第16話 すべては契約通り
「これにて第三ゲーム終了だな」
仮面をかぶった森がそう吐き捨てるようにいい、ゲームで使用されていた机から離れようとする。
そんな森の背中に向けて真の王が声を荒げた。
「待てよ……! 何を言っている? そんな答えが認められるとでも?」
真の王が怒るのも無理はない。何も知らなかった圭もすべて把握しきれていない。言えることは、森がサイコロの位置を田村のポケットの中だと言い、実際にそこにあった。そして、アリスは勝ちだという。
「このゲームはカップの中にあるサイコロを当てるゲームだろう? それ以外の場所にあるサイコロを当てて正解になるわけがないだろう?」
背中を向けていた森がゆっくりと顔を真の王に向けなおす。
「このゲーム、実は田村零士から提案されたゲームなんだが……、その時田村は念を押してこう言ってきていた。
『このゲームはサイコロの位置を当てるゲーム』だと。
実際、わたしもゲーム説明で、一度たりともカップの中にあるサイコロを当てるゲームだとは言わなかっただろう? まぁ、それがこういう意味なのだとは……知らなかった」
これに関しては言い返す言葉がなかったのか真の王は一瞬口を止める。だが、すぐ代わりに田村へ標的を変える。
「そもそも、契約でサイコロは絶対カップの中に入れろとしたはずだ。それこそ、こういうふざけた答えになることを警戒してのことだった。それとも何か、この残り三つの中にも入っているのか?」
田村はその疑問にこたえるべく、すべての残りすべてのカップを開けた。何も音が鳴らなかったカップには本当に何もなし。ピンポン玉の音がしたやつも、素直にピンポン玉が一つ入っていた。
そして、まだ振っていなかったカップには……
「あっ、すみません。あなたのスゴロクのコマ、少し拝借してはした。お返ししますね」
そういってカップの中に入っていた第二ゲームで使用したコマを真の王の手のひらに置く。
「……ふざけるのもいい加減にしろよ、田村零士!」
対して、真の王はコマを床に投げつけ思いっきり怒りをあらわにしだした。
「お前、契約を無効化したのか? どうやって!?」
「いやいや、無効化なんてしていませんよ」
真の王をなだめつつ、机の上に置かれたカップを手に取った。それはゲーム中、答えを指定され、重ねて置かれていたカップ。その中の一番下にあるカップの中身を真の王に見せつける。
「サイコロは入れていましたよ。ただし、粘着テープでサイコロがカップの底にくっついてしまっていたようですが」
……そういうやり方か……、まるでチープなマジック……。あのカップは確かビー玉が入っていたカップ。使用済みカップは重ねられていったため、中身は空だと思い込んでいたが、サイコロが張り付けられたカップを底にして上に重ねていただけだったわけだ。
「……つまり、お前は……あたしが指定したカップが当たっていたのに、それをスルーした……。嘘を付いたわけだ」
「いいえ。それもしてません。わたしはゲーム中、『外れ』とはっきり宣言したことありました? 言ったとしても『みたいですね』以上にはっきりとは一度たりとも言わなかったでしょう。
あくまで当たり判定は君たちが目で見て、それで判断をしていたにすぎません。しかも、それだってあなたの指示ですよ? あなたは言いましたよね? お前はただのゲームの装置に過ぎないって。
あなた自ら、わたしを審判にすることを拒んだのです。むろん、言われなくてもこのゲームの審判はわたしではなく君たちだったんですけどね」
田村はそう言って、森がまだ手に持っていた藤島か渡された紙を手に取る。
「この紙だって、わたしがゲーム開始前に藤島さんに渡していたもの。ただ黙って、このゴミを残りカップが三以下になったとき、アリスさんに渡してほしいと頼んでいました。
わたしに対して彼女は不信を抱いておられましたが、あなただけが頼りだ、と言っておけば行動を起こしてくれました」
藤島に会釈しつつ不敵に笑う田村零士。わなわな震える真の王。
「そもそも、こんなゲームはいくら何でも、わたしに対して不利すぎただろ? 藤島に答えを伝えさせることまで考えていたのなら、必勝のゲームじゃないか!」
それには森が舌打ちをしながら答える。
「……わたしはゲームを提案したとき、こんな作戦はまったく聞かされていなかったからな。わたしはただ、このゲームのルールを進め方、説明の仕方を伝えられていただけだ。
むしろ、わたしだってこんな運要素が強いゲームでどうするつもりなのか、疑問に思っていたぐらいだ。当然、“提案時”は公平なゲームだと思っていた」
そこに田村が補足を付け加えていく。
「確かに藤島さんから紙を渡され、策の全貌を聞かされた時、アリスはこのゲームはわたしたちの必勝ゲームであることを理解したはずです。
ですが、この自由なゲームのルールに、“ミニゲーム中に提案者がゲームの不公平性に気づいたときに対応しなければならない」なんてものはなかったですよね? あくまで公平性を考えなければならないのは提案のタイミングだけ。
真の王、まだ分かりませんか?」
田村はこれでもかと右の口角を吊り上げ、真の王を煽るように見上げる。
「わたしはサイコロをカップの中に隠しましたし、嘘も何一つついていません。藤島さんはあくまでゴミをアリスさんに渡しただけ。プレイヤーに助言やアドバイスなどまったくもってしていません。
そして、アリスさんも、ゲームの提案は自身が確かに公平だと判断していたものを出していました。
なにもおかしな点はありません。すべて……契約通りなんですよ」
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