第13話 魔除け
放課後。森に催促されたこともあり、真の王との約束の教室と少し離れた別の教室で待ち合わせの約束をすることになった。
ホームルームを終え、授業を受ける教室から出る。が、次の角を曲がろうとするとそこにやつはいた。
「……また待ち伏せですか……。なかなかお忙しいようで。お疲れさまです」
手を挙げて笑う田村を見て、皮肉交じりにため息を吐いてしまった。
「ねぎらいに感謝しましょう」
対して田村は平然と言葉を返してきた。
「決戦前に一度アリスさんと会うのでしょう? ぜひ、ご同行させてもらえたらと思って来ました。どうせ、LIONで場所を聞いても、お暇な圭くんがメッセージを確認するころには真の王を倒し終わった後だったでしょうからね」
余裕の笑みで皮肉返しをされ、少しばかりラっと来てしまった。
「まぁ、詳しい話はあとにしましょうか。まずは待ち合わせの場所に行きましょうか。付いていきますよ」
どれだけ拒否しても付いてくるのは分かっていたのでもう何を言わなかった。
教室には先に仮面をかぶった森、アリスが入っていた。だが、圭の同行者の見た瞬間、そんなアリスの表情が変わったのを仮面越しでもはっきりと分かった。
「やぁ、アリスさん。お久しぶりです……、って言うほどでもないですかね」
「……おい、ボブてめえ……どういうつもりだ?」
アリスがたいそうに口を悪くして言ってくる。この状況下で田村がいることが心底気に入らないらしく、それは間違いなく本気の怒りだと悟った。
まぁ、実際圭も森の立場なら同じ感情を抱いていたのは言うまでもないし、それどころか今の圭の立場でもわりと同じ感じだ。ゆえに、この状況に陥った説明から入らざるを得なかった。
ひととおり説明を終えると、森はあからさまなため息をついて田村を見た。
「……どこまでもしつこいやつだな……」
「それはお互いさまのような気もしますけどね」
森はそっと腕を組み、近くにあった机にもたれこんだ。
「まぁいい……。わたしがはじめ、救いを求めたグループ:キングダムを作り上げた人物がお前、田村零士であるのは変わらない。
もう、お互いにさんざん裏切りあった仲だ。お互いに信用しなければ、これ以上は裏切りようがないだろう。
ただし、戦力としては考えない。確かに少しでも戦力は欲しいが、お前から得るぐらいならないほうがましだ。不安要素のほうが大きいからな。実際、最初はそれで失敗しているのもある」
……。
「意外だな……。正直、俺は断固拒否すると思っていた」
「……単純に、真の王にとって、こいつは厄介だから近くに置くというだけだ。お守りか魔除け程度だよ。なんなら、こいつの体にお札でも張ってみるか?」
……魔除けか……。言い得て妙ってところか……。まぁ、事実真の王にとって無視できない人物であるのだから、隣に立たせておくだけで影響はある。
「わたしの立場は良く理解でしました。では、アリスさんのシーサーとしてしっかり仕事をこなしておくとしましょう」
ひととおり話をして納得したのかアリスはそのまま黙った。すると田村は今度、圭のほうを見てくる。
「では、改めてですが、圭くん。本当にお見事でした。まさか、ここまで早く真の王の正体を暴いてくれるとは……さすがです。いつか、君は必ず手に入れてくれるとは思っていましたが、このスピードは想定外でしたよ」
「……あいつが勝手に明かしただけですよ。俺は何もしていない」
「いいえ。君があのタイミングで仮面を外すことは大きな意味がありましたよ。ほぼ正体が知られていたとしても、実際に顔を見せるというのはそれだけの価値がある。ある意味これも、圭くんと泉さんの間にある信頼なのかもしれません」
「……とんだ信頼ですね。今の亜壽香と信頼があるのだとすれば、まさにヘドが出そうってやつですよ」
少し大げさに、否定してみたが、田村はそれに触れてこようとはしなかった。代わりに少し話題を変えてくる。
「今朝わたしが言ったこと、覚えていますか? 今の君は執着が強いがゆえに、冷静さにかけていると。それはゲーム中もぜひ頭の片隅に入れておいてください。ですが、そのままでかまいません。
あなたの強い執着はゲームの勝利に大きく貢献されるはずです。安心してください、冷静な判断はわたしがカバーしてみせましょう」
「……急になにを言い出すんです?」
「圭くん、言ったようにわたしはあなたの味方です。ともに助け合える友人。
確かにお互い、騙しあった仲です。しかし、その結果、今の共通の敵を目の前にしている。
なにより、共闘契約はまだ続いているんです。まさに、手を組むほかないでしょう」
田村は不敵な笑みを浮かべつつ、圭に向けて手を伸ばしてきた。その行動があまりに計画的なものに見えて、しょうがない。
その手を握ることなくまっすぐ田村を見る。
「……先輩……どこまで、計算に入れていたんですか? どこから、先輩の策略だったんですか?」
田村はそっと手を引っ込め、代わりに大きく両手を広げた。
「策略? とんでもない。すべて行き当たりばったりですよ。いや~、楽しいですね。わたしは実に運がいい」
……嘘つけよ。
「おい、ボブ」
ずっと聞いていた森がまたドスの聞いた声でつぶやいてくる。そして釘をさすように言う。
「こいつはあくまで魔除けだ。それも絶対に忘れるな」
……いや、これは森の言う通りだ。こいつを頼る展開があってはならない。それが危険なのは言うまでもない。
「……OK」
こいつに踊らされることは絶対しないと意気込んでそう口にした。
ただ、同時にこの状況がやっぱり既に踊らされた結果なのだと思ったが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます