第12話 勝ち確定

「これで、このゲーム……俺の勝ちだ」

 今、圭はアリスこと森のコマがゴールに地点に立ったと同時、勝利宣言をして真の王の前に立ちふさがっている状態。


 これに対し、少し唖然とした様子でいるのは藤島。田村は満足げに腕を組み安心したように椅子の背にもたれた。


 真の王は使い終えたカードを束ね始めた。

「……まぁ、そういうことだね」

 自分の分をそろえてその束をそっと机の上に置いた。

「あたしの負け。このゲームは君の勝ちであってるよ」



「待って……どういうこと? 話が付いていけないんだけど」

 ここでスゴロクゲームの一位を勝ち取ったアリスが声を荒げてきた。


「このゲームは順位を当ててその結果を競うゲームだよな? 一位を当てるゲームではなかったはず。まだ、二、三、四位は決まってない。均衡状態だし、どうなるかはまだ分からないはず」


「アリスさん。別に圭くんが勝ったのだからそれで構わないではありませんか」

 田村はニコニコしながらアリスをなだめようとする。

「いや……それは……いや、そういう話では……」


 納得できない様子の森、そしてどうすればいのか分かっていない藤島。そんな中、田村は自分のコマをいじりながら言葉を続けてきた。

「アリスさんが一位になった時点でこのゲームの勝敗は決まっているんですよ。今回の子の場合に至ってはですが」


 田村の指がゴール地点にあるアリスのコマに向けられる。

「一位はアリスに決まった時点で、真の王の一位予想は外れるのは確定しますよね? 現時点では圭くんの優勢。では、真の王が逆転するにはどうすればよいですか?」


「それ以降の順位を当てればいい」


「そうですね。ですが、一位が外れれば必然的にもう一つの順位も外すことになるのは理解できますよね? 一人外して残り三人の順位を当てるのは物理的に不可能です。プレイヤーは四人で、ランク外はないのですから。


 つまり、一位を外した時点で頑張っても当てられるのは二人まで。今回の場合、真の王はアリスを三位で予想していたため、三位はどうあがいても当てられないので、二位と四位を当てなければなりません。

 しかし、二位は……」


 田村は一度、ゲームの始めにベッターが書いた予想順位を指さした。

 圭の予想、『一位:アリス、二位;次郎、三位:藤島、四位:田村』

 真の王の予想、『一位:田村:二位:次郎、三位:アリス、四位:藤島』


「予想がかぶっている。つまり、真の王が二位を当てれば圭もまた二位が当たるのは必然。その時点で圭は一位と二位の予想を当てたことになる。真の王は最低でも二人当てないとならない、しかも当てられるのは二位と四位。

 どうあがいても勝てない。結果はもう決まっていた……というわけか」



 圭は田村と森の会話を聞きながら自身の想定と答え合わせをしていた。冷静になって客観視すれば至極単純な組み合わせ問題。中学の問題で会ったとしても違和感はないほどだと思う。


 だが、六枚のカードがもたらす思考におぼれ悩む間、どんどん進められていくスゴロクを前にしてそのことに気づくのが大きく遅れていた。

 別の思考に囚われてゲームの本質が見えにくくなっていた。


「ちなみに、一位がわたしで決定していた場合は、逆に真の王の勝利が確定していました。圭くんは途中でそのことに気づけたのでしょう」


 そういうことだ、今思えば、田村が言った「冷静になれ」はこれを気づかせるためのセリフだったのかもしれない。そして、それに気づけば、とにかく一位に固執することが大切であると気づけることになる。


「まぁ、そういうことだね。このゲームは二位から四位の間で一人でも予想がかぶれば、一位が決まるだけで決着がつく可能性が出てくる。それに、どういう組み合わせでも二位が決まるころには決着がつく可能性が高い。


 だけどこれに気づけないベッターは、ゲームはまだ先があると勘違いしてカードを温存、気が付いたときには負けている、ということになる」


「でも、その割には気になることがあるんですよね。おそらく、圭くんは本当の終盤までそのことに気づけていなかったように思えるんです。

 圭くんがはっきりと気づいたのは、真の王、あなたが出目を二倍にするカードを使用宣言したタイミングでした。


 しかし、あの時残り四マス。そのカードを使えば確実にゴールできるとは思います。しかし、使わなくても勝てる可能性が十分ありました。あのまま黙って運に委ねたほうが、勝率が高かったように思えるんです。

 あのごり押しは、状況から見て違和感がありました」


「別にたいしたことはありませんよ。単純にあたしの残りカードは少なかったからあそこで決着をつけるべきだっただけ。それにこのゲームの提案者はあたし、公平性を保つなら、圭に気づけるチャンスを与えるべきだと思っただけのことです」


 田村の言及に対する真の王の意見も表面的には合っている。だが、本当に表面的な話で少し深く読めば、圭の中でも違和感が出てくる。


 今回のゲーム、真の王はもっといい攻め方をできたんじゃないかと思える。もっと圭にゲームの本質を気づかせないまま、黙って一位を取りに行くことは出来たはず……。


 それは単純に、真の王にはそれだけの技術、知能がなかったと考えていいのか……。もし……そうでなかったら……。


「実はわざと負けた……なんてことは考えられませんか?」

 圭が思った瞬間、田村が同じことを真の王に向けて口に出していた。


 だが。真の王はそれを鼻で笑って返す。

「なぜ? 理由がなさすぎでしょ」


「一方的なゲームはつまらない。均衡させたかったとかはどうです?」


「あたしが田村先輩みたいな狂人ゲーマーだと思うのですか?」


 田村はしばらく無言になったが、やがて大きく口角を吊り上げた。

「……狂人はその通りだと思いますが……、ゲーマーとは……程遠そうですね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る