第3話 後ろとわたしの定義
見事正解され、一点を奪われた圭。真の王はそんな圭の元へ、ピンポン玉を投げ返してくる。
受け取らなかったそのピンポン玉は床を淡々と跳ねて教室の端へと転がっていった。
「さて、次はわたしの番だな。問題提示……か……」
腕を組みながら自分が用意した道具が並べられた机の上を見る。
やはり……自分の用意した道具を使って問題提示をするつもりなのか……。だが、このゲームにおいて、自分が用意たした道具であるメリットはほとんどない。仕掛けが施されていようが、強引に奪って調べれば答えは分かる。
問題は奴もそのゲームスタイルは承知済みということ。となれば、考えつけるのであれば、力づくでは正解にたどり着けない問題を提示してくるか……。
「よし、これでいこう。問題……」
真の王は教室の真ん中で立ち止まるとそっと両手をまっすぐ横に向けた。
「このわたしの後ろには、わたしのキツネの仮面が存在する。マルかバツか」
「……キツネの……仮面?」
あまりに想定外の問題で一瞬、意味を悟りきれなかった。
「さぁ、ぞんぶんに考えるといい。だが、所詮ミニゲーム。ダラダラ考えるのはやめてもらうがな」
そう余裕をかきながら、真の王は近くにある椅子に座り込んだ。
問題内容を改めよう。
問題は、真の王は後ろにキツネの仮面があるか、ということだ。真の王が立った場所は教室の真ん中、教壇に向かって。方角で言えば東側、玄関口方面にある。
すなわち、後ろ側とは西側……玄関とは真反対の側。
「ちなみに、お前が実際につけている仮面はノーカンだよな?」
「わたしの後ろ側、その定義の仕方では変わってくるかもしれないがな」
……どう定義したって顔の前についた仮面を自分の後ろ側にあるってことにできるわけない。これは、惑わすセリフだと取って言い。よって、真の王が直接つけている仮面は考慮しない。
既に森が真の王の後ろ側を探し回っている。すると、急に反応を示したかと思えば、拘束された次郎の元へと駆け寄った。
そして、次郎の後ろからあるものを取り出す。
「これ、キツネの仮面……。西田次郎は真の王の後ろに立っていた。すなわち、真の王の後ろにあった」
そう言って、確かに森はキツネの仮面を手に取って見せた。
「……あからさますぎる」
真の王がそれを見逃していたとは思えない。まず、知っていたはずだ。というより、むしろ一戦目、圭たちがゲームを考えている隙に用意していたか……。
見たまんまで答えれば、当然答えは○……。と言いたいが、“わたしのキツネの仮面”という定義がどこまでいくかだよな……。
「うん? 待て……後ろと言ったが、その定義範囲はどこまでだ?」
圭のセリフに森がピタリと足を止める。
「そうか……、後ろという表現から、真の王の背中当たり……あってのその延長戦上というイメージが働いていたけど……、もし、定義を後ろ全体とするならば?」
「どうなんだ、真の王? お前が言った後ろとは……言い換えれば後ろ“側”とすることもできるんじゃないか?
すなわち、範囲は教室の西側半分すべてが範囲となる」
となれば、真っ先に思いつくのはカバンの中。真の王があらかじめ用意しており、道具を取り出したカバンの中身はまだ知らない。
圭が走りよると同時、真の王も立ち上がろうとする。圭を止めようとでもしたのか? だが、森がすぐさま阻止してくれたため、無事にたどり着けた。
そしてカバンの中をあさると、出てきたのは……。
「キツネの仮面のお出ましだ……」
キツネの仮面を手に取り、立ち上がり真の王を見る。そいつは、森によって抑えられていたが、それに対して特に抵抗することなく座っている。
それを見て、とっさに思う。
「……ここまでの思考は想定済みか……」
もともと、このゲームを考えたのは圭だ。そして、このゲームの根本は定義の仕方。シンプルな“後ろ”という表現の引っかけは、このゲームにおいては基本中の基本と言える。
圭ならば、まずここまでは思いつく……。圭がこのゲームの開発者であるのだから、当然そこまでは来ると予想する。
まだ……なにか……。
「おい……後ろって……どこまでなんだよ?」
後ろとは言ったが、どこまでとは言っていない。考え方によっては教室の壁のさらに向こう側、すなわち隣の教室まで考慮されるんじゃないのか?
真の王は特に反応を見せない。
だが、反応を見せないとは、真の王にとって想定内の話であること。もし、後ろとして隣の教室まで考慮する考えが頭になかったなら、逆に何かしらの反応を見せる。
もし、隣の教室、さらに隣……と考慮したとして……、とればそこにはおそらくキツネの仮面は存在しないと見ていい。次郎の仮面やカバンの中にあった仮面がブラフの○だとすれば、そうしないと裏をかきすぎる答えになる。
そして、後ろともう一つの定義、
「お前は確かに“わたしの仮面”と言ったよな。どうやら、その仮面は、カバンの中にあったものを定義に含めないらしい。となれば、定義の仕方は……、わたしとは真の王のこと。すなわち、真の王が真の王たるに必要な仮面ということ。
今、お前がしているそのキツネの仮面だけが“わたしの仮面”ということだ。そして、その仮面はどう定義してもお前の後ろにどれだけ範囲を広げようがそこにはない。お前が顔の前につけているのだから。よって……」
あれ? どれだけ範囲を広げようと……? ……待てよ……、地球って……まるいよな……。どこまで続く……。そう、……どこまでも……。
「ハッ!? そういうことか!」
なんてド派手な定義の仕方……でも、このゲームにおいて、むしろそれは強み。そしてそれを思考にいたれるものが勝つ。
「お前は後ろと言った。それはどこまでも……果てしなく続く。学校を抜けたさらなる先もお前にとっては後ろと言えば違いない。そして、そのまま続けていけば、いずれたどり着く場所がある。
ここだ」
そう言って自分の床をつつく。
「地球は丸い。ずっとまっすぐ線を伸ばせば、いずれ地球を一周してここにたどり着く。すなわち、あの時、お前が言った後ろには、お前の前の部分も実質、含められていたわけだ。
お前の仮面、お前が顔につけているキツネの仮面もお前の後ろにある。
ただの屁理屈だ。だが、それがこのゲームの本質。それを理解し実行できたのは褒めてやる。正解は……○だ!」
定義の仕方によったら……か。最初に真の王が言ったセリフが、惑わす振りをして事実を言っていたとは……、確かに顔の前を後ろに出来る定義の仕方はあった。
ともかく、なんとかこれでイーブンだ。次はこっちが出題する番。どう問題を作れば、確実に仕留められるか……。
「残念、正解はバツだ」
「……え?」
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