第13話 第三ゲームの提案

 第二ゲームは圭の勝利で終了。田村が不敵な笑みで真の王に追求を重ねていた田村。彼は気づけば真の王から離れていた。


 追求が終わったことにため息で返答する真の王は、机の上に置いてあったキツネの仮面をふたたび顔面に付け直す。

「もういいいいだろ。分かったから、さっさと次のゲームを考えたほうがいいぞ? タイマーはスタートした」

 そう言い、タイマーのスイッチを押した後、スゴロクのシートを片付け始めた。



 ゲームの構想時間である十分が再び刻まれ始める。

「……第三ゲーム……また考えないと……」

 ゲームをするときだけでなく、また思考……。休まる時がない……。あぁ……プレッシャーが拍車をかけて頭が疲れてくる……。

 そうぞうをはるかに超えるほどにハード……。


「……ったく……次は……どうすりゃいい……」

 思わず頭を手で押さえ、乱雑に近くにある椅子へと座り込んだ。


「……大丈夫? ……次のゲームの構想はあるの?」

「……どうだかな」


 ゲームは思いついても、勝利できるかどうかまでは分からない……。どういうゲームにすればいいのか……。


「圭くん、随分とお疲れのようですね。良かったらわたしがゲームを提案しましょうか?」


 少し離れていた田村零士が再び圭のもとへと寄ってくる。それをアリスが仮面越しににらみつける。

「お前は魔除けだと何度言えば分かる? 黙っていろ」


「アリスさん、そうは言いますけどあまり、圭くんに頼りすぎるのは良くないかと……。それとも、アリスさんが提案しますか?」


「当然だ。お前の助けをもらうくらいなら」

「先輩、まずは提案を聞きます」

「おい! ボブ!? 何を言って」


 声を荒げだしたアリスを制して田村を見た。少なくとも田村には第二ゲームで助けられた。アリスとの約束が違うことには変わりないが……、やはり田村という男の実力だけは確かなんだ。


 田村はニコリと笑ったあと、実際にゲームの内容を説明してくれた。一通り、聞き終えると、森は舌打ち。


「……確かに第二ゲームがあの形式だったのだから、そういうルールもありだろう。だが、確かにゲームではあるが、わたしたちの勝ちを確証できるものでもないだろう」


「それは当然ですよ。公平なゲームでないといけないのですから。でも、安心してください。絶対に勝てるとわたしは思っています」


 確かに……圭たちの勝率が挙がることはないが、ゲームの絶対条件である公平性はある。契約の仕方によって公平性を固めることも可能。


「だが、お前はわたしたちを裏切っているんだぞ? そんな中で、こんな敵前の前で、お前の策を利用することが、どれほど危険なことか」


「ですが、真の王に手を貸すことはないことから保証できますよ。共闘契約がありますから。間違っても真の王の有利になることはしません。

 なにより、真の王を倒す、これ以上ないチャンスを棒に振ること自体、契約で無理なのですよ」


 田村の説得を無視するように森は圭に顔を向けてくる。

「で、ボブ。こいつの提案は効いたぞ。それでどうするつもりなんだ? まさか、こいつの策で行こうというんじゃないだろうな?」


「……少なくとも、今の俺は勝利を約束できるゲームは提案できない」

 そもそも、第一ゲームで敗北しているし、第二ゲームでも一人では負けていた可能性がある。ここで、堂々と提案できるゲームなど……あるはずもない。



「わたしは今、圭くんの友人としてこの場に立っています。共闘契約もあります、任せてもらえませんか? それに、実際にやるのはアリスさん、あなたなんですから。あなたが全力を出せばいいのです」


