第9話 後手後手
圭の予想、『一位:アリス、二位;次郎、三位:藤島、四位:田村』
真の王の予想、『一位:田村:二位:次郎、三位:アリス、四位:藤島』
アリスこと森の手番が終わり、次の手番である藤島がサイコロを振る番となる。そして、そのまま通常のスゴロクが再開される。
森が三十六マスで田村が三十マス。
現時点では森が一位……、次の田村の手番で彼女に追い付くには最大の六が出る必要がある。しかも、田村のその次はすぐに森の手番。何も仕掛けなければ、森の順位は絶対に保たれる位置だ。
わざわざここでアリスの位置を守るため自らカードを切る理由はない。むしろ、相手にさらにカードを切らせるチャンス。
なら、今度は現在の三位と四位に目を向けてみるか……。このゲーム、一位を予想通りにしても、ほかの人たち全員を外せば結果は敗北となる。一位だけに目を向けていてはダメ。
じっくり思考を重ねているが、言っている間に藤島はサイコロを振り終え、次郎の手番。こちらがどれだけ悩もうとスゴロクは刻一刻と進んでいく。
藤島は目を五出していたため、三十マス目、田村に追いつく。次郎は二十五マス目で、これからサイコロを振ることになる。
圭としてはこのまま藤島は三位でいてもらいたい。次郎の順位はどうでもいいため、このまま四位に留まらせれば、一位アリス、三位藤島で二人分の点を取って勝利が得られる。
そして間を開けるならば今がチャンス。次郎は四以上を出さないと藤島には追い付けない。ここで一や二で押さえれば、差を開けさせることができる。
いや、任意のカードは使用済みだからここで使えるのはマイナスカード。
ここで動いてみるか……。
いや、待て……。でも、この状況で打てば、圭が出すカードはマイナスカードだとすぐに真の王は気づいてしまう。それで防御札を打たれれば……。
いや、それでもいいのか……。このマイナスに対する防御札は、一回休みか任意の数カード、どちらを取られても戦況は有利のまま……。
間違いない、ここは打つタイミング。
「あっ」
と、身構えたとき、既に次郎はサイコロを振り終えていた。サイコロの目は六、藤島と田村の一マス先、三十一マス目を行くことになった……。
しまった……タイミングを逃した……。
「あれ? どうしたの圭? カードを出し損ねて失敗した、って顔をしてるね? あ、あたしここでカードを使用します」
言っている間にも、真の王は次のカードを机の上にセットしてきた。
「圭はどうする? 使う? カード」
……確かに、このタイミングはゲーム内で唯一じっくりと思考できるタイミングだ。だけど、だからと言って後手に分かり続けていれば……間違いなく勝利は遠のいてしまう。こっちから動かないといけないのに……。
……四人の位置を常に把握しながら選択を迫られる……、おまけに放っておけばスゴロクはどんどん進行してしまう。常に変わっていく戦況を把握し、すばやく最善手を迷いなく打つ技術が要されている……。
ここでの相手のカードは一体なにか……。田村の手番で、一位の森から六マス離れている。ここで優位に立てるカードと言えば……出目を二倍にするカードか、任意の数のカード……。
確実性を見るなら任意の数だが、最大値を指定しても追い付くだけ、すぐに森の手番でまた離される。ならば、確率ではあるが、四以上当たる可能性を見て二倍か……、実質二分の位置で追い付き、追い越せる。
そして、それらに対応する防御札は簡単、マイナスカード。これを打てば抑えられる……。
しかし、ここまでカードの使用タイミング三つの経験を得てはっきりわかったことがある。カードを出せば、最善手となりうるカードがなんなのかは簡単に絞り込めてしまうということ。
基本的に、先手側でそのタイミングにおける最善手カードは多くて二種。打つと決めれば出すカードに悩みは出にくい。逆に、後手は簡単にカードを予想できてしまう。
だが、それはすなわち空打ちを狙いやすいということでもあるんだ。空討ちを狙うなら、一回休みか任意の数カード……。
いや、一回休みをここで使うとは思えない。こっちがカードを使用しばければ無駄打ちどころか、自分の不利。防御札となるなら、任意の数カードのみか。これなら、相手が対抗してきたか否かで数値を変えられる点でも……。
なら、その裏をかいたカードを選択するか? すなわち一回休みのカードを出す? ……出目を二倍にするなら、それは最高だし、任意の数でも黙らすことができる……いや、違う……無意味か……。
任意の数に対抗できるカードは実質ないんだ。その柔軟性から防御札としての有効性のほうが高い……。
まって……やばい……。考えれば考えるほど、訳が分からなくなってくる。堂々巡りというか……、クソ……。……間違いない……今の圭は完全に飲まれている……。このままでは……押しつぶされる……。
戦況は圭が有利であるはずなのに……追い詰められているのは……こっちなのか……。
いや……相手だって……多少は焦っているはず、少なくとも幸先はあまりよくないんだ。ここで何かしら……戦況の流れを変えようとしてくるはず……。
なら、こっちは精神面での流れを変える一手……。
「俺は使用しない。対抗無しだ」
俺は決めて、はっきりと言い放った。
「……あら……つまらない。弱気になった?」
「口車には乗らない。さっさとゲームを回せ」
真の王は笑みを返したあと「了解」と言って自分のカードをめくり上げた。
「あたしは『サイコロの出目をベッターの任意の数にする』。効果の数は六で」
奴の選んだカード……、やはり圭が防御札でマイナスカードを使用してくることを読んだ一手だったか……。
任意の数であるため、空打ちとはいいがたいが、それでも万能カードをここで切らせたのは大きいはず。
結果、田村は三十六マス。アリスこと森と並ぶ。そして、次は森がサイコロを振る手番だ。
森が転がっているサイコロを手に取るその前に、圭は動いた。
「ここで、カードの使用を宣言する!」
そして自分の手札か一枚を伏せて机の上に置いた。さぁ、攻めていこう。
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