前が分かったときに厄介である。以前、几碼兎の時に懲りたので、彼の名前が判明するまでは取り合えず、「ボス」と呼ぶことにする。この「ボス」には、役割や立場などの関係性は含まれない。だから、広報部の連中の使う「ボス」と筆者が彼を指示する時の「ボス」とは、全然意味合いが違うということを納得していただきたい。


では、話を戻そう。


 ボスとアルビヤ(これも仮の呼び名となってしまった。何故そうなっているのかは前節のご参照を請う)は、互いに通路を右側通行していて、双方共、勤務グリッドに走査されても何ら問題は無い歩行状態だった。ボスも連絡通路の外に立ち込める霧の塊をちらりと見ると、すぐに真正面に向き直ってすたすたと歩いてくる。二人は同じ速度、同じ歩幅で互いの距離を縮めていき、すれ違い、そのまま離れていくかと思われた。が、互いに二歩行き過ぎたところで、ボスが声をかけた。

「失礼だが、あなたは誰ですか?」

 良く通るバリトンだ。地下駐車場で隊毛と話していた時のような気安さは全く無い。しかもボスはこの恫喝にも似た質問を、自分の進行方向を向いたまま発したのだった。手足も歩いているときの形そのままだ。そして、質問し終えた後も、そのままの姿勢を保っていた。袖のカフスが光を反射し、磨き上げた靴のバックルは、夜のしじまを映し出しているかのように深かった。ボスを見ていると、まるで時間が止まってしまったかのようであった。

 一方、不意打ちを食らったアルビヤは、恫喝の瞬間、右足を行き過ぎようとしていた左足を、右足の真横にストンと落とした。だがそれは、けつまづいたりした時のような予期せぬ静止とは違っていた。瞬時に速度をゼロとしたアルビヤの左足は見事に静止の衝撃を吸収し、海軍式の全体止まれ1、2、のように硬直するでもなく、ごく自然に、そこに真っ直ぐ立ち止まったのだった。もしあなたが、アルビヤが歩いたのだという事を知らなければ、彼はずっとそこに立ち止まっていたのだと勘違いしてしまったに違いない。この落ちつき加減を見ただけで、アルビヤにはボスの恫喝詰問が効かなかった事は明らかと思われた。だがどうしたことか、アルビヤは中々返答をしないのである。その場にピタリと立ち止まり心持ち上向き加減になった視線はずっと先を見据えたまま、何か、感極まって声が詰まってしまった万歳三唱、とでもいうべき有り様なのだ。

 ボスは、両足の踵を軸にゆっくりと回転を始めている。回れ右が染みついているあたりに軍事教練の匂いがするのだが、この場でボスの経歴を掘り下げているだけのゆとりは無い。

 ああ、アルビヤを見よ!

 アルビヤもまた、向き直ろうとしているではないか。不覚を取るまいと必死の形相だ。アルビヤにゆとりなどは無かった。先程見せた、見事な静止の手際は脊髄反射の賜物に過ぎず、その脳内では明らかな異変が生じていたのである。その証拠には、首がガクガクと回転する。肩が回ろうとする。腰も、膝も、180度回頭しようと努力している。努力…。そうアルビヤの食いしばった歯を見るがいい。引き攣る頬を見るがいい。そして、歯車の会わないテニスコートのネットポールを無理やりに回す時のあの、ガチガチという振動を思い出すのだ。白くて毛のない頭に血管が浮きだしてくる。一体何が起きたというのだろう。汗が滲んでいる。震えは全身に広がった。

 180度回頭。各部はその命令に従おうとしているのだ。ただ、ほんの一点だけ、右回りなのか、左回りなのかというこの些細な一点についてのみ、各部の意見がまとまらないのである。つまり、アルビヤは、身体が捩じりん棒になる痛苦と戦っていたのである。

