予想外
「すとんっ」
おっ、着いたかな。感覚が戻ってきた。そして、周りには、机、たたんである布団などがいつも通りにある。
戻ってきたんだ。ここを離れ、竹取物語の中にいたのは、あっちでの時間で2週間くらいだったはず。こっちではどれくらいなのかな?
『2時間だよ~』
あ、タケトリ様。そんなに時間経ってないんですね。だいたい、1週間で1時間ですか?
『うん、そんなところ。そうだ、かぐや姫は、君のために、今熱心に言葉覚えてるから待っててね~』
『ありがとうございます』
君のためにという部分は明らかに強調されていた。タケトリ様も嫉妬してるのかな。
今ここにはまだかぐやはいない。僕は、完全言語理解があったから通じていたが、彼女の古典的な話し方で会話が成り立つのはいないだろうからとタケトリ様の元で、言語と基礎知識を身に付けている。
「かぐやに早く会いたいよ」
虚空にぶつかって呟いてみた。もう、少しも離れたくない。
『お~い、冬春くん!』
『は、はい?』
『言い忘れてたけど、帝も来てるからね?』
『はい? 今なんて?』
『いや、帝も来てるからね~』
『ど、ど、どうしてでしゅか?』
動揺し過ぎた。しゅってかんでしまった。かぐやは永遠の命と代償に来た。じゃあ、帝は何を代償にして来たんだ?
『その疑問に答えよう!』
『心を読まれた!?』
『仮にも神だぞう? 余裕なのだ! それより、帝はかぐや姫を想う気持ちの強さゆえに、帰還を聞いた瞬間に不死の薬を飲んで、永遠の命と引き換えに来たんだよ~』
『そうなんですか…』
『帝の家とかはどうするんですか?』
『それは今話そうと思ったんだけど、冬春くんの家に!』
僕の名前が出てきたと同時に、神様を諭すような眼で凝視した。さすがに、睨みつけることなんて出来ないからね。
『うそうそ。嘘だから、そんな目で見ないでよ、新しい何かが目覚めないよ。ひゅ~、危なかった。帝は、天皇家に頼んだから安心して。尋ねられる前に言っておくけど、天皇家は神という存在を知っているからね。だから、帝は東京都に転移! あ、でも、かぐや姫に会いたくて冬春くんの方に行くかもね』
良かった~。帝には絶対に来て欲しくなかった。あの人と仲が悪い訳ではないけど、なんか喧嘩腰だからなぁ。
どっちにしろ、こっちに来る可能性はあると。
帝の天皇家での立場は、どうなるかはこれから判断されるんだろうな。
今は、夜の12時。確か、木曜日だったはずだから明日も学校に行かないとか。予習は、良いかな。明日、凄く休みたいよぅ。
「がらがらがら」
「ただいまー」
あ、父さんが帰ってきた。久しぶりに声聞いたなぁ。そうだ、玄関に行ってかぐやの事言わないと。
玄関に向かうと母さんが父さんのコートを受け取っていた。
「おかえり、父さん」
「ただいま、冬春はまだ起きてたのか。ん?
「寝てるんじゃない?」
秋夏とはもうお気づきの方も多いだろうと思われるが、僕の姉だ。双子の。
ここで容姿に触れておくと、僕は身長は176で顔は父がイケメンなおかげで悪くはないはず。体も鍛えているから、筋肉質だと思う。姉は、160位でかぐやと同じくらいだと思う。顔は、こっちは美形。かぐや姫級と贔屓目抜きで言えると思う。まぁ、ちょっと高嶺の花感が強いけど。体型はスレンダー。あ、でも胸は、Cあるもん。と以前から言っているので信じよう。
「まぁ、秋夏がこの時間帯に起きてることは珍しいからね」
母さんの声も久しぶりだな。僕がこう思っていることを伝えたら不思議がられるのかな。言わないでおいとこう…
そんなことを思っていたら、父が尋ねてきた。
「それで、冬春。かぐやさんの事はいつ言うのかな?」
「へっ?」
「あ、それ、私も気になるわ」
えっ、何でこの二人はかぐやの話を始めてるんだ?
まだ、かぐやの事なんて口にしたことないはずなのに。そうか、僕が竹取物語を愛読してるのは、内容げ好きなだけでなく、かぐやに淡い恋心を抱いていたからと見抜いていたのだな。そうだな。
「違うよ」
今のタケトリ様の声は頭に直接響くようないつもの感じではなく、目の前にいるかのように感じられた。違う、実際に目の前にいた。
「冬春くんの両親にはもう説明しているよ」
「えっ?」
「そうなんだよ、最初に説明されたときは、本当にびっくりしたんだぞ?」
「あっ、春ちゃん達にはもう言ってるわ」
準備というか何というか、取りあえず早過ぎなんだけど。あなたたちの適応力にも感服するよ。目の前にいるのは神様だよ?
