第7話 予想、そしてスゴロクスタート
全員の契約がサクッとすまされ、指定位置にスタンバイ。プレイヤー四人がスゴロクの周りで座り、それぞれのコマを持つ。
田村が真っ先にスゴロクのスタート位置に置きながら、圭のほうを向いてきた。
「圭くん」
圭に向かって声をかけてくるが、それきり言葉を続けない。しばらく田村の様子を見ていると、近くまで来いと言っていることを悟れた。
この状況で必要以上に拒むのは良くないと思い、さりげなくよる。
「圭くん、まだ二ゲーム目です。第一ゲームは気にしなくて大丈夫ですよ、切り替えていきましょう」
……? それを言いに来たのか? たった、それだけのセリフを? 確かに声をかける内容としては自然で、状況から見ても適切だとは思う。
でも、同時に当たり障りがなさすぎるアドバイスともいえる。そんなことをわざわざ田村が言うとは思えなかった。
と、そんなことを思っているときだった。田村は背中越しに圭の手へメモ用紙を突き付けてきたのだ。
これは反応を示すわけにはいかないと思い、表情を変えないまま、それを受け取る。
それを受け取るのと大差ない間隔だった。ふと、田村の向かい側に座るアリスが手を後ろに向けて振り上げた。投げられたのはサイコロだった。
しばらく宙を舞った後、音を立てて床に転がっていく。
「真の王が用意したサイコロを使用する気にはなれん。田村のサイコロを使わせてもらう。田村、まだお前のほうが真の王よりは紙一重で信用できる」
「……それはそれは、アリスさんからは非常に深い信頼をえられているようですね。いいでしょう。真の王、かまいませんよね? そもそも、このゲームに至ってはわたしたちがプレイヤー、どのサイコロを使用するかはわたしたちが決めます」
言いながら、一度席を立ち、田村が用意し机に並べられていた道具の中からサイコロを持ってきた。
そして、この動作の中で圭は田村からもらったメモ用紙に目を通していた。
『真の王は仮面を外し、泉さんの顔と性格になっています。これはあなたを陥れるための演技、策です。目の前にいるのは、あなたの知る泉さんではありません。真の王です。それは決してお忘れなく』
亜壽香の目を盗みながら急いで書いた結果なのだろう、非常に荒れた時ではあったが、その意味は理解できた。
そして、それは頭では理解していても、感情が今一つ付いていけていなかったことを的確に付いてきていた。
例え仮面を外そうと、目の前の奴は真の王、圭が討つべき敵なんだ。情に流され時を逃せば、それは相手の思うつぼ。
真の王……、奴は……真の王。
「じゃあ、圭。予想を立ててくれる? 一位から四位までをこの紙に書いてちょうだい」
真の王から渡された紙とペン。それをもとに、近くにあった机で予想を立てる。一応、ここにいる人物のことはそれなりに分かっている者ばかりだ。その人たちの性格から考慮すれば……、
ゲームが得意という意味では……田村が一位……か。藤島は……四位……。
……いや……、これは意味のない思考か……。サイコロというゲーム自体は完全な運なんだ。極論、この予想をどうするかの意味はまるでない。
重要なのはあくまで、その予想どおり、どうゲームに介入し組み立てるか。
予想を立てた紙を提出。この場にいる全員に公開される。
圭の予想は『一位:アリス、二位;次郎、三位:藤島、四位:田村』
真の王の予想は『一位:田村:二位:次郎、三位:アリス、四位:藤島』
「……圭くんはわたしが四位になると予想を立てたんですね。もしかして、わざとですか? 嫌がらせだったりします?」
田村がやたらと不敵な笑み質問してくる。むろん、答える気はなかった。
「予想もたてられたので。では、みなさん。スゴロクのスタートです!」
真の王が両手を叩く合図とともに、スゴロクが始まっていた。
手番の順番は、予想を考慮して考えられ、結果「田村→アリス→藤島→次郎」となった。
このスゴロクのマスは五十ある。六面サイコロの期待値が三・五であることを考えると、単純計算で十五回振ればゴールか……。イベント枠やカードがあるゆえに、実際どうなるかは分からないが、概ねこの期待値は変わらないと見ていい。
カードは六枚……どう、ゲームを進めていけばいいのだろうか。
圭と真の王が立てた予想のうち、二位:次郎はお互いに同じだった。であれば、利害が一致しているため、一番狙いやすいポイント……と考えてはダメか。
二位:次郎が当たったとしても、真の王との差は生まれない。なら、二位はもはや実質どうでもいい。
荒れるのは田村とアリスの順位だな。田村は圭が四位で真の王が一位、アリスは圭が一位で真の王が三位予想。お互い狙いが離れているうえに、当たった人数が同じなら当てた順位が影響するため、相手の一位は出来る限り外させるべきことを考えれば、この二人をどう操るかがポイントになる。
そして、カードの使い方……、相手が先に出した後にも対抗できることを見れば、後出しは防御札を打てる分、有利と考えられるか?
いや、そうじゃないな……。それでは後手に回る。防御札と言っても、すべてのカードに対応できるカードはない。一回休みは強力な防御札になりえるだろうが、場所入れ替えや全員一マス戻すカードには無力。実質カードは無駄。
空うちをさせたり、ということも戦略になる。それを考えればむしろ、積極的に自分からカードを出すべきか? いや、だとしても……。
ふむ……カードはたったの六枚だが……考えればきりがなさそうだな……。
一方ではスゴロクをやっているとは思えないほど、ピリピリした雰囲気の中でゲームが進み続けていた。
「おっ! ロクが出ましたね。一……二……」
否……一人、明らかに楽しんでいる者がいた。
田村は自分のコマを進めていく。
「おや、ラッキーですね。さらにイベントマスでニマス進められました。一気に追い付けましたよ」
早くのゲームは中盤に差し掛かっている状況だった。先頭のアリスが既に三十マス目を超えている。そこに田村零士が追従する形になってきていた。
まだ、カードは使われない。まぁ、それもそうだろう。カードには一段協力と思われる場所入れ替えカードがある。どれだけカードを切って順位を操作しても、このカード一枚で逆転されることが考えられる。
このカード一枚の存在が、一段とゲームの運びを慎重にさせているように思える。
だが、次の手番であるアリスがサイコロに触れる瞬間だった。
「カードを使用します」
真の王が先に動きだした。
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