物語のすゝめ
鶯
念願との出会い
緊張によりピンと張られた空間。シーンという音が聞こえてくるそこでは、多くの兵を引き連れ、当初余裕を持っていた帝でさえも徐々に口数を減らしていた。そしてそれは他の者も同様だった。
しばらくして、天を下りて来る煌びやかな何かが現れた。かぐや姫を護ろうとする誰もが、あれが例の迎えだろうと確信した。その中で、特に目立っていた唯一の車の中より、王と思われる一層宝石などに覆われた装いをした人が出て来た。
「愚かな人間であるお前、かぐや姫を出しなさい」
この高圧的な態度は話し掛けられた翁の怒りに火をつけるかのように思われたが、つい先程まで、これでもかと言うほど表情を険しくしていた翁の顔には一切の反抗、抵抗、それに並ぶ感情を感じられない。そうではあったが、大切な我が娘を盗られまいと煮えたぎらせた思いだけで行動だけは止めていた。
「お、お前達、矢をつがえよ!」
他の女性よりも一層思い入れが強く、おそらく、いや間違いなく生まれて初めて自分の手中に収められていないかぐや姫への思いの強さ故か、帝はどうにかそう命令した。
しかし、天人の尋常ではない何かに当てられた者たちで命令を実行出来たのは、既に武功を上げていた極一部だけであった。だが、それらが放った、戦場で会ったならば恐怖する矢すらも、天人に近付いた瞬間に急激な失速をし、墜落した。
「さあ、かぐや姫よ。いつまでこの様な穢い人間世界になどいるのですか」
その瞬間、
「すぱっ、すぱっ、ばん」
護る為に堅く閉ざされた扉という扉は、何の抵抗も無く、ただただ開いていった。そして、嫗が抱いていたかぐや姫は表に出てきた。そして、翁や嫗の方を振り返った。
「私のほうでも、とても悲しく残念に思っております。しかし、私は帰らねばなりません…」
等々言い、手紙と不死の薬、今まで着ていた衣を置き、車に乗って昇って行った。
「かぐや姫…」
翁、嫗に帝を始めとし、様々な人たちが涙を流し唇を噛み締めながら、かぐや姫を思っていた。永遠の別れを惜しみ、しんみりとした雰囲気が流れようとしたその時、
「ずどんっ」
車の方から何かがぶつかる音がするではないか。その場の皆がそちらを見ると遥か遠く昇っていたはずの車がこちらに飛び戻ってくるではないか。
「に、逃げるんだっ!」
誰かがそう言った。
「う、うわぁ!」
多くがその場から大きな正門めがけて走り出す中、一人物思いにふける者がいた。
「帝、危険です! すぐにでも離れましょう! 帝!」
「え、あ、へぇっ!?」
完璧に沈んでいた帝は側近の呼び声に気付くのが遅れ、回避に間に合いそうに無かった。
「せめて帝だけでも…!」
そう言った優秀な側近は体で覆うが、来るはずの衝撃はいつになっても来ない。そこで採る行動は一つ。気になる後ろを振り向くと
「大丈夫でしたか?」
見馴れない服装をした若い男が、こちらを向いて尋ねてきた。その右腕の先にはかぐや姫が乗っているであろう車が見えた。
「え、えぇ、大丈夫です。帝も問題無かったでしょうか?」
「う、うむ」
「僕がやってしまいました。すみませんでした」
そう言った青年が頭を上げて見た二人は腰は抜け、膝は笑っており、どう見ても大丈夫には見えないのだった。
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