現実世界に帰るまで

「冬春くんはどこから来たの?」


 かぐやとはキスした次の日から一つ屋根の下で一緒に生活している。竹から金などが出てきたこともあって大きな家に住んでいるため、一つ屋根という表現が当たっているかは分からない。


 今日はあれから2日目。その朝食の中で使用人などが慌ただしく動いている時に、彼女は解き放った。


「最初に来ていた服って、今まで見たこと無かったんだよね」


 がたっという音を最後に、急に物音が全て消え去り静寂の空間がやって来た。


 あー、これ皆気になってたんだ。多分、僕が何時までも話さないけど、かぐやと良い雰囲気だから聞けなかったのか。そんな中、かぐやが尋ねたからつい立ち止まったと。


「うーん、説明しにくいんだけどね。端的に言うと別の世界からかな」

「別の世界?」

「うん。別の日本から。神様に連れて来られたんだ」

「そうだったんだ! 神様にも会ってるんだ?」

「書物の神様だけどね」

「あー、あの神様か!」


 何でかぐやに通じてるんだと思ったら、彼女は月の人。別名 天人。神様とのなんらかの繋がりあったとしても不思議ではないか。


「ところでさ、かぐやに求婚した中で、最後まで粘った人が5人いたよね?」

「あれ、そうなの?」


 失言した。彼女は天人に渡された羽衣で記憶を失っているのだった。分からないことを問うのもなかなか酷だから、ごまかそう。


「ううん、勘違いみたい。 じゃあさ、蓬莱って言葉は知ってる?」

「知ってるよ?」

「それって実在してるの?」


 かぐやにどうしても尋ねてみたかったことの一つだ。恐らく、5人の求婚者の事も知っている翁達も気になっていただろう。


 もし存在するとしたら、それは大問題であり大発見となる。


「実在してるし、入口だけはこの星にあるよ。けど、資格を持った人がその真上で呪文みたいなの唱えないと顕れないんだ」

「へぇ、僕にはありそう?」

「んー、どうだろう。実際に行ってみないとかな」


 行けるかは分からないと。でも、実在するというのを知れたのは大きい。男のロマンをこれでもかとくすぐってくる。


 龍も存在するんだろうなぁ。男なら誰しもが一度は憧れ、様々に書かれているそれ。実物見てみたい!


____________________



 さらに二週間過ぎた。その間、僕はこの物語の生活習慣(主に貴族だけど)を体験することが出来た。世の中にこれを出来るのは僕だけだと断言できる。


 僕はただ食卓をかぐやや、翁達と囲むだけではなく、使用人たちに交じって、掃除、料理など雑務もやって来た。最初はなぜやっているのと疑問視していたかぐやも今では一緒に雑務をこなしている。


 一緒にいる時間は本当にあっと言う間だった。彼女との仲は大分深まったと思う。


 因みに、完全に余談ではあるが、なんと初夜を経験してしまった。この世界では普通らしく、僕たちが恋仲になっているのでしたのだ。その時の彼女の表情は扇情的と言えた。

彼女の顔は紅潮し、息を荒げ、耳元に届くそれは言葉に出来ない程、僕の内に潜む獣を呼び覚ました。その時に感じた彼女の躰は、柔らかく、最高だった。それ以外では表現出来ないと思う。



 話が逸れました。今何よりも考えなければいけないことは後2時間で現実世界に帰るという事だ。






「書物の神様、わ、私も冬春と行かせてください!」


 目の前にいるかぐやはなんと言っているんだ。


 一瞬理解が出来なかった。彼女は僕と一緒に行きたいと言っているんだ。これほど男として喜ばしいことはあまりない。好きな人が自分が良い、自分と一緒にいたいと言ってくれる。承認欲求がどうとかそんな話ではない。

 なら、僕もそうなるよう努力しなければ。


「冬春くんが戻るのは絶対なんだよ。私が変え続けるにも限界がある」

「そこに私も一緒に…」

「かぐや姫、君の肉体であっちの世界を過ごすには寿命が人間と同じになるよ?」

「愛しい人のいない世界なんて、長く生きても意味ありません!」


 かぐや、嬉しいことを言ってくれるよ。だけど、こんなに感動する場面のはずなのに、なんで。何でなんだ!


「何で、かぐや様はここにいるんですか!!」

「えっ、気合い?」

「気合いって、」


 この神何言ってるんだ… それが出来たのならもう少しスムーズにかぐやを奪還出来たのに。あ、でも、ああなったからこそ今のかぐやとの関係があるかもしれないのか。くそぅ、恨めない。いや、神様を恨んでは駄目か。


「かぐや姫、君の返事の早さ。覚悟はあるんだね?」

「勿論です」

「オッケー! 私も君のファンだから大歓迎さ!」


 今までの厳格というか、神の威厳を伴った態度は一瞬で消え去り、通常運転に戻った。


「かぐや様、衣食住とかってどうするんですか?」

「それなんだけど、戸籍とかは私が用意するよ。だけど、冬春くんの周囲の人間にかぐや姫が元からいた、ということにするのは無理なんだ。どこかで必ず矛盾が生じるからね。だから、そこは冬春くんの許嫁で転校してきたって事にしてもいいかな?」

「それくらいなら、全然問題ないですけど」

「それと、家。これは、冬春くんの家結構余裕あるし、和だし、楽だから、そこで良いかな?」


 少し自慢になるが、父親はある大手企業の生みの親のひ孫であり現社長なのだ。したがって、家もそれなりで使用人なんかもいたりする。家は祖父の拘りで和を全面に出した家にっている。


「僕は大丈夫ですけど、かぐやは?」

「冬春くんの家!? もう是非是非!」


 かぐやは凄く乗り気みたいだ。神様も会話したかったみたいで喜んでいる。


「かぐや様以外に呼び方ないんですか?」

「私もそれ思ってました! 自分と同じ名前の神様がいるってのはちょっと…」


「んー、それじゃあ、タケトリ様で!」

「それで良いんですか?」

「うん! おっ、そろそろ準備も終わりそうだし時間だね。挨拶は済んでいるかな?」


 失恋をした帝も最後ということなので、我慢出来ず訪れている。ということで、一応既に知り合いへの挨拶は終わっている。勿論、例のごとく、翁達は今号泣しております。


「「はい!」」

「それじゃあ、レッツゴー!」

「お父様、お母様、今までお世話になりました!」


 彼女の記憶の中に、翁たちとの記憶は無い。しかし、それでは彼らがあまりに切なく可哀想に見え、かぐやにそういうことがあったとだけ教えたのだ。


 記憶こそ無いものの、それでも、娘にお父様、お母様と呼ばれた彼らは声を上げて泣いている。僕からもありがとうございました。

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