第10話 カード温存策

 圭の予想、『一位:アリス、二位;次郎、三位:藤島、四位:田村』

 真の王の予想、『一位:田村:二位:次郎、三位:アリス、四位:藤島』


 田村の手番の前でカードを裏向きで机の上に配置。カードの使用を宣言。


「いいね。積極的になってきたじゃん」

 圭のカード使用を前に、真の王は自分のカードと見比べ始める。


 現在、田村とアリスが三十六マス目、次郎が三十一マス目、藤島が三十マス目という立ち位置。


「そうだね……どうしよっか。微妙なタイミングだよね……。しかし……ゲームの流れは分かっていると見ていいのかな? ……いや、理解できていないのか……」

 自分の手札を一枚ずつ触りながらそうつぶやく。


「何を言われようが反応は見せないぞ?」

「別に期待はしてないよ。はい、じゃあこのカードで」

 真の王もカード使用を宣言。そして、同時に表にめくり上げる。


「俺は『全プレイヤーを一マス戻す』カード」

「……あれ? ……あたしは『サイコロの出目をマイナスにする』カード……」


 ……うまく誘えた……。防御札になりうるカードを消費させることに成功できた。


「圭ったなら、随分芸がないことするね。あたしと同じ手口。まぁ、いいよ。とりあえず処理しちゃおう。まずは全員が一マス戻る」


 真の王の指示で全員がコマを一つ戻す。そこで圭が口を出す。

「藤島さんは一マス下がった先がイベントマス。ニマス進む」


 このマスは先に田村が踏んでいたマスでもある。前、二十九マス目に田村が踏んだことによりニマス進み、三十一マスで、三十二マスにいるアリスに迫っていた。

 一つ目のカード勝負のタイミングのことだ。


 そして、今回三十マスにいた藤島は一マス戻り、その二十九マス目。そこを踏んだことにより、ニマス進む。次郎は一マス下がっただけの三十マス。

 結果、藤島は次郎の一歩先のマスに移動。


「うん。じゃぁ、次はあたしのカードの処理……出目をマイナスにする。では、田村先輩、どうぞ。サイコロを振ってください」


 田村がサイコロを振る。結果は三。マイナスということで、田村は三十三マス目に移動することになる。


 良かった、三なら許容範囲だ。次は……藤島の手番……ここはパス。藤島は二を出して三十三マス目に移動。

 続いて次郎の手番だ。


 ここで……さらに打っておくか……、今度こそマイナスカードを使用するタイミング。ここで次郎を後ろに下がらせておけば藤島は三位に残せる。

 そして、カードを切ろうと手札に手を当てた瞬間、


「ちょっとここは冷静になって考えたほうがいいかもしれないですねぇ……」


「……え?」

 唐突に田村がそんなセリフを口にしだす。


「田村先輩?」

 真の王がものすごくいい笑顔、ただし奥は明らかに笑うどころか怒りを隠し持っていると分かる表情で言ってくる。


「今のはわたしの独り言です。別に気にしないでくださいよ」

 それを田村が不敵な笑みで返す。


 すると真の王はかすかに表情をゆがませ、軽い舌打ち。

「……口を完全封じるべきだったか」


 このやり取り……どう考えても田村は圭に何かを伝えようとしていた。……ストレートに冷静に考え直せと……。圭がカードを切ろうとしたタイミングにいった。

 この使用は……間違っていると?


「……続けていいのか?」

 次郎がサイコロを手にして圭に声をかけてくる。それは久しぶりにした次郎との会話であったが、状況があまりに特殊すぎた。


「プレイヤーはベッターに関与しない。気にせずプレイを続けてね」

 しかも、真の王のセリフにより会話も許されない。


 次郎は真の王の言葉に従い、サイコロを振り始めた。


 ……あのタイミングでのカード使用は……間違っていた? ……いや、でも……確かに考えればそうか……。相手も躊躇なくカードを使用してくるから、こっちも流れで消費しようとしていたが、ゲーム自体はまだ中盤。


 基本的にスゴロクは運ゲーなのだから、例えここでカードを切りまくって順位を操作しても、運で逆転されてしまうことを考えれば、できる限りカードの使用タイミングはゴールギリギリでないといけない……わけか?


 しかし、だとすれば、真の王も本当にしっかりカードを消費している……、これは圭にもカードを消費させるためにした誘導?


 ただ、どちらにしてもあの田村の独り言という助言で圭が取るべき手段が揺らいでしまった。結局カードを使用できないまま、スゴロクはまた進んでいく。

 そして、真の王もまたしばらくカードを使用しなかった。


 ゲームは大きく順位を変えることなく進んでいく。アリスが四十五マス目、田村が四十二マス目、次郎三十八マス目、藤島三十六マス目。


 次は田村の手番……、ゴールまで残り八マス。何もなければ、絶対ゴールできない、二倍のカードを使われたときだけしかない。

 自分から動く必要はない、もし相手が打ってきたら対抗する。


 が、真の王は動かず、田村は普通にサイコロを振る。

「おや、四ですか。ゴールが近づきましたよ」

 田村は四十六マス目、ゴールを射程に収めることになる。


 だが、アリスは既に四十五マス目、既に射程圏内。次に五以上を出せばゴール確実となる。ここで真の王は動くのだろうか……。


 運が悪ければこのまま一位はアリスとなる。一位を絶対に阻止したいなら、まずカードは使用してくるだろう。しかし、既に真の王はカードを三枚使用している。

 圭はまだ未使用。


 真の王がここで打ったところを圭がパスすれば、カードの差は二枚に広がる。そして、パスしても圭の状況が大きく不利になることはない。


「カードを使用します」

 ……動いてきたか……。


 ここで圭はカードを使用するべきか……。真の王の残りカードはなんだ? 一回休み、入れ替え、二倍……。


 二倍は絶対にありえない、ただの自殺だ。であれば残り二枚……、入れ替えカードを使われても、そのあと圭もまた使用すればすぐにチャラに出来る。一回休みのカードなら、最強防御札であるためこっちが何を出してもほぼ無駄……。


「俺は使用しない」

 ここはカードを温存する。もし、読み違えて一位を田村に奪われたとしても、残りのカード差があれば、ほかの順位を圭のものにすれば逆転できる。

 相手にカードを使わせればいい。


「では、公開。あたしのカードは『プレイヤー二人を指定して場所を入れ替える』。入れ替えの対象は藤島さんです。」


 やはりな……しかし、こちらの手にも入れ替えカードはある。ひとまずは問題ない。


 指定通り、場所の入れ替えが起こり、アリスが三十六マス、藤島が四十五マス。続いてアリスがそのままサイコロを振る。結果は二。

 よってアリスの場所は三十八マス。


 次郎と並んで三位の位置にアリスがたつ。続いて、藤島……、ここはどうなる?

 藤島は四十五マスでアリスの代わりにゴールの射程圏内に入った。いや……同じ考えで、ここで圭はカードを使用しない。温存で行こう。



「カードを使用します」

 だが、躊躇なく真の王はカード使用を宣言してきた。

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