第6話 開始、
おれ、切咲 凪斗が上京を決め、夜行バスで旅立ったあの日から2年が経過した。
この言い回しだと、今頃は上京して2年も経って落ち着いている頃、の予定ではあったが、現実は全く違う方向へと進んでいる。
まず、ここが東京ではなく、異世界だということ。
最初はここが東京だと思っていたが、そんなはずもなく、完全な別世界。
気が動転していたせいもあり、エルフを見ても異常と深く感じなかったのは、今思えばどうかしていたと思う。
魔法…をまじかで見たり、かけられたりしたかいもあり、信じざるおえない状況になったのは不幸中の幸い…?だったと思う。
おれにアンチ魔法スキルが備わっていなければ、今、ここに、この世界に存在していないことだろう。
『クリア』というあのときかけられた魔法は、今にして思えば恐ろしい魔法だった。
同等の魔力を持つ人間にかけても、さほど強力ではないが、術者以下の魔力のものにかければ、魔法回路を破壊され、死に至る。
強力な魔法ほど、それに伴う難易度がある。
『クリア』は最高難易度の超上級魔法なことは、今の地位になったからこそわかる。
今の地位、すなわち特級騎士だ。
あれから言われるがまま訓練を積み、なんとか2年間かけてここまで上り詰めた。
途中、自分でもなんでこんなことをやらされているのか、わからなくなるときは多々あったが、スカベルズ皇国 第一特級騎士 アルベルト・フェルナンスに甘い蜜、いわば特級騎士になった地位により発生するメリットを上手くちらつかされ、なんやかんやここまで来てしまった。
今では、スカベルズ皇国 第三特級騎士 切咲 凪斗だ。
皇帝の次に、この国で大きな権限を与えられている。
ここまですらっと説明したが、特級騎士になるのは簡単なことではない。
幾つかの条件を満たし、且つ皇帝に認められなければならない。
条件とは大きく三つあり、その三つも通過点であり、皇帝に直接、戦果を証明して、皇帝の口から任命の名を呼んでもらわなければならない。
条件の一つは、ユニークスキルを一つ以上、所持していること。
これはすでに『アンチ魔法』というスキルを持っていたから、最初から達成できていたが、本来は、すでに存在するユニークスキルの場合は認めてはもらえないらしい。
そして二つ目だ。
これが一番厄介で難解だった。
スカベルズ皇国内にある上位3位以上の魔法学校に在校または修業していること。
この世界でも学歴は必要らしく、上京するために受けた大学受験からの異世界での魔法学校受験を強いられた。
辛い。
何が一番辛いのかと聞かれたらまずこれを答えたい。
字が読めない。
例えるなら、小学生から高校生の期間で勉強するはずのことを、一気に短期間で勉強するようなものだった。
ただ、幸いこの世界は現実世界ほど文字形式が難しくなかったから、字を読めるようになるまでに時間はさほどかからなかった。
そして無事、半年間の猛勉強で合格することができたが、半分はアルベルトの権限だと思う。
三つ目。
これは予想できたが、当たって欲しくはなかった。
上級魔法兵士100人分以上の単体戦力を有していること。
これは『アンチ魔法』スキルだけじゃ解決できなかった。
そのため、魔法学校に入るために勉強した知識と、入ってから教わった知識を合わせて魔法を開発していたところ、ある重大な問題に気がついた。
おれの中には、どうやら魔法の発生源である魔法回路が存在していないらしい。
それは魔法印を刻む際に発覚した。
普通、魔法印を刻んだ際、色で適正属性、星の数と大きさで魔力といったものが判断できるらしいが、おれの場合は黒い星一つ。
本来、赤=火属性 青=水属性 緑=風属性 黄=土属性 紫=闇属性 白=光属性 といった感じで何かしらの属性に分類されるはずなのだが、おれの場合は色が出ず、なぜか星は特大のものが一つ。
水はたくさんあるのに、それを出す蛇口がないようなもの。
魔力は大きいが、それを出すための魔法回路がないんじゃ魔法は使えない。
流石の特級騎士 アルベルト・フェルナンスも頭を抱えた。
だが、ここで、新たな事実が発覚し、諦めかけていた魔法使用も現実味を帯びた。
それは、魔法印を刻んだあとにする、ステータス確認の際に発覚した。
ユニークスキルの欄にひとつ項目が追加されていたのだ。
ユニークスキル『調停の眼』。
これが予想以上に凄まじいスキルだった。
まず、体の各部位を眼を通すことにより、数値化して見ることができ、さらにその数値を任意で上下させることが可能で、数値に上限がない。
だが体の力は強化できても、耐久力までは上下させることができず、あまり数値を上げ過ぎると体がめちゃくちゃなことになってしまう。
そして、数値化してみることが可能なのは自身の体だけではなく、他者の体、椅子や石などの無機物、有機物なども数値化してみることができる。
さらに風力、重力、魔力、etc.