僕まだ、かぐやについて一言も話してないのに。恋人の僕から紹介するが、筋ってもんじゃ…
『いや、私が言いたかったから、関係ありませーん』
ちなみに春ちゃんというのは使用人の人だ。夫の松下健吾さんと共に働いてくれている。松下家として昔から働いてくれているみたいだ。家がそこそこ大きいこともあって、僕たち4人だけの手では届かないところがあるからとても助かっている。
『おーい、無視しないでよぅ!』
タケトリ様は目の前にいるのにあえて脳内に話し掛けてきた。勿論スルーはやめないが。そんなことより、話を進めないと。
「かぐやの事は彼女がこっちに来てから話すよ」
「あら~、もう名前呼びしてんの~? 良いわね~!」
母さんは小さい子どもを見るような、受けてる側がダメージを被る視線をぶつけてくる。
「冬くんもまだまだ私の赤ちゃんね!」
「ふ、冬くん呼び!」
ぷぷっとタケトリ様は笑っている。さすがにそろそろ多少は仕返しても罰は当たらないよな?
『大丈夫です、ぜひとも我が妹を懲らしめて下さい』
脳内に聞き覚えのない声が響いてきた。脳内に響いてきたということはタケトリ様と同じ神様なのか?
『はい、兄で狩猟の神です。そうですね… 金髪勇者とでも読んで下さい』
間違いなくあの女神の兄ですね… センスが無いと言われる僕すらも口を開けてしまう程のものだ。しかし、金髪勇者は僕の知識では異世界転移こそするが、調子乗ってすぐ終わる奴なのだが…
『では、魔王はどうでしょう?』
『いや、神様を魔王と呼ぶのはさすがに気が引けます』
『ポンコツラーメンはどうでしょう?』
『自覚あるんですね…』
『まぁ、妹に言われますね』
『いや、妹かよ! すみません』
『いえいえ、それではゲンジ様というのはどうでしょう?』
『ゲンジとは、源氏ですか?』
『はい』
『ぜ、ぜひそれでお願いします』
はぁ疲れたぁ。最後にまだましなのが来て良かった。
2人揃ってなかなか強烈な神様だった。それはさておき、タケトリ様に仕返しと行きますか。
「ぞわっ」
「ど、どうしたんだい、冬春くん」
タケトリ様が普通に話し掛けたことで父さんたちがこっちに反応してしまった。くそっ、だったら念話で。
『絶対に仕返ししますよ』
『そんなことしていいの? 私神だよ?』
『狩猟の神様から許可貰ったので』
『…』
黙ったな。沈黙は肯定と判断して、後で絶対に仕返しをしてみせる。
「冬春、話の続きは明日やろう。飲み会断って帰ってくるからさ」
「いや、行ってきて良いよ…」
「私も出来るだけ早く帰ってくるから、ね?」
もう寝よう。帰ってきてからが、1番疲れるってどういうことだよ。普通、旅行先で疲れてその疲れを取るのが家じゃないのか。
「おやすみなさい」
「「はーい、おやすみ~」」
『冬春くん、おやすみ』
部屋に戻ってきた。明日の勉強やったんだっけ。やってなくてももう出来そうにないな。純白の布団が強大を魔力を放ってくる。堕ちてしまうしかない。この柔らかさ、久し振りだ、
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「冬春くん、起きて。起きてよ!」
「ん~、誰?」
「私! かぐやだよ!」
かぐや。待ち焦がれていたその言葉は深い眠りに落ちていた僕を一瞬で呼び起こした。その勢いで布団を上げてしまい、乗っかっていたかぐやを倒してしまった。
「かぐや、ごめん!」
「ちゅっ」
突然視界の中いっぱいにかぐやの顔が広がり、その柔らかい唇が僕に触れてきた。体が芯から全て溶けてしまいそうなくらい甘く感じる。頭はかぐやという色で染まってしまった。
「これで許してあげる!」
「ありがとう!」
かぐやが浮かべた嬉しそうな紅い顔と、その黒い髪と似合ったネグリジェの薄さがあまりに蠱惑的で僕は彼女を倒しそうになった。
「来ないの?」
「うっ… 行きたいんだけど、家の中だと響いちゃうから我慢しないと…」
「そうなのか、じゃあ、タケトリ様に防音のスキルでも貰おうよ!」
「そうしよう!」
そうだ! 今の僕にはステータスという概念があるんだ。だったら、それを利用しよう。ただでくれるか分からないから、仕返ししないことでも条件にすればきっと。
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