第15話 自由なゲーム

「ゲームは“自由”だ」

 真の王の口から出てきた、ただのその一言が教室中へ静香に広がっていった。


 自由? いろいろこの発言の意味を考えるが、どう考えても情報が不足しすぎている。敢えて疑問を持たせるために少ない言葉に絞ったのは言うまでもない。


「うん? どうした? 反応が少ないな」

 大げさに首をかしげる真の王。少しばかりイラっと来る。


「それだけじゃ情報不足なのは分かってるだろ? 無駄なことはいいからさっさと説明を続けろよ」


 圭がぶっきらぼうに言うと、真の王は首を軽く横に振った。

「そういわれても、本当にこの通りなんだがな……。まぁ、いいだろう。詳しく説明する」


 そう言って真の王はわざとらしく、拘束している次郎を押しのけ、後ろに置いてあったらしいカバンを机の上に置いた。スポーツバッグほどあるその中に手を突っ込み、机に並べ始めた。


「わたしが提案する今回のエンゲームは、複数回に分けてゲームを行う。まぁ、ミニゲームを何回か行うと言っていいかな。お互い、交互にミニゲームを提案し勝敗をつけていく。

 各ゲームに勝利で一ポイント。三点先取で行う」


 ……なるほど、自由とはそういうことか……。こっちが提案するゲームは隙に自由にできると……。


「ゲームの内容に大きな制限はない。ここにわたしが用意したアイテムを使ってくれてもいい。お前たちで道具をそろえてもいい。教室の中あるものでも、何も使わないゲームももちろんOK。


 契約で絶対厳守してもらうことは、提案するゲームの公平性。プレイヤー側が一方的に有利で勝利が確定してしまうようが物は提案できない。

 わたしは一人だけ、お前たちは四人いる。プレイヤーだけでも二人。すなわち、人数が物を言うようなゲームは提案不可能だ」


 ……ふむ……、やはり想定通りだったわけだ。むしろ、プレイヤーを増やしてしまえば、四対一でも公平性を持たせるゲームを提案する必要があったのだから、むしろは提案できる範囲が狭まっていたかもしれない。


 そもそもこっちは即座にゲームを提案することから割と難題かもしれない。事前準備などがある時点で相手のほうがストックを持っている。


 ゲーム自体はいたってシンプルだが、文字通り自由度が高すぎるがゆえに、どういう展開になるのか想定しづらい。


「このゲームで賭けるのはお互いのすべてだ。わたし、西田次郎、そしてお前たち四人で集団契約を結ぶ。プレイヤーは指定した通りで、わたしはわたし自身を含めたキングダムの実権の解放者への譲渡を賭け対象とする。


 お前たちもまた同じだ。お前たち四人の支配権をわたしに譲ること。そしてニューキングダムの実権をよこすことを賭け対象としろ」


「……賭け内容については了承する」

 基本的に圭に交渉できる余地はない。そして、なによりこのゲームですべてを決着つけようという意思が確かにあることを実感した。


「お互いにゲームを提案し、競い合う。これでもか、というぐらいに実に公平なゲームだろう。ゆえに、このゲームで敗北したほうは、はっきりと完全敗北を認め降伏すること。わたしもまた同じ覚悟で挑むことを約束しよう」


 確かに、パッと聞いたところ、この状況においてはこれ以上ないほど公平性があると思える。このゲームに負ければ、言い訳は無意味だと言いたいわけだ。うやむやにすることなくはっきり敗北を認めろと。


「提案するゲームの長考は十分間。ちなみにゲーム内容は提案側が普通のやり方行う場合のプレイ時間が三十分以内に収まると判断されたものに限るとしよう。はっきりと時間を図って考えてもらう必要はない。

 要は通常プレイで何時間もかかるようなゲームは提案するんじゃねえ、ってこと。


 あと、提案を受ける側は、提案されたゲームに対して質問及び、ルール交渉の場が設けられる。その結果、作りあがったルールがそのゲーム内で適応される」


 机の上にすべての道具を並べ終えたらしく、カバンを床に放り投げた。

「さぁ、説明はひとまず終わりだ。何か質問はあるか?」


 すると田村が真っ先に手を挙げて机を指さした。

「いろいろ、アイテムをそろえてくれたみたいですね。トランプにコイン、サイコロ……あ、スゴロクやオセロみたいな完成されたゲームまで用意されているのですか……。

 で……」


 田村が不敵な笑みを浮かべ、ギロリと真の王をにらむ。

「この道具に仕掛けがないという証拠は?」


「ないな」

 真の王は躊躇なくはっきりと口にした。

「そもそも、証明する必要もない。これはあくまでゲームを提案する手助けとして出しているに過ぎない。仕掛けが気になるというのであれば、ゲームで使用しなければいいだけのこどだ。


 わたしがゲームを提案するときも、契約で不公平なゲームは提案できないようにする。あからさまなイカサマでほぼ勝てるゲームは提案しない」


「……なるほど……だが、言い方を変えれば、ゲームの勝敗よりもイカサマの見抜きこそがゲームの本質となりうることも考慮すべきと考えてよろしいのでしょうか?」


「それはご自由に」


 ……一方的な展開が約束されるようなゲームは無理。勝率が偏るような提案も不可。ただ、逆に考えれば、提案者が勝率を五分五分と認識すればそれは提案できる。イカサマを見破られ敗北するか、見破られず勝利するか五分五分になると考えれば、そのゲームは成立すると……。


「圭くん? アリスさん? プレイヤーはあなた方ですよ? 質問はないのですか?」


 分かってるよ、そんなことは……。


「プレイヤーはあらかじめ決められているが……、プレイヤーの人数は絶対に固定となるのか? つまり、片方はプレイヤー一人、もう片方はプレイヤー二人となるゲームでないと提案できないということになるのか?」


「いや、それは構わない。一対一でも一対二でも、重要なのは公平性だけだ。ただし、登録したプレイヤー以上を有するゲームは提案不可だ、当然な。二対二や二対三のゲームなどは提案しようとするだけ無駄だ。即却下させてもらう」


 それならば、まだゲームは提案しやすいな。一対二で公平性を保つゲームなど相当選択肢が狭まる。ただ、考え付くことができれば、割といい手になれるかもしれない。


 するとアリスが横から前に出た。

「ちなみにゲームの提案者はプレイヤーのみ? プレイヤー外の人物と相談するのか可能なの?」


「提案……すなわちプレゼン説明はプレイヤーのみが行う。相談は、時間内であれば相談してくれて構わない」


「では、ゲーム中は?」


「それは各ゲームでの取り決めで変わってくる。禁止するなら、そのゲーム中は相談不可。制限を設ければ、そのゲーム中はその制限下で……という具合になる。

 提案と交渉次第だ」


 そうか、各ゲームの細かいルールは、その場で都度変わっていくわけだ。全体で決められるのは大枠のルールのみということか。あくまで、提案するゲームの制約……。そして、それもほぼ自由……。

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