 何故、こんな事になってしまったのか。ボスの恫喝詰問が何かの呪法ででもあったというのだろうか? 否否。もう一つ否。

 この物語には時折荒唐無稽な登場人物が現れて、人知を越えた振る舞いで好き勝手を繰り広げてはいるが、そう猫も杓子も皆超人などでは、ニーチェだってたまったもんではないのであって、ボスは才能豊かな人物ではあるが、決して超人では無い。これは筆者の言葉を信じていただくしかないのだが。そしてまた、どれほど才能が豊かなのかを今ここで説明しているゆとりは無いが、それではあまりに一方的だと思うので、ただ一つ言えることは、刑事コロンボの「ああ…もう一つだけ、よござんすかぁ…えぇーとあれは…、たしかポケットにしまったんだが… あれ。無いね。ああ、トビーのやつだ。あいつ、しょうがない駄犬でねぇ。こないだも…」

 みたいな技法にも長けているのだという事である。取材に肝心なのは素敵なタイミングだ。そしてボスはその機を見るに敏だったので、声をかけるタイミングとしてはあれ以上のものはなく、そこに嵌まったからこそ、アルビヤの脳裏が一時的パニックを引き起こしたのだと、こじつけられなくもないわけである。


 …なんぞと甲冑の上から背中を掻くような説明にも飽きたとお嘆きの貴兄に、新しい展開に入ったことでもあるので、それを記念して、筆者の筆者たる権限を最大限に解放し、出血大サービスで、アルビヤの脳裏に起きていることを、記述してみたいと思うが、どうですかお客さん?

 異論の有る方は以下の一段落をはっしょっていただければよろしい。これまで筆者はリアリティーに寄り添いすぎるあまりに、貞淑すぎたのかもしれない。これからの時代は、前へ前へと出なければね。


2(筆者の意見)

 さて、現在のアルビヤの脳裏には複数本の記憶の紐がこんぐらがっていると言うことは前節で記述した。思えばあれも筆者しか知りえぬ事実だった。もしかしたら筆者は意外と、そこかしこで傍若無人に筆者権限を発動していたのかもしらん。もしそうだったら、「何が、前へ前へだ。今更。笑止千万な」なのである。今回四文字熟語が多いのは、しかしどういった風の吹き回しだろうか。風が吹けば桶屋が藻を刈るとはこれいかに?

 分かっていただきたい。筆者は恥じているのである。これまでの事件の分かりにくさは、事件そのものの分かりにくさだと筆者は信じていたのであるが、もしかしたら、筆者の故意の書き落としや、効果を狙いすぎるあまりの秘匿のせいだったのではあるまいか?  もしそうだったならば、読んでいただいている皆様に申し訳がたたない。分かりやすい物を分かりにくくするなぞという悪趣味を、普段最も毛嫌いしていたはずの筆者だったはずなのに、ミイラ取りがミニラになったようなものだ。朝三暮四、もういっちょオス。

 分かっていただきたい。筆者は恥じているのである。だがここまで書きついでしまったものを、放擲するのは、進退伺一通でどんな責任も果たせたと信じる汚職役人みたいなものだし、被害者を救えなかった刑事の償いは、やっぱり犯人逮捕に精出すことしかないのだとしたら、筆者は今後、読者に優しい物語を目標として書いていくしかないのだと思う。

 「現実の世界には筆者など存在しない」というのも信念の一つである。が、これは物語であり、私が書いている以上、筆者は存在してしまっているのだから、力んだってしかたがないのだし、これまでの調子で終いまで書いたところで、この事件の全貌は決して明らかにはならないだろう。

 方法はただ一つ。筆者が筆者たる位置より天下りて、作中の人物と同じ不便を甘んじて受けながら、このこんぐらがった事件の全貌を明らかにするよりほかは無い。なんだ。意外と単純な解決策だな。と思われる貴兄には以下の四文字熟語を送ろう。

 曰く、猟人卑小。

 意味は、貴兄の胸の内、いや脳の内にある、とだけ言っておこう。

 分かっていただきたい。筆者は… くどいから割愛する。ともかく、手だては決まった。筆者は、誰かこの状況を打開できる人材はいないかときょろきょろしているところである。

 個別の事情から距離を起き、しかも全ての事例の近辺をうろついていて、知的好奇心と忍耐力にすぐれた人材…

 はた、と筆者は手を打った。なんだ、ちゃんといるじゃないか。それぞれの事件を統括して全貌を明らかにしうる立場にいる人物。それはだれあろう、ボス。その人である。そうと決まれば、探偵登場、とばかりにボスの造形をより細密に始めなければならない。しめしめ。旨いところにボスを登場させておいたものである…