これらは自身の体のように簡単な任意で数値を操ることはできないが、あることをすれば可能なことに気がついた。
それは無駄に余った魔力を『調停の眼』を使い、魔法印に無理やり通して外に放出させ、人や物体、力に干渉させることにより、数値を操ることができること。
そのおかげで、魔法回路がなくても魔法のようなことができるようになり、それなりの力を扱えるようになった。
あとは接近戦対策として、アルベルトに剣術と体術を実戦で使えるレベルまで教えてもらい、無事三つの条件全てを満たすことに成功。
そして最後の難関、皇帝からの認定は、一年に一回開催される、スカベルズ皇国の全魔導騎士や野良の魔導師が集まる魔導大会で、ぶっちぎり優勝を果たし、皇帝直々に特級騎士階級の命をいただき、現在に至るというわけだ。
もちろん、ぶっちぎりで勝てたのはおれの実力もあるがなにより、特級騎士は参加不可能という条件があったため、最強クラスがいなかったというのもある。
なので控えめに言っても、今のおれはかなり強い。
ここまでは一見、充実した異世界生活を送ってはいるが、強さには全く興味がないし、この世界で生き抜くための手段でしかないわけで。
今は特級騎士を務めながら、魔法学校に通い、それなりに忙しい日々で、特級騎士になるまでの2年間が一番忙しかった…ん?あれ?2年間?
凪斗は気がつく。
18歳だった凪斗は2年間、異世界で怒涛の日々を費やしたことにより20歳になっていたことを…
まてよ…もし2年間あっちの世界でも経過してるとしたら上京し直したとしてももう大学いけないんじゃ…
「う〜ん 時間操作の魔法も探さないとだな」
凪斗は上位3校のひとつ、皇国立ベルズ魔法学校の特別塔屋上で授業をさぼりつつ、好物のベルズシューを仰向けに寝そべりながら方張っていた。
この特別塔は、街のなかで2番目に高い建物で東京タワーほどの高さを誇る。
凪斗のお気に入りのスポットで、屋上といっても入り口はどこにもなく、屋根上?と表した方がしっくりくるような場所で、浮遊系の魔法を取得してなければ怖くて足を運ぶのにリスクがいる。
凪斗は重力数値を操作することにより、浮遊することができるため地上からジャンプしていつも来ている。
その甲斐あって今までさぼりを注意しにくる教師もいないが…
「さぼりは良くないんじゃな〜い なぎくん?」
「うっせ!そもそも特級騎士になった今じゃ卒業するまでここにいる必要ないだろ?」
が…凪斗の師であり、同じ特級騎士であるこの男、アルベルト・フェルナンスが悠々と特別塔まで最近のぼってくるようになってから、場所を変えようか悩んでいる。
「何しにきたんだよ また冷やかしに来たのか?」
「いやいや、今回はちゃんとした要件だよ。ついに近々、冷戦が溶けるよ。やっと君の出番だ。『アンチ魔法』と『調停の眼』というイレギュラーなユニークスキルをもつ君のね!」
「そうか…ワクワクしてきたぞ!っていうとでも思ったか?勘違いすんなよ?おれは現実世界に帰ってまた上京からやり直すために、しかるべき力、権限を手に入れたんだ。さっさと戦争なんか終わらせて現実世界に帰る方法をさがさねぇと。」
「上手く終わればいいけどね…なにもかも…」
アルベルトは表情を強張らせ、ため息混じりな言葉を吐き捨てた。
それは終わりを連想させるどころか、凪斗にはなにかが始まる暗示に思えてならなかった。
上京から始まる異世界ノーフィクション 化無流 人 @anko0208
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