家族会

「おーい、冬春ー。授業終わったぞー」

「宏樹?」

「そうだ、お前さんの愛しの宏樹さんだよ」

「何言ってるんだか」


 時計を確認する。現在時刻は16:00。最後の授業も終わっている。やばい、寝過ぎた。休み時間も全部寝てたってことなのか?


「冬春くん、随分と眠たそうだね」

「え、えぇ、まぁ」


 横を見ると担任の雫先生がいた。彼女は今年29になる国語の先生だ。穏やかで、緩く可愛らしい人なのだが、アラサーだ。両親からお見合いの話進められ過ぎて困ってるらしい。


「午後は私が6、7と授業だったらからまだ良かったけど気を付けなさい」

「全然良くないっすよ~、雫ちゃん」


 クラスで浮いているオラオラ系男子生徒の克己かつき弘泰ひろやすはじめの3人がニヤニヤしながらこっちを見ていた。


「先生も気を付けないと、こいつの女に噛まれちゃいますよ~」


「わ、私は噛まないですからね?」


 茉優が心配そうに雫先生のことを見詰めている。彼女もなかなかの優等生だから、気にしなければならないからな。


「そうであることを祈るは」


 そう言って先生は去って行った。


「もう! 冬春帰るわよ!」

「分かったよ、帰ろうか」




____________________




「ねぇ、冬春、あの娘とはどこで知り合ったの?」

「どんなに有り得ない話でも信じて聞いてくれるなら良いよ」

「勿論、ちゃんと聞くわ」

「僕が竹取物語好きなのは知ってるよね。で、自分なりに解説とか書いていたら、ある神様が僕に興味を持って、」


 神様という言葉を出したとき僕は茉優の方をちらっと見た。これが第1の有り得なポイントなのだから。


「こっち見なくても、ちゃんと最後まで聞くから」

「ありがとう。その後はほとんど毎晩その神様と話していたんだ。でもある日、神様が僕にかぐや姫が天に昇っちゃう最後なんて嫌いと言い出して、物語の世界に行くことになった。そして、救って一緒に戻って来たのが、かぐやっていうこと」



「あれ? 茉優」

「何?」

「今の竹取物語ってどうなってるの?」

「どうなってるって、最後は天に昇ってくけど、それが何か?」

「…、いや、それなら良いんだ」


 頭の中でタケトリ様に向かって念を送る。内容が変わってないというのはどういうことなのか説明してもらわなければ。


『タケトリ様ー、お暇だから全部聞いてたでしょう?』

『うっ、確かに聞いてましたよ。その事なんですけど、兄に止められて変えられませんでした!』

『そうですか。僕は自分の所にかぐやがいるから良いですけど、タケトリ様は良いんですか?』

『私もかぐや姫と直接話せるし別に良いかな』



「冬春、家着いたよ」


 今日の自分の家は、嵐の前の静けさのようなものがある。これから起こる嵐はどれ程の威力を持っているのだろう。


「お~い! 茉優ちゃ~ん! 冬春~!」


 なぜか家庭菜園している方から父さんの声が聞こえてくる。きっと幻聴だろう。今日は仕事のはずだからな。


「あ! お義父さん、こんにちは!」

「こんにちは! じゃあ、メインも揃ったしそろそろ切り上げますか。健吾、面白いの始まるから中入ろう!」

「了解!」


 そういうことだったか。さすがに早く家に帰って来ると言っても、せいぜい18:00頃だと高をくくっていた。まさか、既に帰ってきて庭仕事をやってるなんて。


 それよりだ。なぜ茉優は父さんをお義父さんだなんて呼んでいる。そして、なぜ父さんはそれをすんなり受け止めている。それで僕は内心焦ってるんですが。




____________________




「えー、開始条件、出席者4名以上。これは私と柚葉、秋夏、健吾に春さん、そしてメインの冬春、かぐやさん、茉優ちゃん。以上8名の出席を確認した。よって、第1回宵家家族会を開始する」

「パチパチパチ」


 流れでつい拍手してしまった。他の人もそうだったのか、はっとした顔をしている。


「本日の議題はかぐやさんの登場である。では、冬春。経緯を説明しなさい」

「分かったよ。僕はもともと竹取物語が好きで自己流の解説とか書いていたら、タケトリ様という、かぐや姫が天に昇る最後が気に食わない神様に興味を持たれ、竹取物語の世界に入ってかぐや姫を救うことに」

