第3話 スカベルズ皇国

 悲しいかな、上京を決めたはずの大学生 切咲 凪斗は東京ではなく異世界の国スカベルズ皇国にいた。


 建物はほとんどがレンガで建てられており、現実世界でいうイタリアを思わせる景色が広がっている。

 そして今凪斗がいる場所は皇国内での首都に位置する街、ベルズ。

 首都というだけあって行き交う人の量は凪斗が住んでいた田舎とは比べものにならないほど多く、そういった部分では憧れていた東京に近いといえる。

 圧倒的に違う部分があるとすれば、魔法が存在しているという部分が大きいが、見たこともない人種が一つの違和感なく街に、世界に溶け込んでいる。

 他にもあげればきりがないが大きくこの二つである。

だがこれらの違和感を感じ、思考する余裕は今の凪斗にはなかった。


「スカベルズ皇国??ちょっとまってくれ…日本じゃないのか?」


「ニホン…?聞いたことありませんね 私は一様、現存する国はほとんど把握しているつもりではありますが…すいません、少し失礼しますね」


そういうとエルフの女性は手の甲にある魔法陣に問いかけ出した。


「名はエルザ 天性の理を許し 我、名の下に…展開!」


その瞬間、手の甲の魔法陣は淡い光を放ち、原型の数倍に巨大化してその場に浮かび上がる。


「検索 全方位 ニホン」


続けてエルフの女性の言葉に呼応し、魔法陣はこの異世界の地図であろう立体図を浮かび上がらせる。

さらに立体図は高速回転しながら光を強くした。

30秒ほど回転すると光が消え、瞬間、立体図は姿を消した。

同時に浮かび上がっていた魔法陣も役目を終えたように手の甲へ帰る。


「うーん、やっぱりニホンって名前の国は見つかりませんね…一様街や村も含めて検索したのですが」


「そんなはずは…ってか今のなんですか?新しいテクノロジーか何かですか?」


「魔法を知らないんですか!?この世の常識ですよ!?あなた一体何者なんですか…」


エルフの女性は驚くと同時に凪斗に疑念の目を向ける。

だが凪斗もまた、エルフの女性に疑念の目を向ける。

そのせいか会話が途切れ、少し重室な空気に包まれ、エルフの女性が痺れを切らし、沈黙を破る。


「あなた、魔法を知らないなんて嘘が下手すぎるわ!それにありもしない国名までつかって偽装して…だけど甘かったわね 私は皇国軍兵よ どこの国の差し金かわからないけど拘束させてもらうわ」


「えっ!?いや、なんで!?嘘じゃないって!全部本当のことだって!」


「ではなぜこの国にきたの?正式なルートでこの国へ入国していれば魔法陣にビザがかかっているはずよ!それをわざわざ隠すなんて疑うなって言われる方がどうかしてるわ!」


魔法陣?いや、そもそも俺は上京したつもりが気づけば異世界っていうとんでもない理不尽な状況なのに…誰だっていい、説明してくれ…


魔法陣 スカベルズ皇国 異世界…様々な異端の言葉が飛び交う中、凪斗のために世界は止まってはくれない。

だがこれが初めてではなかった。

なぜなら凪斗は幼い頃に一度、家族旅行中に事故に遭い、齢6歳にして一人、山に投げ出されたことがある。

知らない場所、知らない空気、常に守られている世界から強制的かつ唐突なシャットアウト、6歳の子供にはどう映ったのかはわからない。

ただ凪斗は救出までの1週間、生き延び続けた。


「わかりました 確かに、こんな見慣れない格好をしたやつ、怪しまれない方がおかしいですよね」


今、頼れるものは己の血肉のみ。

覚悟を決めた人間は強い、それは人が人である以上絶対の摂理。

上京するつもりが気がついたら異世界に放り込まれ、さらには軍兵にスパイ疑惑をかけられた悲劇の主人公はここで幕引き。


「教えてやるよ…俺は切咲 凪斗大学一年生だくそったれ!」


啖呵を切った凪斗をみて動揺するエルフ、さっきまで気弱であためふためいていた人間が別人のように表情を一変させ、今自分がスパイと見抜き、拘束される寸前の人間がするような行動ではないことは軍兵経験からもわかる。


「あなた…一体なにをするつもりなの…」




反撃開始だ。世界に。







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