 森は握りこぶしを震わせてしばらく立ち尽くしていた。だが、やがてそのこぶしを解き顔を挙げた。

「……分かったよ……。どうせ、真の王が勝つがわたしが勝つかの二択しか未来はないんだ。そして、わたしは勝てるんだよな?」


 田村は不敵な笑みで返す。

「実際に勝てるかはプレイヤーであるあなた次第ですよ。あなたがわざと負けようとすれば、当然その限りではない」

「馬鹿をいうな」


 田村と森は互いににらみ合う。その雰囲気は険悪そのものではあったが、田村はなおも笑みを浮かべ続ける。

「とういうわけです。圭くんはしばらく休憩ですね」



 タイマーの音が鳴り響くと同時、仮面をかぶったアリスは真の王と正面から向かい合っていた。その横で黙って田村がたっている。


「第三ゲームはわたしから提案する。田村……用意しろ」

「承知しました。ご主人様?」


 田村のジョークは森によって鼻で笑われるが、気にもせず机の上にあるものを用意した。

「ここに不透明のカップが六つある。そして、サイコロがこのゲームでの基本セット。わたしたちが見ていない間、田村にはサイコロをカップの中に隠してもらう。

 それをわたしたちが探し当てあうというゲームだ」


「ほう。なるほどな……。ある意味、さっきのスゴロクと同じ形式か。別の言い方をすれば、田村はディーラーってところか……。

 ふん、で? それだけだと完全な運。それ以上に何かあるんだよな?」


 森はうなずき答える。

「サイコロの位置を答えるのはターン性。お互いに一回ずつ、そしてその一回につきカップを一つ指定することができる。

 田村は指定されたカップを左右にふる」


 実際に田村が伏せられたカップを振り出した。すると中から音が聞こえてくる。

「基本的に、カップの中に何もなければ当然音はしないし、何かしらあればこういう音がしてくるだろう。それを参考にして考えることになる」


「……つまり、カップの中にはサイコロ以外のものが入る可能性もあるわけだな?」

「それはこいつの裁量次第だ」


 真の王はしばらく悩んだ後、カップに手を伸ばした。

「確認してもいいか?」

「どうぞ」


 真の王は実際にカップを手に取り、側面やカップの中を見たり触ったりして確認しだした。

「……目立った加工はしていなさそうだな……」


 確認が終わったカップを机の上に置く。

「ゲームの内容自体は了解した問題もないだろう、だが……ディーラーは問題だな。完全にお前たち側の人間だ。と言っても、ここに中立の立場の人間などいないのだし……というかわたし側の人間はいないか……。


 では、その代わり、契約で田村の行動を制限させてもらうぞ」


「どういう制限を設ける?」


「まずカップの中にサイコロを絶対に入れておくこと。それからサイコロの位置をプレイヤー……わたしや森、圭に教えることを禁止にする。ゲーム性と保つためなら当然のことだろうし、さすがに拒まないだろう?


 あぁ、ついでに藤島にも教えるのは禁止としておこう。いっそ他者に教えるな、という制限でいいか。田村、お前はあくまでゲームの装置だ。あとはサイコロを隠すところを盗み見るのも絶対禁止だな」


「その要求なら呑もう。その代わり、こちらも制限を要求する。わたしたちプレイヤーがカップの置かれた机に触れることや、机やカップに振動を与える行為を禁止とする。強引にカップを奪い取る手段はご法度だ」


「ゲーム性を保つために必要な要素だね。いいよ、拒む理由はない。ちなみに、後ろに立っている圭はどうなるんだ?」

 真の王がいままで黙って見ていた圭に向かって指さす。


「お前に委ねよう。二対一は不公平で嫌だというのならば、ゲームから外してもいい。ただ、第一ゲームのように、わたしたち二人が合わさっても自分一人に劣ることを証明したいのならば、プレイヤーにしよう」


「……それは実質、答えを強要しているよな? まぁ、いいよ。二人がかかって来ればいい。どうせお前たちでは勝てない」


 このやり取りで真の王の警戒先が圭になったわけだ。少なくとも、真の王は今の言葉で圭がゲームに勝利するためのキーである想定がつく。

 アリスのあの言い方がそう匂わせるわけだ。


 こうして、ゲームの約束が着々と進められた。ここまで田村の想定通りことが進んでいる。相手がしてくるのであろう要求まで含めて。

 だが、圭が知る限り、このゲームは公平だと思える。


 そして、実際に契約が施された。

 まずはプレイヤー側


第六条 全契約者は田村零士が使用するカップが置かれた机に触れること一切を禁止とする。また、その机や机の上にあるカップを振動させるような行為も全面的に禁止とする。


第七条 全契約者はカップにサイコロが隠されることころを見てはならない。


 続いて、プレイヤー外。田村と藤島に向けて。


第四条 甲は丙が行うゲームのディーラーとなる。


第五条 甲はカップの中にサイコロを必ず隠さなければならない。


第六条 甲はサイコロの位置をゲーム終了を決める答えの時以外で、他者に教えてはならない。


 この契約のもと、次のゲームは始まる。

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