3(筆者の意見 2)

 筆者は今、有頂天である。これで続けていけるし、続けていく事が、これまでつきあって下さった皆様への罪滅ぼしにもなるのです。常体と敬体がまじっているのが悪文だなんて常識は、このさい置いといて下さい。素直な、心の叫びです。大体、小説家の気取った文体が嫌いです。わざと砕けた文体も嫌いです。読者なんて知らないよ、みたいな独りよがりも嫌いです。筆者は文章が嫌いですか? 私は変なおじさんではありません。そうです。私は、ボスになろうとしている筆者です。ボスは物語なんて書いたことは無いのです。専門は、報道記者ですから、以下の物語がルポタージュ風になるであろうことは、詮方ないことなのです。ボス。こうなると名前が、どうしても名前が必要となるでしょうか? それとも、ボスは「私」または「俺」の一人称で、物語を進めていくのが適当でしょうか? 一人称。そういえばこの物語は、かつて一人称で書かれていましたっけ。あの時は確か…

 或日野文之君! そうそう。今はアルビヤフミコレと呼ばれている、あの白い奴が、この複雑で、長い物語を語り尽くそうとしていたのではなかったでしょうか。でも、物語の主観者たる、いわば主人公がですね、「自分が何者なのか分からない」なんて物語は、だいたい複雑になるに決まっているんです。筆者はそれを効果的と踏んだのでしょうけれども、一介のサラリーマンには荷が勝ちすぎる使命でした。混乱の原因を、この不甲斐ない或日野文之君一身に帰し、身軽になったところで、筆者はボスと同化すべく、地道な掘り起こしにかかっているという訳である。もちろん、こうして別枠を設けていただいたからには、この人物造形と筆者お得意の移し身の術をご披露いたしてもよろしいのでござるが、それはあまりに冗長、かつ、そこまで、まったくそこまで剥き出しにするのも如何なものか、と。そんな奮闘記は、橋田、石田、両名に任せておけ、と。露悪文学は巷に溢れているぞ、と。お前の裸なんぞ見たくないぞ、と。いや、最近とみに″腰周りがふくよかになってきているところが、気持ちが悪いな、と。鏡ばかり見やがって、この転び太宰治めが。引っ込め大根。下手。下手。馬鹿。馬鹿。身の程を知れ!

 反省。そして二度寝。

 筆者がボスを発見し、それと同時に見失ったものがある。それを再発見したのは、筆者である。褒めてもらいたい。

「やはり、一度机を離れるというのは有効だね。お父さん」

 これは、或日野文之が学生時代、勉強に煮詰まった時に父を見舞った折り、眠る父を見つめていてふと呟いた言葉だった。違う。使う所が違う。今、こんなことを書いても、唐突なだけだ。そして恋はいつだって盲目だ。息子、或日野は、この「机を離れる」という言葉がどこから出てきたのか、ずっと経ってから気づいた。それは、父が過労で倒れたという事実から派生した言葉だったのだ。父はンリドルホスピタルに入院していた。もう長いこと。だが、それにしては、ンリドルホスピタルの記述に、父の姿は現れなかったではないか? あの病院、大丈夫ですか? 私どもはOK牧場です。院長は野望を抱いてA感覚の極致で命運尽きるわ、その院長に目をかけたのに、恩を仇で返された泌尿器科の千曲椹衛門はフリーズドライになるわ、可憐な少女夏个静ノは、明らかに無免許で診療行為に携わった挙げ句、今では釜名見煙だと認めているわ、運び込まれたきり出番の無い、塗料会社の未巳君は行方知れずだわ。こうなると、ずっと入院している営業部長の消息だって知れたものではないぞ。そうそう。忘れている事が多いな。彼らみんなの去就について、過不足なく明らかにすることなんて、できるのかな、ボス。

 おっと、つい挑戦してしまった。この混乱の原因を作ったのは、だれあろう、或日野君だというのに…

 はっ、と気づく。私は一体何を書いているのだろうか。


4(筆者の意見 3)

