第14話 放棄していた権利

 仕方ないからという形ではあったが、田村を連れることに同意を得ることができた。その結果、田村零士、森太菜、そして小林圭の三人チームが再び結成されることとなった。


 遅らせて合流した藤島を合わせた四人で、真の王との約束をしていた教室へと向かう。開けると教室の中にいる人物二人を確認できた。

 キツネの仮面をかぶった真の王と、後ろで手を括られ自由を奪われている次郎。


 圭たちは、森以外素顔を完全にさらしている状態での登場だ。


 圭たちが入ると真の王は仮面越しでもわかるほど、はっきりと田村零士のほうへと視線を移した。


「……まさか……本当に田村零士まで連れてくるとはな……。お前たちはそれでいいのか? あまりいい策とは思えないがな……。

 また、騙されて出し抜かれて終わりになるんじゃないのか?」


「そういう君こそ、仮面などもう外してもいいのではないですか? 君の奥にあるのが泉さんであることは、この場にいる全員が把握していることでしょう。

 それとも、顔を見せるのが恥ずかしいのでしょうか?」


「……ふっ、顔をさらさないのは、お前たち……解放者側にとってもメリットになるはずだぞ? 小林圭からしてみれば、仮面をかぶった真の王と対峙するのと、泉亜壽香の顔と対峙するのでは、感覚がまるで分かってくるはずだ。

 それとも、お前は味方を不利な状況に置きたいのか?」


「……おまけに、わたしに……先輩に対してため口ですか……。面白いですね、君は仮面をかぶることにより、徹底して真の王であろうとしているわけですね。

 それは強い覚悟と取るべきか……いや、偽りの顔を作らないと真の王になりきることができない弱小ものでしょうか」


「何と言おうが仮面を取るつもりはないぞ? 表情を読まれないための対策でもあるんだ。むしろ、小林圭が仮面をかぶっていないことのほうが以外だ」


 ……それに関しては同意だ。だが、正体を隠すという意味は完全になくなったし、仮面で視野が狭くなるもの事実。

 逆に、あわよくば幼馴染の顔を見せて亜壽香の精神を揺さぶれたら……といったところか。


「まぁいい。田村零士に足を救われて敗北するなどというつまらないゲームにだけはならないことをせいぜい祈っているとしようか」


 そう言いつつ、真の王はスマホを取り出した。


「さてと、まず確認しておきたいのだが、お前らがここに来たということは、わたしの提案するエンゲームを受ける、ということでいいんだな?

 それとも、自分の立場を理解しながらも、まだ交渉を続けようとか思っているのか?」


 こちらもスマホを出しながら受け答えする。


「あぁ、こちらもそのつもりだ。交渉するならゲームの内容でさせてもらおう。ひとまず言っておくが、こちらが一方的に不利だと思えるゲーム内容であればさすがに拒否するぞ。

 それぐらいの権利は俺たちにあるはずだ」


「……どうかな。むしろ、昨日、契約を拒んだことで、その権利は実質放棄したとみることができると、わたしは踏んでいるがな」


 ……、やはりそう来るか……。……だよな……。自分だって、そこは絶対突っ込む。……どう考えても自ら権利を放棄したという形にしか解釈できない。


 そうだ……これが田村の言う強い執着心ゆえの結果か……。冷静に先の状況まで想定しきれていなかったと……。


「だが、安心していい。わたしが提案するエンゲームは至極公平だ。むろん、お前たちはそれをしっかり判断していただいて結構」


 ……!?

「……それは、実質お前に借りをすると言うことにしかならないだろう?」


「くだらないことを聞くな。その程度の借りは黙って受け入れろ。状況をお前だって十分理解しているだろう? それとも、文句を言うつもりか?」


「……いや、ない」

 圭が横に首を振る。隣にいる森や田村がそれに対し反発することもない。それは本当にこの状況はどうしようもないということを、知らしめてくれる。


「こんエンゲームはお互いに公平だ。それゆえに、はっきりとさせておくが、このゲームの勝者は、すべてを決める。

 お互いにかけるものは、自分自身と組織の献上だ。勝ったものが相手のすべてを手に入れる」


 ……お互いの組織、すなわち圭たちはニューキングダム。そして真の王はキングダム。


「お前たちはプレイヤー四人ということで考えていいな? 小林圭、アリス、藤島、そして田村零士。わたしはプレイヤーただ一人、わたしだけで挑む」


「藤島はもともと戦力とは考えていない。田村……先輩も実質戦力と認めない。この状況では二人だ。プレイヤーは俺とアリスでいい」


 この発言に対して森は特に反応を見せなかった。それは当然だと理解していたのだろう。だが、真の王に捕らわれの身である次郎、田村零士、藤島……すなわち他はみな、驚きの声を漏らした。


「……良く分からないな……。プレイヤー人数が多いほどゲームを有利に進められる可能性を考えればそれは愚策だろう? はっきり言って自分から好条件を突っぱねているようなものだぞ?」


「お前が言ったんだろう? 田村に足元をすくわれるようなつまらないゲームはするなと。それに、お前がプレイヤー一人で挑むといった時点で、お前が選ぶゲームは人数による有利不利はほぼないと見た。


 それどころか、人数が少ないほうが有利とすら考えられる。よって、プレイヤーは二人だ」


「……ゲーム内容を言った後、プレイヤーの人数変更を求められても応じる気はないぞ? それに、少なくとも賭けの内容がある以上、藤島は絶対契約に参加してもらう。それでもいいのか?」


「その念押しを聞けば、ますます人数の有利不利はないと見た。少なくとも、田村先輩と藤島二人をプレイヤーに入れても、お前にとってはさして影響がでることではないということ。

 いや、田村を利用して仲違いでもさせようって魂胆か」


「圭くん、それで本当に良いのですか? わたしをプレイヤーにしておいたほうがいいのでは? わたしはあなたの味方であり続けますよ?」


「先輩は黙ってもらえますか?」

 少し冷たい口調で言うと、田村は不敵な笑みを浮かべ、そっと手を挙げた。


「ひとつ、真の王に質問します。わたしがプレイヤーにならなかったとして、ゲーム中、わたしはプレイヤーに助言などは行うことは出来るのでしょうか?」


 真の王は軽く腕を組んでみた。

「……それはゲーム内容の交渉次第だな」

「なるほど、よく理解できました。ありがとうございます」

 田村はそっと会釈して少し後ろに下がった。

 

 それを確認した真の王が組んだ腕を離す。

「話はこれでいいな。なら、ゲーム内容を言う。それは……」


 真の王は自分の頭を軽くつついた後、手を広げた。そして、こういう。

「ゲームは“自由”だ」

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