第8話 ベッターの基本

 圭の予想、『一位:アリス、二位;次郎、三位:藤島、四位:田村』

 真の王の予想、『一位:田村:二位:次郎、三位:アリス、四位:藤島』


 スゴロク開始から中盤に差し掛かるころ、真の王からカードがついに出された。机の上に一枚、裏向きでセットされている。


「圭。君はどうする? パスするか、使用するか選んで」


 ……この状況でカードを出すべきか、出すならどのカードか……。


 まずは、それぞれの配置を確認。森は三十二マス目、田村は三十一マス目、次郎と藤島が二十五マス目で重なっている状態。

 そして、森の手番の前で現在、ストップか。


「圭くん、すみませんね。あなたの予想通りいかず、一位争いをしてしまって」


 田村が謝っているとは思えないほどニコニコ笑いながらそんなことを言う。

「本当ですよ、先輩。もっと後ろに下がってもらえます?」


 そんな悪態をついていると、真の王が言葉をはさんできた。

「田村先輩、今はゲーム中ですよ? 特例も出していませんので、ゲームの介入は禁止です。言葉は慎んでいただけますか?」


「別に介入などしていませんよ。他愛もないお話をしただけのことです。制限されている、アドバイスでも指示でもありません。

 それに、制限が設けられながらも、こうしてしゃべることができた時点で、エンゲームにおいてはルール以内なのは基本でしょう」


 真の王は返す言葉が見つからなかったのかそのまま黙った。


 こういっているが、むしろありがたい展開だ。お互いの一位予想が前に出ている状況は非常に考えやすい。


 おそらくだが、この状況で場所入れ替えのカードは使ってこないだろう。まず、真っ先に除外していいカードのはずだ。使われても、そのカードのポテンシャルを引き出しきるどの効果は出ない。


 もう一つ、考慮から外していいのは全員一マス下げるカード。どのプレイヤーも背後にイベントマスはないので、文字通りの効果しかでない。

 もし、使ってきたとしたら、それは防御札の空振りを狙ったものだろう。

 合わせて、実質防御札専用と思われる一回休みカードもなし。


 残るカードは、出目を操作するカード。二倍とマイナスと任意の三つだ。真の王にとって対象である森ことアリスは三位にしたい相手。ここで少し後ろに下げて田村を一位にさせたい……ということなのか……?

 つまり……マイナスのカード。


 真の王にとってゲームの勝利を目指すなら、ここでの最善手は『サイコロの出目をマイナスにする』カード。それに対して行う防御カードは『サイコロの出目をベッターの任意の数にする』カードだな。

 出目を一にすれば、マイナス一で、順位は同立という結果に抑えられる。


 問題は、この防御を行うかどうか。このカードを防御札と考えるならば、これ以上ない手。しかし、任意の数にするこのカードは攻撃札にもなりえる。

 後々を考えれば、ここで使用しないのも選択肢か……。


 ここで、少し厄介なことになっても、場所入れ替えのカードで逆転可能ということもあるし、ここは様子見でも……。

 いや、その考えは危ない。場所入れ替えのカードは強力だが、それはお互い同じカードを持っていると考えるならば話は少し変わる。


 例えこっちが最善手で場所入れ替えを使っても、その直後、相手にもそのカードを使われたら、何も変わらない。……むしろ、場所入れ替えのカードもまた、使える場所は難しい。


 ……そうやって考えれば、どのカードも効果が発揮される時にと考えて待っていれば、使用する前にゲームが終わってしまうかもしれない。カードの未使用率は勝敗に影響しない以上、無駄に残すのは悪手。


 まだ、このゲームは個々から始まるようなもの。まずはとにかく試してみるという考えで……、打ってみるか……。


「俺もカードを使用する」

 そう宣言し、出目を任意の数にするカードを裏面で配置した。


「では、両者同時にオープンで」

 真の王がカードに手をかけたのを見て、自分も同じようにする。そして、同時にめくり上げた。


 真の王の出したカードは……

『全プレイヤーを一マス戻す』


 予想を外した!? いや……空打ちを誘われたわけか……。


「そっちは任意の数の奴だね。オーケー、じゃあ、まずわたしのほうから効果を処理します。みなさん、一マス戻ってください」


 指示通り、全員が自分のコマを一マス戻した。事前に確認していたため、イベントマスに当たる人はおらず、それ以上の結果は起きない。


「じゃあ、次は圭。アリスさんの出目に指定する数を言ってください」


 ……まぁ、別にいい。任意のカードは攻撃にも使えるんだ。ここは黙って最大値「六」を出しておけば、十分カードの効果は得られる……。


「あっ!?」

 だが、すぐにそれは違うことに気が付いた。その理由は、森のコマの六マスさきにあるマス。それはイベントマスであり、内容が「三マス戻る」だったのだ。


 一マス戻る前であれば、六マス指定すればそれを飛ばして先に進めた。だが、真の王のカードで一マス下がっているため、そうすれば、実質任意の数を三にするのと同じことになる。


「……五マス」

「はい。じゃあ、アリスさん。コマを五マス進めてください」


 ……、これによりアリスのコマが三十六マス、田村は三十マス。アリスの一位の座を守りつつ、先に進めることができた。結果は上々……。


 では、ないだろうな……。間違いなくこれは真の王の狙い通りの結果だったはずだ。防御札を掠ったおろか、カードのポテンシャルを引き出しきることすら阻まれた結果だったのだから。


 だが、真の王が取る基本戦術は理解した。相手の出せるカードをわざと絞りこめる状況でカードを出し、それに対する防御札を出させる。そして、その防御札を抑え込む……。


 なるほどね……真の王は、このゲームを提案しただけあって、考え方は圭よりずっと固まっているらしい。

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