 ええ、もうしばらくお付き合いの程を。

 せちがらい世の中になりましたな。暮れも押し迫りますと、尾羽うちからした素浪人なんぞが、そこここのツケの払いに頭をかかえるもんでございます。武士は食わねど高楊枝なんてプライドはとっくに捨ててても、商売をしたところで、所詮は武士の商法、よる年波と不景気とには叶わずに、「不器用ですから」とうつむいたところで、世間の風は冷たく早く、ピウピウと吹きすぎていくだけ。ただ風が吹いてたただ風が吹いてた。と大概、こういう物語の結末というのは虚無を飾りたてておくというのが常套のようで…

 「ええいどうした筆者。年末の、もしかしたら正月の、忙しいなか、またはどこか太平堕落な、木枯らしの音に震えながら、もしくは日溜まりの炬燵でうつらうつらしながら、大事な、自分の、時間を、この、物語のために、費やして、やって、いる、というのに、一向に、話が、先に、進まなんじゃないか。どうなっとるんだね、君」という声が聞こえてきそうだ。いや、現に今、筆者はうなされて、机の上からがばと撥ね起きた所である。すいません。寝ていました。寝ている間に何か、不都合があったようですね。寝ている間とはいえ、筆者には責任が無いなんていえないなんて言わないよ絶対…

 あ、間違えた。不覚です。まだ私は目覚めていない、という意味で。

 さぁてと、困ったぞ。芝居の舞台は午後3時30分あたりで、連絡通路で会いまみえた前主人公と新主人公。これは俄に緊迫した場面になってしまっているではないか。ここで一発、「筆者、やれば出来るじゃないか」と思わせておかなければ、せっかく読み継いでいただいた読者にそっぽを向かれてしまうかもしれない。

 いや、それでもいいのだ。筆者はただ筆者のためだけに文章を紡ごう、という姿勢は、つまらないもんしか書けない駄目な書き手のナルシシズムに過ぎないのだから、断固として、筆者はここで、良いところを見せなければいけない、という点でも、緊迫しているのだ。

 しかし、今一度アルビヤを離れて、ボスの視点で彼を眺めてみると、つくづく、おかしな生き物である。だいたい、白くて毛がない、なんてお化けのQ太郎みたいではないか。前衛舞踏の一味ではないのか。この会社を大手を振って歩ける立場の人間とも思えない。そんな怪しい奴が、社外秘扱いの厚生部方面から歩いてくるのは、そもそも奇妙である。

 今回の騒ぎの元凶とはいえないまでも、異常事態において、通常とは違う何かが現れたならば、それは怪しいに決まっているのである。だが、とボスはもう一つの考え方にも目を配る。異常事態に際して、通常通りの何かが現れたとしたら、それはやはり怪しいのではないのか。

 ボスは相手の一挙手一投脚に注意を払いながら(つまりもう回れ右をし終えている)この二本立てで今回の騒ぎの要素を思い返していた。そもそも、今回の異常事態とは、

 数百名の社員の蒸発。

 敷地内に立ち込める霧の塊。

 朝の暴力沙汰と、地下駐車場での一連の騒ぎ。

 そしてこれらの異常から帰納的に類推して、二次的異常事態と思われるものは、

 唐突すぎる異動人事

 営繕準備室からのハッキング傍受。 

  ボスはこれらに敢えて序列を付けず、脳裏に宙ぶらりんにしておいて、再び現状への注意度を八割ほどまで上昇させた。

 注意度というのは、特別な単位ではない。人はみな、一度に複数の事柄を想起させ、処理しているもので、その時々に集中の度合いを配分しなおして生活しているものである。

 例えば、運転中に煙草に火をつける、だとか、手元が狂って火種が落ちるだとか、慌てて脚元を覗きながらシートの隙間に手をつっこむだとか、前の車が急ブレーキを踏んだ事に気づくだとか、ブレーキとアクセルを間違えるだとか、鈍い音がして首筋と腰に衝撃が走るだとか、思わず、ギアをRに入れるだとか、そして後ろの車に強制的に釜を掘らせるだとか、前後の車から同時にこわもての運転手が下りてくるのを、同時に見つけて引きつるだとか、責任と賠償と保険と命の大切さなどを考えつつ、先程までくわえていた煙草が無くなっている事に気づかない、という時などには、煙草への注意度が0になった、とこのように使うのである。

