第5話 終わり良ければノーフィクション

「ここは…」


凪斗は横たわっていた体の状態を起こし、周りを見渡した。

目に付いたのは一つや二つではなかった。

凪斗の知り得る中で表現するとしたら、まるで王宮の一室。

体に全く負担を感じさせないふかふかのキングサイズのベットに部屋の全体を覆う、透き通っている大理石のようなもの。


そして家具の一つ一つが金や銀で細かく造形されている。


「っておれ…いきてるのか?」


部屋に見とれている場合ではなかったことを凪斗は思い出す。


こうなる前、凪斗は体が消え去ったと錯覚するほどの光に包まれ、そこで意識が途絶えてからの状況がわからない。


そこで凪斗は、生きていることを物理的に確認するために手で体を触りながら負傷箇所の有無を確認した。


「怪我は…してないみたいだな あの時は本当に死んだかと」


凪斗は体を両腕でさすりながら、あの時の感覚を思い出し、体を震わせる。


「あまかった…あまかったあまかったあまかった! あんなとんでもない力があっていいのかよ…」


無理もない。

凪斗は現時点ではまだ、この世界のことをほとんどわかっていないうえに、”強力な力をもって異世界に迷い込んだ”というわけでもない。


「おれは上京しに来たんだ…こんな世界はやくおさらばしないと」


「それは君がこの世界の人間ではないと?」


「当たり前だ!こんな魔法なんかはびこってる世界あってたまるか…って」


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


凪斗は生まれて初めて、心のそこから驚いた。

気がつけば先ほど、凪斗に強力な魔法を浴びせてきた特級騎士がベットに腰掛けていた。


「なななっ!なんで急に!?入ってきた音もなにもしなかったぞ!」


「魔法だよ…っといっても君はなにも知らないようだけどね」


「一体いつからいたんだ?」


「自分の甘さに打ちひしがれているあたりからかな」


まずい… あんな恥ずかしい場面を見られていたのもだが、それ以上にこの世界の人間でないとばれたのがやばい…


「そんな焦った顔しなくても君が異端の存在っていうのは十分わかってるから」


「どういうことだ?」


特級騎士 アルベルト・フェルナンスは口角をゆるりとうえにあげ、手の甲にある魔法陣を凪斗に向ける。


それに対して凪斗はとっさに手が挙がる。


「ふふっ 警戒しなくていいよ 君にはこれは無意味な行為だ」


「無意味な行為…?」


その言葉に凪斗は違和感を感じざるおえなかった。

あんな強力な力を見せつけておいて、いまさら無意味なんてのは理にかなっていない。


「クリア…あの魔法は僕クラスでないと使えない強力な魔法なんだよ 効果は対象者の魔法回廊の消去…つまり受けたものは魔法とのつながりを断たれ、死に至る魔法さ」


「いやいや、そんな魔法かけられたのに何でおれ生きてんの…?」


「そう 本当は君はこうやって僕と会話しているはずがないんだよ。」


「やっぱりおれって死んでる?ゾンビ的ななにかか?」


呆れた表情で凪斗は肩の力を落とす。

ここまできたら何を聞いても受け入れよう…そう思った。


「いいや、生きているよ。君は強い光のショックで気絶していただけ…いまだに信じがたいが君は、僕の魔法を無効化したんだよ」


「えっ…?」


何を聞いても受け入れようとは思っていたが予想外。

 

まさかのネガティブ展開でなく、ここに来てのポジティブ展開。


「前代未聞だよ!こんな例は僕が知り得る限りでは君が初めてだ…魔法の無効化なんてのは今までこの世界には存在していなかった」


特級騎士は声のボリュームをあげ、ベッドのうえに立ち上がった。

その容姿と格好、それに階級からは考えられない、まるで初めておもちゃを与えられた子供のようにはしゃいでいた。


「おれに何をさせる気だよ…」


「おっ!察しがいいね。今この国は危険な状態にあってね…それのせいで君みたいな不穏分子は排除せざるおえなかったんだ」


「それが”クリア”って魔法をいきなりかけてきた理由か」


「君、元の世界に戻りたいんだろう?」


「あぁ、夢半ばここに連れてこられて未練しかないんでな!」


「それだったらこの国を拠点に方法を探すといい。その代わりに君には兵士として働いてもらう」


凪斗は掛け布団を膝のうえから払い、ベットから降りた。


こんな危険な国でこいつにいいように使われてたら絶対に死ぬ‼︎それに一回おれを殺そうとしたやつを信用できない…


「悪いけど、その申し出にはうけ…」


その瞬間、凪斗の喉元に特級騎士 アルベルト・フェルナンスのロングソードが突き立てられる。


「君は魔法は無効化するみたいだけど、こっちも無効化できるのかどうか試すかい?」


凪斗は唾を飲み、切先を目で辿りアルベルトの目を見た。


本気だ…こいつ本気でおれを…


凪斗は殺す殺されるといった経験なんてのは一度もないが本気かそうでないかはわかった。

流石は特級騎士というだけの貫禄はある。


アルベルトは構えていたロングソードをゆっくり下ろしていった。


「別にずっと働けっていうわけじゃないんだ…ただこの国の”兵士”として活動してほしいだけなんだよね」


「でも戦いにはでないといけないんだろ?即死するぜ?おれ」


「いいや、でなくていい。戦力として期待しているんじゃない。抑止力として君を置きたいんだ。」


「そんなになのか…?魔法の無力化ってのは…」


「そうだよ。君もこの世界のことをもっと知ればわかるさ」


凪斗は左手で頭を掻きながら数秒考えた。


いずれにせよ今のおれには選択肢はない…か。


「わかった…その代わりこの世界に慣れるまでくらいは守ってくれよ…」


その言葉を聞いたアルベルトは軽くため息を吐き、ロングソードをしまう。


「もちろんさ!君は僕含めこの国が全力で守るよ!お互いのためにね…」


お互いのために…ね。


「っで?何からすればいいんだ特級騎士様」


ひと段落ついたせいか、凪斗は力を抜きベットに腰掛ける。


「まず、君には特級騎士になってもらう」


勘弁してくれ…












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