経緯

 僕は男子高校生だ。一応運動部にも属し、クラスの輪にも入れている。ここまでは、僕がいかに普通かということを書いた。しかし、しかしだ。一つだけその普通さを揺るがすものがある。竹取物語が好きすぎて(特にかぐや姫がだが)読みまくっていたら、神様に目を付けられたしまった。というか、まず、神様って実在するんだ、から始まったんだけどね。

 神様は何人もいるそうなのだが、その中でも僕の知り合いである自称かぐやの神様は暇らしい。かぐや様は、それが理由で読書を趣味にしているそうだ(因みに、人類が書いてきたほとんど全ての本を読んでいるそうだ)。特に竹取物語が好きなのだが、それを愛読し、自己の考えを持つ人間が最近いなかったそうで、諦めようとしたら僕を見つけたらしい。



 そして今に至る。


「いや~、本当に竹取物語は最高だね!」

「かぐや様、僕と話す時毎回それ言いますね」


 これは本当になのだ。このお方は、毎度毎度、飽きることも無く最高と言い続けている。


「でもさ、冬春かずはくん…」

「何ですか?」


 あれ? いつもの感じじゃない、なんか、困ってるのか。


「あのぅ、最後ってあれじゃない」

「最後って、竹取物語が、ですか?」

「うん。あの、かぐや姫が天に帰っちゃうやつだよ」

「あー、確かにかぐや姫ファンとしては残念に思いますね」


 僕は最初にも言ったが、かぐや姫が好きなのだ。そのかぐや姫が最後まで登場し続けない事は本当に残念に思っていた。それでも、竹取物語自体も好きだから読み続けているんだけど。


「だよねだよね、じゃあさ、救ってきてよ!」

「へっ?」


 今、なんて言ったんだ。


「だーかーらー、救ってきてよ」

「ど、どうやってですか?」

「いや、冬春くんに力あげるから入って救って来てよ。そしたら、救った後も力はあげるし、勿論竹取物語自体の内容も冬春くんがやった通りに直すよ。何より、かぐや姫の実物に会えるよ!」

「えぇ! それ本気で言ってますか?」

「本気だよ!」

「かぐや様が行くのでは駄目なんですか?」

「うーん、私、あんまり干渉できないだよねー。やり過ぎると怒られちゃうし。」

「じゃあ、やります」

「うん、その返事を待っていたよ」


 折角、かぐや姫の実物に会えるチャンスなんだ。例えるなら、握手会。自分の押しのアイドルとの握手会なのだから。




____________________


 


 んん、あれ、ここは何処だ。さっきまで握手会の話をしていた場所は我が部屋。今いるのは外だ。しかも、いつの時代だよみたいなって…あぁっ思い出した!


「あの神めぇ、何の準備もさせずに転移させたなぁ」

「お~い、聞こえるか~い?」

 この声はかぐや様だ。


 この鬼畜な神には、冷たい対応がとてもお似合いだろう。


「聞こえてますよ、」

「よし、それじゃあ説明しよう! 冬春くんにあげた能力は完全言語理解に膂力など基礎能力アップなのさ。じゃあ、頑張ってね。良い結末を待ってるよ~」

「いや、簡潔過ぎですよ! せつめ『ぶつっ』」


 かぐや様の対応にはちょっといらいらするが、心配だった能力面も補強されたみたいで出来る気がしてきた。絶対に愛しのかぐや姫は救ってみせる。


 でも、天人が現れると何かに当てられて行動出来なくなるだったよね。大丈夫なのかなぁ。




____________________




 絵で見たことがあるような屋敷の前に転移した僕はそれに見覚えがあるのを感じ、惹き付けられていた。


「やっぱり、これがこれから始まるあの舞台だよね」


 続々と兵が集まり(なぜか帝らしき姿も見かけたが)、屋根の上などにも配置されているから間違いないない。そして、これはもうすぐかぐや姫が連れて行かれる事も意味している。


「折角チャンスを貰ったんだから無駄には出来ないな」


 そう言えば、かぐや様はやっぱり神様だったんだな。僕がこの世界に来られているわけだし。


「はああぁ~、眠くなってきた。どうしよう」


 僕とかぐや様が話している時間帯は基本的に夜なのだ。よって、自然と僕の体は睡魔に抗おうとしなくなる。こんなことなら、睡眠に対しての力でも欲しかった。


「いや、それは人間の生理現象かなと思って止めたんだけど」


 あっ、繋がった。そして切られた。


 もう、あの神様はいいよ。手助けは力を与えて物語に入れるところまで。十分なのさ。別に不安でなんかないから、ね。


 月がこれでもかと言うほど、明るく照っている。これから、起こる事を見るためにそうしているかのように…




____________________




「んー、はっ! 寝てしまった! 状況はどうなってるんだ!?」


 まるで事はもう過ぎ去ったかのような空間を感じ取り、焦った僕は、ジャンプをして(屋敷の上までひとっ飛び)、中を見下ろすと、全員が空のある方向を見て、涙を流している。


 こ、これは…完全に寝過ごした。どうしようぅ。

 くそっ、取り敢えずその方向に走ってみるしかない。


「あれ?」


 随分と優雅に昇って行きたかったのか、まだ全然視認出来る範囲に車があるではないか。


 空でも走れたら、届くのか。でも、そんなスキルは無かったしなぁ、


「『空翔』を覚えました」


 頭に若干かぐや様に似た機械風な声が響いてきた。それはさておき、かぐや様ナイスサポートです。これであそこまで行ける、はず!


 空中に足を差し出し、体重を預け、


「か、駆けてる、空を!」


 そこで、頭を駆け抜けるあの歌。


「○○にあっこが~れて~、○○をかっけ~、いや、それどころじゃない!」



 よし、追い着いた! 後はこれを押し返せば良いかな?


「おりゃっ!」

「ずどんっ」


「えっ、嘘っ~!」


 まじか、力強くなり過ぎてる。押した部分は明らかに破損し、車は昇る時の速さからは想像できないほどに猛スピードで来た道を戻っている。

 このままじゃ、屋敷にぶつかっちゃう。間に合えっ、



 間に合ったぁ、良かった。あれ、なんか、立派な服装した人が丸くなってる。これって、首飛んでったりはしないよね。


「大丈夫でしたか?」


「え、えぇ、大丈夫です。帝も問題無かったでしょうか?」

「う、うむ」


 み、帝だとっ! というか、竹取物語は物語だから、この帝は誰々とかはないのか。でも、やっぱり一応敬意は払った方が良いよね。


 まぁ、二人とも大丈夫そうに答えたけど、腰抜けてるし、膝笑ってるけどね。

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