 あの白い奴は、ゆっくりとこちらを振り返ろうとしている。緩慢でありながら凄まじい緊張感を放っている。ボスは待つことにした。あの白い奴がそのまま反対方向に駆けだす事も、こちらに向かって突進してくることも無いだろうと思った。何故、そう思ったのかは分からない。ボスは、自分が存外リラックスしている事を自覚した。見知らぬ不審者と対峙しようとしている割には、全く平成な気分であった。ボスは首から下げている旧式なレンジファインダーのカメラをちょっと手にとり、目測で4メートル程に焦点を合わせると、そのままファインダーを覗くでもなく、また首からだらりと下げた。だが、カメラは先程までとは違い、どことなく生気を感じさせるのだった。かすかに、本当にかすかにモーターの駆動音が聞こえていた。このカメラ、実は動画も撮れるのである。ボスはこうした装置をいつも満載しているのである。タイラカナル商事における広報部の特異な位置とその任務を鑑みれば、さもありなんというべきである。

 白い奴の下半身がこちら向きになった。もうすぐだ。ボスは静かに、相手の動きを見守っている。


5筆者の憂慮(どうですか?)

 ここで緊急速報です。筆者はボスを新たな主人公に任命いたしましたが、そのため、不具合が生じました。すなわち、探偵は常に、事態の展開に遅れて登場し、最終的に、まくってまくって、勝利(かもしくは同着)にまで順位を上げなければならない、という原則による障害です。

 ここで、ショッキングなお知らせです。よい知らせと悪い知らせがあります。どちらから聞きたいですか? 悪い知らせから聞きたいあなたは…なんてやっている時間はありません。

 まずよい知らせ。「物語は真実の発掘者を得て、さらに進展することでしょう」

 続いて悪い知らせ。「探偵が真実を発掘するためには、これまでの経緯を、探偵自身の五感六感を駆使して、もう一度、そうです。もう一度、再検証しなければならない」

 お分かりでしょうか?

 筆者はさらなる進展のために大いなる迂回をしなければならなくなったのです。すなわち、冗談にしてもたちの悪すぎるほど、冗長な「倒叙方式」を採用せざるをえないわけです。さらに、付け加えるならば、本来「倒叙」とは、犯罪の方法および犯人をあらかじめ読者に開示した上で、探偵がその犯人と方法にたどり着くまでを記述する方式なのですが、今回の場合、いまだ犯人とその方法はおろか、いかなる犯罪が行われているのか、そもそもこれは犯罪に関する物語ではなかったのではないかとの疑問をぬぐい去り得ない状態であるにもかかわらず、「倒叙方式」を採用しなければならないということなのです。

 どうですか? これでもまだ、続きを読んでいただけますか? もちろん、物語の時間そのものを、巻き戻すわけではありませんし、ボスの操作中にも自体はずんずん進行していくことでしょう。ボスは追いつけるでしょうか。そして、追い越せるでしょうか?

 筆者の全般の協力をもってしてもなお、困難と思われるこの難題に、次回からは、ともに取り組んでいきましょう。なぁに、読者の皆様にとっては、ボスの発見も、ボスの困惑も、ボスの歓喜も、みんな委細承知のデジャブ体験に他ならないのですから、気楽に、ボスの奮闘振りをお楽しみください。

 といったところで、笑点、お開きとさせていただきたいと思います。それでは。また。

 あっと、もうひとついいですか? 最近どうも物忘れがひどくってねぇ。あの、新展開を始めるって、この間言ったんですけどもね、やっこさんがあのありさまで、もう、こりゃ、どうしよーもないってことになりましてねぇ。こんなこと、頼める義理じゃないんだが、いっそ次は、「空想技師集団 第二部」スタートってことで、ひとつよろしくお願いしますよ。かみさんもそのほうがいいって、いうもんでね。いや、かみさんなんて、本当はいないんですけどね。いや、どうもお邪魔さんでした。

 じゃ、またきます。何か思い出したらね。では。

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