第4話 反撃フィクション

俺は上京するにあたって幾つかのスキルを身につけた。


その一つが心理学。


東京ともなると人の量、それに比例して様々な種類の人間がいる。

別に人間不信、ってわけでも「俺は自分以外信じない!」っていう中二病みたいな痛いやつになりたいわけでもない。

あくまで、純粋に多くの人と出会う中で効率良く立ち回るためにと想定して身につけたものだ。

だが東京で使うつもりだったものをまさか異世界で使うことになろうとは…


先ほどの凪斗の啖呵により、エルフの軍兵は少し動揺した色を残していた。

今、おそらくこのエルフは凪斗の目的を考え直している。

ただの間抜けなスパイだと思っていた男の口ぶりが急に強い口調になったのだから無理もない。


「実は…」


その言葉を発した瞬間、エルフはこちらに手の甲にある魔法陣をむけ、警戒態勢にはいった。


しめしめ。

凪斗はニヤついた表情を浮かべ、すかさず自分の手の甲をエルフの女性に向ける。


「あっあなた!一体なにをするつもりですか!?」


「いやいや、魔法…使ってみようかなとおもいまして」


「なるほど…交戦にもちこむつもりですか? ですがインが外界に触れていないと魔法は使えないでしょう…それとも母国を吐く気になりましたか?」


魔法はあの模様が出ている状態じゃないとつかえないのか…

それに模様を出すとどこの国かもわかるのか。


「母国?そんなものはここに来る前から捨てているさ…俺は亡命したんだから」


「亡命…って あなた国を追われてきたんですか!?」


「追われたというか、飛ばされたっていうか…魔法で強制的に」


もちろん、そんな魔法は知らないし、魔法のこと自体良くわかっていないが、ここで話がつながれば俺の持ちうる魔法という概念のおおまかな知識が使えるか否かがわかる。


さらには俺が作ったありもしない架空のストーリーが現実味を帯びさせることができる。


「まさか…強制テレポーテーションでもかけられたというの…?」


あったかテレポーテーション…

自分で作った突拍子もない話、出来事が真面目な顔して他者に受け入られている現状をみて改めて現実世界ではないことを痛感する。


さて。

ここからが正念場だ。

現時点でもっとも凪斗がやらなければならないことはこの世界での生き抜く方法を探すことだ。


現実世界は基本的な社会知識を親や学校から教育という方法を通して身につけていくが、こっちの世界だとどうなのだろうか。

魔法−−−というものが存在している時点でいままでの常識は通じないし、怪しい人間を早い段階でスパイ扱いしてくるところを見るに、現実世界のような優しい世界でもないらしい。


「それに亡命したことは覚えているんだけど、その国にいた時の記憶はほとんど残っていないみたいなんだ」


「なるほど 記憶消去系の魔法も使われたのですか…ですがそこまでする意図がわかりませんね そこまでの重要人物にもおもえませんし…」



さすがにこれ以上話に尾ひれをつけるとあとあとやっかいそうだな…


「では確かめてあげましょうか?」


「ん?」


凪斗の後ろから男の声が会話に割り込んできた。

まるで急に後ろから驚かされる感覚が凪斗を襲った。


振り向いてみると派手で高価そうな蒼の鎧をまとった男がそこにいた。


「あっ あなたは!」


続けてエルフの女性もその男を目視するやいなや動揺を見せつつも、その場でしゃがみこ頭をさげた。


察するにこの国でかなりの権力もしくは地位をもつ人物であることは確からしい。


だが鎧や、剣を所持しているところをみると軍の中での権力者なのだろう。


「なぜあなた様がこのようなところに…特級騎士 アルベルト・フェルナンス様」


特級騎士?なんだそれ?

凪斗は思わず口に出そうなとこを寸手で止めた。

特級騎士…いかにもってほど強そうな肩書きだ。

エルフは凪斗の話に乗っかりつつあったがはてさてこのいかにも騎士を乗っけることができるのだろうか。


「たまたま下町に出る用があってね さて君は…カルトくんのとこのエルザちゃんだったかな?」


「はっ!カルト・キース軍のエルザ一等兵であります」


「で そこにいる君は…」


「切咲 凪斗です」


「うーん 珍しい名前だね、名は凪斗くんでいいのかな」


「あっ はい」


「話は聞かせてもらったよ 君、亡命してきたんだって?」


まったく気が付かなかった…どこにいたんだ、いったい…

話していたとはいえこんな格好の男が近くにいたら流石に気がつくだろ!


いわゆる気配を消していた。というやつなのだろう、その証拠に騎士様が会話に入ってきたあたりからたくさんいた通行人がパタリと止んでしまっていた。

現実世界で有名人ならサインを求めてきたり、ツーショットを求めてくるなりで人が集まってくるが、この世界では人が避けていなくなる。

その人物がどういう人かにも左右されるとは思うがこの騎士の場合は異常だ。

街の繁華街通りすべての人がいなくなっていた。


「まるで極悪人の指名手配犯でも来たみたいだ…あっ!」


思わず、凪斗は質問それているにもかかわらず本音をぶちまける。


「ふふっ 面白いこと言うね 僕も寂しいんだけどね、決まりなんだ」


「決まり…?」


「あれ?君の国では違ったかな?あぁそういえば記憶、なくしてるんだっけ」


「はい…でも亡命したというかされたというか」


「まあどっちにしろ君みたいな素性のわからない人間がいたら疑わないわけにはいかないんだよね…今うちっていろんな国と抗争状態にあるから」


「それなら仕方がないですね」


「わかってくれてうれしいよ…じゃっ」


そういうと騎士は手の甲から魔法陣を展開し、手の平を凪斗に向けた。


「クリア」


「え?」


その瞬間、白い魔法陣が凪斗の足元に展開され、全身が白い光の柱に包まれた。


全身の感覚がなくなり、わけがわからないまままた、凪斗の意識が落ちる。




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