第11話 このゲームの状況

 現状、田村四十六マス目、藤島四十五マス目、次郎とアリスが三十八マス目となっている。そして、次は藤島の手番というタイミングで繰り出されたカード。


「圭はどうする?」

 裏向きに置かれたカードに手を添えつつ真の王は圭に聞いてくる。


 なんだ、この展開は……? なぜここまで怒涛にカードを使用してくる? 圭が奴の立場なら、ここでのカード使用は間違いなく躊躇する。いや、出せない。

 残りの奴のカードは二倍にするのと一回休み、二倍カードを使うメリットはまるでないので選択肢は一つだが……。


 そこまでして藤島が一位になるのを阻止するか? 田村を一位にするのにカードを使い切る勢いだぞ? ……ゲーム自体は一位が決まってもまだ続く。あとを考えれば……後々不利になると考えられるのではないのか?


 実際は……そうではない? 圭はまだこのゲームの本質は見切れていない?


「いや……使わない」


 惑わされるな。カードを温存する策に出たのに、ここで中途半端に使えばそれこそブレる……。ただでさえゲームに飲み込まれているのに、自分でも何がしたいのか分からなくなってはダメだ。


 だいたい、藤島のゴールを阻止したいなら、勝手にすればいい。藤島が一位になることは圭も望んでいない、お互いメリットがある。


 真の王はうなずくとそのままカードを表に向けた。

「あたしのカードは『対象を一回休みにする』。よって藤島さんはパスね。はい、次は西田くん」


 藤島はパスされサイコロを握ることなく、次の手番、次郎に渡る。次郎は三十八マス目。いくら何でも……ここでカードを使用してくることなんてないよな?

 ここではさすがにメリットがなさすぎる。


 ちらりと真の王に視線を向ける。奴は特に反応を見せず、次郎がサイコロを振るのを見守っている感じ。

 実際、真の王も圭も共にカードを使用せず、結果は四、四十二マス目に進む。


 だよな……。


 ふたたび、手番は田村零士となる。現在は四十六マス目……。四以上出せばゴールとなってしまう。圭として、それは阻止するべきなのか……。


 ここで入れ替えのカードで後ろにいるアリスと入れ替えれば、逆転できる。しかし、入れ替えカードは強力だし、なにより相手は既に使用済み。


 使えるタイミングは他にもある……。なにより、こちらからカードを使用しても、この状況で相手もカードを使用するとは思えない。相手のカードを使い切らせるということを考えれば……。


「カード使用を宣言します」

 思考を重ねても、真の王の行動は圭の予想を裏切る結果となっていった。奴の手札は残り一枚しかない……。すなわち出目を二倍にするカード確定……。


 残り四マスでゴールなんだぞ? オーバーキルにも程がある……。それとも確実に一位にしたいというのか? 


 ここで……拒んでみるか? ここまでカードをはたいてきたが、圭が防御札を出せばすべて流すことさえできる。しかし、ここでも使用しなければ、圭は手札を四枚温存したままで行ける。相手の手札がゼロなら残りは圧倒的に有利……。


 ……しかし、本当にそうなのか? 真の王は明らかにこの一位に執着している。確かに一位を取ることは重要だが……。


 ほかのプレイヤーもゴール間近。残りの圭のカードを使用しきれば。残りのプレイヤーの順位を自分の意図するものに出来れば、逆転……。


「……うん?」

 今、圭の頭の中に唐突な違和感が流れ込んできた。今までの圭の考え方が愚かであったと思えてしまう違和感。


 ……これは……もしかして……、そういう……ことなのか? ふと視界にはこちらに向かって視線を寄せてくる田村の姿が映る。

 その視線が決め手となり、圭は手札から一枚カードを引っ張り出した。


「俺もカードを使用。対抗する」

 カードを裏向きにして机の上に置く。対して真の王は表情を一気に硬くする。


「オッケー……、じゃあ、カードを表に向けようか」

 そう言いながら先に真の王がカードをめくる。圭も遅れて同じように表にめくり上げた。


 真の王のカードは一つしかない。

「あたしのカードは当然、『サイコロの出目を二倍にする』。で、圭は?」


 めくったカードを自分自身でも確認しながら読み上げる。

「俺は……『プレイヤー二人を指定して場所を入れ替える』カード。対象は、アリスだ」


「……まぁ、そうなるんだろうね」

 この一手で真の王の顔が一気にこわばった。圭にとって間違っていない一手であったことを確信できる。


 アリスの立ち位置は三十八マス目、田村の場所は四十六マス目。これが入れ替えられる。そして、田村がサイコロを振る番。


 この出目はカードの効果で二倍となる。現在の田村の位置が三十八マス目なので、もしこのまま六の目が出てしまえば、一位で上がることになるが……。


「……圭くん……。もし六を出してしまったら申し訳ありません」

「黙って投げてくれます?」


 圭が答えるよりずっと先に真の王が口をはさむ。田村はその言葉に対し適度に笑みをこぼすとサイコロを机の上に転がした。

 スゴロクシートの上を転がっていくサイコロは中心を超えた先でピタリと停止。


「……五……ですか。つまり十マス進めることになるんですね」

 田村が一……二……と声に出しながら自身のコマを進めていく。そして……ゴールのニマス手前、四十八マス目で止まった。


 内心大きな安堵をもって、次の手番であるアリスの手がサイコロに延びるのを見る。そして、すぐさまカードをもう一枚繰り出した。


「カードを使用する」

 圭がカードを出すと同時、真の王が手を前に出す。


「あたしはもう出すカードがないからね。どうぞ、ご自由に」

「ありがたくそうさせてもらう」


 そう言ったときにはもう、圭はカードをめくり上げていた。

「俺が出したカードは『サイコロの出目を二倍にする』。アリス、次に振るお前のサイコロは出目が二倍。二以上を出せばお前はゴールだ」


 アリスは手に取ったサイコロを見てつぶやく。

「……一が出ても恨むなよ」

 そう言いつつサイコロを投げた。


 結果は……二。

「……ギリギリか……でも……これでわたしはゴールだね」

 アリスが自分のコマを手に一マスずつ進めていく。そのまま、四マスさきのゴールにコマが乗った。


 そして、圭の想定が正しいのならば……

「これで、このゲーム……俺の勝ちだ」

 そうはっきりと口にして真の王をにらみつけた。

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