2人とデート 2

 目の前をかぐやは目を輝かせながらピョンピョンと跳ねるように進んでいる。時折僕らが着いてきているか確認しているが、どんどん距離は離れている。


「やたっ、今なら冬春を独り占めだ!」


 先程こう呟いた茉優は僕の腕にべったりとくっついている。その表情があまりにも幸せそうだったため、僕も思わず笑顔になってしまっている。まぁ、ニヤニヤとも言えるが。ニヤニヤの方はなぜとは言わなくても分かるだろう。


「ねぇ、そこの綺麗なお嬢さん、俺たちと少し遊ばないかい?」

「え?」

「いや、遊ばないかい?」

「何言ってるの? 私は今デート中なんだけど」

「どいつと?」

「あの… あぁ! なんで二人で何か食べてるの!」


 僕と茉優が二人でクレープを食べているのに気付いたかぐやがこっちにやって来た。


「えっ、ちょっと、」


 ナンパした俺イケてる系三人組は目の前の光景に追いつけていないようだ。もしも僕がナンパしていたとしても、ほぼ無視された上に普通に避けられたらそうなるし、凹む。


「もう、私も食べたかったよぅ」

「だってかぐや先行っちゃうんだもんね~」


 かぐやを煽っている茉優が僕の唇の周りに付いたクリームを艶めかしい指の動きで取った。


「うぬぬっ」


 美少女が出してはいけないようね音を漏らしながら、かぐやはこっちを見ている。


 クレープを差し出してみると、ぱっと笑顔にしこっちに来た。うん、きっと機嫌は良いはずだ。


 あむっと大きく口に含んだ。予想通り、口の周りにはクリームが残っている。じゃあ、これは僕が取ってあげようかな。


「ありがとう…」


 恥ずかしそうにしながら、僕にクリームを取られるのを見て茉優は「んー、取るのもいいけど、取られるのも捨てがたいわね」などと呟いている。しかし、肝心のクレープは食べきっている。なんかされる前に次行こう!



____________________



 今僕たちは迷子になっている。


数分前


 クレープを食べ、商店街を後にした僕たちは彼女の住んでいた世界とは次元が違う本にかぐやが興味を持っていたため見に行っていた。そして、かぐやと茉優の可愛さからか、特別に地下の保存室まで入ることができた。


「これが我々の図書館が持つ最古の本になりますね」

「これで1番古い本なんですか。こんなに優れた本ですら私の、いえ今までに見たことありません」

「そうでしたか、お嬢さんはどこからいらっしゃったのですか?」


 紙質、文字など、どれをとっても別物にしか思えない本を前にかぐやは興奮し続けている。


 その時、突然脳内に声が流れてきたのだ。


『久し振りに別の人間がやって来たと思ったら、汝ら、ふた、三人は我らが住む世界に招待するに値する存在のようだな』


 何かが急に話し掛け、さらに何かを言い間違ったのか言い直していた。ちょっとしまらないんですけど。


 それでも怪奇とも考えられることが起こっているため、横を見ると二人ともポカンとしている。やっぱり、三人って言ってたし今のが聞こえたみたいだな。


 でも、何も起こんないなと思い、地下の保存室から出ようと扉を開けると、記憶をどんなに探っても見たことのないものが動いていて、賑やかな街が広がっていたのだった。


「うわぁ、大きな街だな。そして、うん、迷子だなぁ」


 見たことのないもの、それはエルフみたいな人だったり、獣人だった。街並みは、昔のヨーロッパとか西アジアの方とかで見られそうな感じがする。それら全てが僕たちは迷子であると伝えてくる。


「パカラッパカラッ」


 この音は馬かと思い、音のする方向を見ると鎧を着た人らしき姿が乗った馬が馬車を引いてこっちに向かっていた。


 なぜ自分たちの方に来てると判るかって? それは、馬の音がした瞬間に邪魔にならないように周りの人たちは避けていたからさ。


「来たばかりで状況把握がまだだと思いますが、どうか我々に着いてきていただけないでしょうか?」

「いや、変な人に着いて行ってはいけないので…」


 茉優がそう言った。もっともなんだけど、多分これは鎧着た人たちが可哀想になるから着いていった方がいいと思うよ…


「も、申し訳ない! 名乗りもせずに。我々は龍王様の使いのものでございます。この度、異世界から人を喚ばれたということで、迎えに来させていただきました」

「は、はぁ。冬春とかぐやはどうする?」

「僕は行っていいと思うよ」

「私は冬春に着いていくから任せる!」

「それでは、大丈夫ということで」

「うん、よろしくお願いします」

「かしこまりました!」


 ここまでで、あぁ、言語が通じちゃってると思われた方がいるかもしれないが、そこは能力なのです。念のためにとかぐやと茉優も完全言語理解をもらっているんです。


 こんな説明をしている間に僕たちは近衛騎士さんの紹介によると王城についたらしい。

馬が優秀で早過ぎるんですけど…


「それではこれからこちらの者に案内させます」


 そう言って頭を下げたのは執事というのが似合いそうなお爺さんだった。


「今、お爺さんなんて思われましたな?」

「えっ、ま、まぁ。すみません!」

「まだ500位しか生きてないんですよ。はっはっはっ!」

「ごひゃっ」


 あれか、人間ではない種族は寿命が長いとかそういうやつなのか。どう見ても、目の前にいる人は明らかに僕たちで言う70位にしか見えないのだから。


「かぐやが言ってた条件はもしかしてこれのことだった?」

「条件? うん、そうだよ。私も何処なのかまでは知らなかったからびっくりしたよ」

「冬春たちはここが何処なのか知っているの?」

「うん。恐らく竹取物語に出てくる蓬莱山とかそういうのがあるんだと思う」

「ここがそうなんだ」


 僕は茉優の質問に答えながら、五人の求婚者のことを考えていた。しかし、特に何かを考えていたわけでもなく、災難というか、自業自得というか、最悪な人たちというか、そんなことだ。


「到着しました。この扉の先が玉座のある部屋となります。敬意については龍王様より、敬意?そんなのいらないけど?と聞いておりますので大丈夫だと思います」


 執事さんが手を軽くパンと鳴らすと、扉の両側に控えていた騎士が扉を開け始めた。


 これから、謁見の始まりだ。

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