第15話 最低な答え
次は再び真の王の手番。
「このゲーム……やはり基本は運ゲーということか? ……とりあえず、このカップ指定で。さっさと振れ」
真の王の指示でまたカップが振られる。が、
「……っ」
音は全く聞こえてこなかった。
「……ここにきて空?」
「これはこれは、真の王。運がいいですね。おそらくですが、この中にサイコロは入っていないのでは?」
「わたしに対しても助言みたいなマネをするな。黙ってろ」
真の王はこここそ考察すべきタイミングだと見据えたのか、田村をあしらってキツネの仮面に手を当てた。
同時に圭も少し思案してみる。もし、何かしら仕組みがあって中にサイコロがあるけど鳴らないとしたら……、引っかけとしては定石だ。
しかし、田村は圭たちを勝たせると言った。その上でこれ……、もし仮に森がこれを引いていたら? ……そう考えると、そんな仕掛けをしているとは……。
いや、森は基本的に田村を信用していない。そんな仕掛けも躊躇なく仕掛けると判断し、答えに言ったか?
しかし、基本的に鳴らなかったのは大きなアドバンテージ……。音が鳴らないカップを田村がどういう意図で作ったのかは知らないが……。
「……答えは別のカップを指定しようか……これだな」
真の王はならなかったカップにはサイコロがないと判断したのか、別のカップを指定した。
田村がそっとカップを開ける。だが、中に入っていたのはビー玉でサイコロではなかった。
「この深紅のビー玉、綺麗だと思いませんか? お気に入りなんですよ」
取ったカップを置き、既に重ねてあった二つのカップをその上にかぶせる。
「残念ですか、これはあげられないです」
「心の底からどうでもいい」
自慢げに赤いビー玉を丁寧にポケットに入れる。そんな中、次の手番である森が田村の遊びに付き合う気はさらさらないと言うように、カップを指さしていた。
「このカップを振れ」
残り三つとなったカップのうち、一つが田村の手によって振られる。今度は中から聞き覚えのある音が聞こえてきた。
「……これは……ピンポン玉か……」
森もこの音にはすぐ気づいたらしい。
中に入っているものがピンポン玉であることはまず間違いないだろう。あの特徴的な音は他の代物では代替えできそうにない。しかも、聞く限り、音は単体。カップとピンポン玉の大きさから考えても、サイコロが入っているとは考えにくい。
合わせて、もう一つ振られていたカップは音がしなかった……、となれば……。
当然、意識が向けられるのはまだ一度も触れられていない最後のカップ。これまでの情報を疑わない方向で行けば、順当に考えあのカップが正解……。
真の王もそのことを十分理解したらしく、アリスをじっと睨みだす。
ここで森が外しても、真の王はほとんど運の二択に迫られる点を考えても、ここのセオリーはまずまだ振られていないカップ。
森も同じ決断をしたらしく、その指が例のカップに向けられようとした。が、その時、ふと藤島が森の隣にまで寄ってきた。
「アリスさん。これを」
「……え?」
伸ばした指を引っ込める森、藤島が差し出したものをそのまま受け取ったのは反射的なものだったのだろう。
森の手には何重にも小さく折りたたまれたメモ用紙。
「おい、藤島。プレイヤーに助言を与える行為は禁止と言ったはずだが?」
藤島は表情をまったく変えないで言う。
「禁止行為ならそもそもできないですよね、コントラクトで。わたしはただ、指示通りただのゴミをアリスさんに渡しただけですから」
……おそらく誰かから言い聞かされていた言葉だったのだろう。台本を読み上げるように感情なくそう言い切る。
……森が指示したのか? いや……この状況じゃどう考えても田村か。
森も藤島の行動が圭の指示でなく田村の指示と思ったのだろう。随分と折りたたまれた紙を開くのに戸惑っている様子。
しかし、森がカップに指を差すのを阻止するように渡された紙……、それだけの意味があることに変わりはない。
「アリス……」
圭が声をかけるとパッと振り向く。その仮面に向かって圭はゆっくりとうなずいた。
「……わたしも田村を信用しろと?」
「いや……代わりに俺を信じろ」
森だって田村の提案するゲームに乗っているんだ。もはや、その紙を否定するには遅すぎる。
森は仮面の裏からため息を思いっきり吐きながら紙を広げていった。そして、その中に書かれた内容を知った途端。
明らかに息をのむ音が聞こえてきた。
「……これは……最低すぎやしないか……?」
? 何が書かれていたんだ? さすがに森の反応が気になり、紙を覗こうとしたが、それより先に森は動いた。
「回答。サイコロの位置は……田村零士、お前の右ポケットの腰の中だ」
「はっ?」
真の王から随分間抜けな声が漏れる。
そんな中田村零士がポケットに手を突っ込み、中から何かをつまみ出した。そこにあったのは、サイコロ……。第二ゲームのスゴロクで、ゲーム開始前にアリスが床に放り投げた真の王のサイコロ。
「おや? 確かにこんなところにありましたね?」
わざとらしく不敵な笑みを浮かべサイコロを机の上に転がす。
そして森は堂々と自分の胸に手を当てた。
「わたしがサイコロの位置を当てた。よって、わたしの勝ちだ」
「はぁあ!?」
今度、真の王からは明らかな怒りと呆れが混じった声が漏れた。
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