第6話 ベッタースゴロク

 スゴロクの順位を予想し、その結果で競い合うというゲームが亜壽香から提案された。そして、このゲームにおいて重要な要素となりうるのであろう物が、渡されたカードらしい。


 カードを一枚ずつ確認していく。


・サイコロの出目をベッターの任意の数にする。

・サイコロの出目を二倍にする。

・サイコロの出目をマイナスにする。

・プレイヤー一人を指定してその人と場所を入れ替える。

・対象を一回休みにする。

・全プレイヤーを一マス戻す。


「効果が分からないものはある?」


 書いていることは非情にシンプルだと思う。スゴロクで使うカードを思えばすべて効果は理解できる。

「……いや、大丈夫。だけど、このカードの使用タイミングは?」


「対象となるプレイヤーがサイコロを振る直前だね。前の人がサイコロを振ったあと、から次の人が降るまでの間でカードを出すと、次の人に対して効果が発揮されると考えていいかな。


 全体に効果が及ぶのもあるけど、タイミングは同じ。あと、場所を入れ替えるカードは、一方が次の人である必要がある。もう一人は任意でいいよ」


 説明を受けていると、田村が圭のカードを覗き込んでくる。特に隠す必要もないので見せてやると、すぐに田村は亜壽香に向けて手を挙げた。


「質問です。一回休みや、サイコロの出目に影響するカードなら当たりまえでしょうが、それ以外のカードが使用された場合、その対象の人はサイコロを振れるのですか?」


「振れますよ。ただし、振るのは効果を処理したあとになります。二人の場所を入れ替えるカードが使用された場合、移動後にサイコロを振ることになりますね」


 田村は圭の持つカードとスゴロクを見比べる。

 すると、亜壽香はポンと手をたたいた。


「あ、あと、カードの効果でプレイヤーが移動した先がイベント枠ならその効果は処理することになります。入れ替わりで、入れ替わった先がイベント枠ならその効果を処理した後に、サイコロを振る流れになるわけですね」


 あぁ……そういうことね……。ということは……全プレイヤーが一マス戻るカードを使用したとき、プレイヤーによってはさらに移動を重ねる場合があるわけだ。

 このカードはそういう使用の仕方が求められているのだろう。


 あくまでプレイヤーでカードを使用する側ではない田村がふむふむと頷いている。

「なるほどね……、ちなみにですけど、ベッターが二人同時にカードを使用した場合とかはどうなります? それとか、片方がカードを使用した後、遅れて使用を宣言した場合とかは? あとは、二枚だしとか」


 田村零士はもう、自分がベッターであった場合、どうするか戦略を立てているのだろうか……。そしてゲームする自分を想定し、疑問をすぐに投げかける。


「あぁ、その説明してなかったですね。というより、まずはカードの実際の使用の仕方ですね」

 亜壽香は例えばと言いながらカードを一枚、自分の手札から切った。そして、それを裏向きにして机の上に置く。


「カードを使用しようと思った場合、このようにまずはカードを裏向きにして机の上に置きます。これがカードを使用するという宣言になります。


 それに対して、圭。次は君がカードを使用するかを考える。今は仮にだから、とりあえず適当なカードを置いてみてよ。実際のゲームではパスすることもできるからね」


 デモということなので、さっと適当にカードを裏側で置いてみた。


「一つのタイミングにつきカードは各ベッター一枚まで使用可能。よって、ここはこれで終わり。

 ベッター二人がカードを出すか、パスされたらカードをオープン」


 圭と亜壽香、同時にカードをめくる。亜壽香のカードは「出目を任意の数にする」、圭のカードは「出目をマイナスにする」。


「仮に次の手番、すなわち対象プレイヤーがアリスさんだったとしようか。一応、効果の処理としてはカードを出した順。すなわち、あたしから。

 あたしが任意の数で「3」を選ぶとする。そしたら、圭の出したカードでマイナスになる。


 本来ならここでアリスさんがサイコロを振る番になるけど、今回は任意の数を指定されたから振れないわけだね」


 アリスの近くにあったコマを手に取り、マスの上にのせると三マス後退させてみせた。


「つまり、こういうことになる。

 ちなみに、二人同時に「任意の数」カードを出した場合、処理の都合上、カードを後で出した方の任意の数が出目になるから」


 相手のカードを予想し、妨害できるカードを出すというのも戦略になるわけだ。出目を二倍にするカードに対して、一回休みのカードを出せれば、最高の妨害にできる。

 一回休みカードは、実質妨害専用カードってことか……。


「ちなみに、カードを出す順って、決まってない?」


「えぇ……と、それはあたしが先に出すか、圭が先に出すかってこと? それは早い者順になるね」


 すると、ずっと黙り込んでいたアリスこと森が質問をしてきた。

「……プレイヤーは手番が来たとき、お前らにカードを使用するか確認を取る必要があるのか?」


 亜壽香はデモで使用したコマを森の近くに戻しながら答える。

「いや、ないよ。君たちはあたしたちのことを気にせずスゴロクを楽しんでくれたらいい。あたしたちベッターが使いたいタイミングでストップをかける形になるよ。


 ベッターがカードを出す前にサイコロが振られたら、ベッターはタイミングを逃したことになるから。使用するなら素早く、はっきりと宣言すること。

 そして、プレイヤーも、宣言されたらすぐにプレイを中断すること」


 亜壽香は今度、スマホを準備しながら言う。

「契約に関して、ベッター間でする契約は、裏面に出した相手のカードに触れてはいけない、ぐらいでいいかな」


 ……確かに、このゲーム、聞く限りベッターはイカサマしづらい。ベッターは実質ゲームの外側にいるという、特殊な形式がそうさせている。

 が……しいて言うなら、

「ベッター同士、お互いに触れることを禁止にする」


「……暴力を禁止にしたいわけだね。カードを奪ったりとか……、うん。まぁ、別にそれぐらいなら構わないよ」


第六条 甲と乙がプレイヤーとなる。


第七条 甲と乙はミニゲーム中、接触を禁止とするほか、相手が出した裏面のカードに触れることを一切禁止とする。


 結果、以上の条文が結成された。


「そして、プレイヤー、スゴロクを行う人たちにも結んでもらう契約があります」


第八条 丙は机の上に裏面で置かれたカードに触れることを一切禁止とする。


 例としてアリスに対する契約条文が生成される。


「ベッターが出したカードをめくられて相手に知られるとか、ゲームが成り立たないからね。特に、スゴロクをする人全員、実質あたしの敵になるから、そこは徹底させてもらうよ。


 くれぐれも、公平に、そしてズルなくスゴロクをするように」

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