第14話 サイコロはどこだ?

 圭たちがそれぞれ壁を向いて立っている中、後ろでゴソゴソ音を立てて準備をしている田村があった。


「あ……、すみません。契約でサイコロの位置を他者に教えられないって強制されているんで、西田くんも後ろを向いておいてもらえます? 藤島さん……はもうそうしてくれているみたいで……」


 そんな言葉が聞こえてくる。すると、今度は真の王から声が聞こえてきた。


「言っておくがプレイヤー外の人物の制限は一切変わらないからな。第二ゲームの誰かみたいに、くさい独り言を言うのもなしだからな。

 藤島、田村、西田、お前らの助言は一切認めない」


「おやおや、助言みたいな独り言をつぶやく不届きものがいらしたんですか。それはびっくりですね。……はい、準備は整いました。皆さん、どうぞ振り向いてください」


 田村の言葉と共に教室の中にいる人全員の視線が田村の用意した机に向けられた。机の上にはカップが六個、底を上にして並べられている。

 この中のどれかにサイコロが隠されており、それを見抜くゲーム。


「じゃぁ始めようか。先攻後攻は受ける側、真の王が決めていい」

 あくまでゲームの進行は森が行う。


「……、このゲームなら……先攻を……いや……どうだろう……」

 早速真の王が悩み始めた。


 その理由もわかる。もし、これがただ単にサイコロを当てあうのならば、先攻のほうがいいのかな、と思ったりもする。だけど、毎回、一つだけカップを指定しそれを田村が振るという工程が入る。

 つまり、情報という面では後攻のほうがかなり多くなる点が悩ましさを生む。


 と言っても、こういうゲームは確率論を突き詰めれば、先攻後攻に有利不利はないのかもしれない。が、それをパッと計算できる余裕と頭はない。


 よく聞く、くじ引きの確率論と同じだ。一回目に引くのと、残り二つになる時点で引くのは同じ確率だと……。この場合、残り二つになる前に当たりが引かれることも考慮に入れての考えだったか……。


「先攻でいいや、大して変わらないだろう」

 真の王も似た結論に至ったか、考えるのを放棄したか……。


「じゃあ、まずは一回目。田村に振ってもらうカップを一つ指定しろ」


「これで」

 真の王は悩むのは無駄と言わんばかりに速攻で一番端のカップを指さした。


 田村が黙ってそのカップに手を置き振る。すると、中から何かものが当たる音が確かに聞こえてきた。


「……この音でサイコロかどうかを判断しろと?」


 ……これは想像をはるかに超えるほど難しい気がしてきた。この音だけで中身を判断するのは至難の業だ。むしろ、下手に聞かないほうが素直に回答を選べる……。


 この場合のセオリーはどうなるのだろう……。このカップにはサイコロが入っている可能性は大いにある。その場合、このカップを指定するべきか、それともそれ以外を指定してみるべきか……。


「よし……回答もこのカップを指定する。開けろ」

 真の王が選択したのは田村に振らせたカップ。田村の手でカップが持ち上げられ、中身が露わになる。


「……なんだこれは?」


「四角い形に加工した木片ですね。大きさもちょうどさっきスゴロクで使用したサイコロなみ。このゲームにはうってつけのダミーアイテムでしたね。

 良かったらどうぞ?」


 田村はそう言ってその木片を真の王に差し出す。真の王はそれをつかんでポイとそこらへんに捨て去った。


 次の手番は森。特に圭は指示をもらってないし、ここで動いても大した意味はない。森も黙って、カップの一つを指さした。


 そのカップが田村の手で振られる。すると、今度は随分と物騒がしい音が鳴った

「……入っているもの、一つや二つじゃないな?」


 森の指摘通り、圭も思った。たとえ中にサイコロがあっても音では気づけまい……。しかし、あまりに目目立つし……、これは避けても……。


 いや、この考え自体違うのか……。別に敵は田村じゃない。田村は当てられるのを避けるために隠しているわけではない。その時点でこういった方面で探りを入れるのは無意味……。


 というより……、これ……カップが振られる意味あるのか? そこから……推理できる要素など……まともにあるのか?


「……答えもこのカップでいい。気になって仕方がない」

 森は騒がしい音が鳴ったカップを指定。田村がそのカップをゆっくりと持ち上げていく。


 中から出てきたものは、「ごちゃっ」という表現がまさにふさわしいものたち。カップいっぱいに敷き詰められていたのであろうガラクタがあふれ出し、山を形成してしまうレベル。

 小さなペンギン型の消しゴムが山の頂点からふもとまで転げ落ちた。


「……」

「……」

 その想定をはるかに超える中身に両プレイヤーはあからさまに絶句していた。


 そんな中、ケラケラ笑うのはディーラー田村。


「あっはっは。お二人ともいい反応をしてくれますね。いやぁ、実に愉快です。残念なのは、お二人とも仮面をかぶって表情が見えないことでしょうか。そこは、仕草から妄想して楽しんでおくとしましょう」


「待て。その山を崩せ。中に隠れているんじゃないのか?」

 森の指示に従い田村が山を崩す。だが、散らばったガラクタの中に肝心のサイコロはなさそうだった。


 田村は二つ目のカップを一つ目のカップに重ねた。

「残念ながらなさそうですね。ゲームを続けましょうか」

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