第7話 見なくなったはずの夢

「あのさ、これはないんじゃない?」

病院のベットの上で、スノードームを持ち上げながら俺に言う女性。


白く染めた綺麗な髪は今は無く、白い毛糸の帽子に変わってしまった。


「他に思いつかなくて」

俺はすまなそうに言っていた。


これは夢だ。もう見なくなってしまった夢。


「ハァ〜、まぁ君らしいけど」

活発そうな笑顔だけは前と変わらない。

でも健康的だった体も今は痩せてしまい以前の

面影が見えない。


「また辛気臭い顔してる。怒るよ」

彼女が細くなってしまった腕を振り上げる。

本当は動かすのも辛いだろう。


ああ、もうやめてくれ。

もう、許してあげてくれ。


どこにいるかわからない神様を恨みながら、喉元まで出かかってる

言葉を飲み込み、俺は言った。


「元からこういう顔だよ。ソラ」





目が覚めた。覚めてしまった。


「久しぶりに見たな」

顔をこすると涙が流れていた。



ベットには俺しかいない。

昨日彼女は、深海明日香は帰って行った。

俺の質問に彼女は答えなかった。

苦しそうな、それでいて困ったような笑顔だった。


あの顔を見たからか。

あれは彼女と、ソラの顔と同じだった。


俺は結局、最後にミスをした。

彼女を困らせて、追い詰めてしまった。

あの時のように・・・


「またやらかしたのかよ、俺は・・・」

顔を洗う為に来た洗面台の鏡に映ったのは、

5年前の俺のような気がした。

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