「えっ、それがかぐやなの!? お姫様じゃん!」

「秋夏、静粛に」

「はい…」

「秋夏が言った通りで、今に至ります。以上です」

「かぐやさん、今の答弁に間違いはありませんね?」

「1つ訂正があります。ただ戻って来たのではなく、私たちはあちらで挙式しております。以上です」


 ここで、茉優から何か来るかと思ったが、何も来なかった。既に学校で聞いた事実だからよかったのだろう。


「それでは、これより質疑応答に移りたいと思う。では、健吾より時計回りとする」

「私からは、既に初夜は経験したのかです」


 いきなりぶっ込んできたな、健吾さん。姉もいるのにあんまり言いたくないけど、ここで黙秘権なんて通用しないから仕方が無いか。


「しました」

「へぇ」


 母さん、頼むからニヤニヤしないでくれ。そう思って周りを見たら、口と目をしっかり開けている茉優以外はニヤニヤしていた。


「それでは次、春さん」

「はい。私からはお互いの良いところを3つずつ言って貰いたいと思います」

「それでは、冬春」

「えっと、まず可愛い所。次に料理の腕。最後は笑顔です」

「うぐっ、私にもそれ全部あるばすなのに… 冬春、私にも3つ言って!」

「茉優かぁ、そうだなぁ、気が利く所、笑顔が可愛い、って父さん何で止めないの!」

「父さんではなく議長だ。そしてその質問の答えは私の興味故だ」


 かぐやは今顔が凄いことになっていた。僕に褒められて嬉しくなり、綻ばせていたが、茉優の事を褒めたことにより大変な状態になってしまった。申し訳ない。


「それでは、かぐやさん」

「はい。私からは天人から救ってくれた、雑務もしっかりやる、男らしい。この3つです」

「それでは、秋夏」

「私? そうだなぁ、んー、これから冬春は茉優をどうするの?」

「えっ、それは全く考えてなかった…」

「男だったらしっかり決めときなさいよ」

「うん」


「次は柚葉と行きたい所なのですが、私と柚葉は会議の進行の遅れにより抜かせていただきます」


 よっしゃ! 僕はつい小さくガッツポーズをしてしまった。あの2人からの質問はどんなのが来るか全くよめないから、恐怖しかない。


 これで家族会は終わりかな?


「えー、それではこれより進行権をメインの3人に渡したいと思います。賛成の者は挙手をお願いします」

「ばっ」

「賛成7人により可決されました。それではお願いします」


 終わりじゃなかったぁ。僕以外全員挙手って終わらせる気ないな。


「冬春、その女とそんな関係になってたなんて。私が尋ねた時に答えてくれても良かったじゃない!」

「それはごめん」

「私は、ずっとそこに居たかったのに、奪われた事すら教えてもらえなかった…」


 今、茉優の後ろに何かが見えた気がする。ほら見えたっ! 般若だ。まさか、そんなはずは、あった。まじで、般若のオーラがある。


「茉優、だったら私が正妻となりあなたが第二夫人にでもなればいい。そうじゃなければ諦めるか」


 おいおい、かぐや何言ってるんだ? お前には茉優の後ろに見える般若の姿が見えないのか?


「おい、かぐや何言ってるんだ?」

「私の住んでいた世界では一夫多妻なんてありふれたものだった。少しでもそこの世界の住人だった冬春がやって駄目なはずがない。イスラム教では大丈夫らしいし」

「いやいや、なんか罪悪感あるから!」

「それ…、良いかも」

「おい、茉優?」


 まさか、お前は反対するよな。こんなの嫌だろうし、おかしいからな。


「やっぱり駄目! 私が正妻よ!」

「「「「「「そこっ!?」」」」」」


 全員がツッコミを入れた。日本人として有り得るはずのない一夫多妻。その事に文句ではなく、自分の立場に文句だと。なんてやつなんだ。


「先に結婚している、私が正妻に決まってるわ!」

「結婚って年齢は、昔だったら大丈夫なのか」


 茉優はポンと手を叩いて納得している。


「でも、冬春といた時間なら私の方が断然長いわ!」

「この分からず屋!」

「何よ、このあんぽんたん!」

「二人とも落ち着いて」

「「黙ってて!!」」

「はい…」


「カンカン」


 急に音がして全員の視線が一カ所に集められた。父さんが木の筒みたいなのでテーブルを叩いたのだ。


「静粛に。それでは判決を下す」


 判決とは。これって裁判じゃなくて家族会のはずなのに、それが何で裁判風になっているんだ。


「かぐやさん、茉優ちゃん。両者ともに冬春への愛は強く、優劣を決める事は出来ない。よって、両者共に正妻とする!」

「茉優、あなたはいいライバルになりそうだわ」

「そうね、あなたこそね」


 茉優とかぐやは激戦を戦ったライバルのように握手をしている。僕の意志はどこに行ったんだ? ほとんどかぐやだったが、少し茉優に揺れたのは事実だ。その点では、決めてもらえて楽と言えるか?


「これで、第1回宵家家族会を閉じる。お疲れ様でした」

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