第2話 策の決行開始
自ら動いていくことを決意してから、数日がたつ頃。
森と共にくみ上げた策を実行するときが近づいてきていた。
『最近、着々とニューキングダムのメンバーが集まってきているみたいだね。藤島奈美はしっかりと自分の役割をこなしているよ』
LIONを通じた森からのメッセージが入ってくる。
『こちらも長井を通じてそれなりの話は聞いている。こっちは特に変わらないな……。ちなみに……策は実行できそうなのか?』
『問題なさそう。やはり、予想通りだったよ。藤島はあくまで、長井に賛同して手を貸した身。田村に対する信頼感はそこまでではなさそう』
やはりそうか……。いい具合だ。
長井の側近は、田村が記憶を改ざんした後に集めたメンバー。すなわち、長井の仲間であっても、直接的な田村の仲間にはなりきれない。もし、田村に対して何かしらの不信感が得られれば、操ることも可能かもしれない。
『ちなみに、そっちはどうだったの?』
こっちは長井のほうについて調べていた。長井と対話を重ねて、真意を引き出した結果としては……。
『基本的には田村のことを信用している。まぁ、長井から田村を裏切りに行くようなことはしないだろう。こっちが変に誘導しようとしても、田村にチクられて止められる可能性のほうが高い。
だけど、キングダムの支配を崩す、みんなを解放するという思いは十分あるように思える。田村が例の感情で動いていたとしても、それを知っているとは思いにくい。
田村の友人であること、解放のために動いているということの二つが、長井の原動力であると、ひとまずは見ておこうと思う』
であれば……作戦の方向はおのずと決まってくる。
『まずは、そっちからだ。森、頼むぞ』
『OK。できる限りのことはやってみるよ』
作戦決行日、放課後。一足先に自宅についた圭はスマホから連絡が来るのを待った。
制服を着替え終わるころ、予定通り森からの通話が入る。
『こちらアリス。所定の位置についた。準備もOK』
しっかりアリスの声が届いたのを確認。
『こちらボブ。聞こえている。そちらは?』
『OK。以降はこちらからの返事は中止する』
現状、森は仮面をつけて、無線イヤホンと耳に、スマホをポケットに入れた状態になっている。以前にも使っていた連絡手段。
今回もそれを利用して、策を進めていく。
しばらく、無言の状態が続いた。今頃、森は待ち合わせ場所の教室に向かって移動していることだろう。
やがて、ドアの開閉音が入ってくる。
ターゲットはまだ来ていないのだろう。さらに時間がしばらく経過するころ、別の人物が入ってくる音が聞こえてきた。
『こんにちは、藤島さん。来てくれてありがとう』
先に声をかけたのは森だった。
呼び出した相手は長井の側近の一人、藤島奈美。アリスとペアを組むことになった、ニューキングダムの結成を一任されている者だ。
『どうしたの? わたしのことが不審?』
おそらく、藤島が警戒しているしぐさを見せていたのだろう。
『……不審……ではありますよね。もちろん、ここまで事が円滑に進んでいるのは、アリスの手助けがあってのことだと十分理解していますし、これからもわたしたちの目標に向けて頑張っていきたいと思っています』
藤島が結構しゃべりだしてきたかと思えば「でも」と言って、少し言葉を詰まらせた。
『でも?』
『このメッセージを聞いて、あたしはどうしたらいいのか分からなくなってしまいました』
このセリフを聞いた瞬間、こいつはチョロいと確信した。敵か味方か分からないやつを相手に、「どうしたらいいか分からない」など、愚の骨頂。それはすなわち、相手に委ねてもいいと言っているに過ぎない。
もともと、長井の腰巾着だった奴だ。その程度な奴であることは森からも聞いていて想定していた。
もう一人の側近、武井も似たようなものなのだろう。田村が側近二人をペアにしなかった理由の一つもそこにあるはずだ。
『分からない? 迷っているのか? それとも混乱?』
『混乱……というよりは……、いや……まずは聞かせてください。このメッセージ……、そしてアリスの説明……これは本当のことなのですか?』
アリスこと、森が藤島に送ったメッセージは、例の次郎と田村のやり取りのメッセージだ。だが、必要な部分以外はすべてカットされている。すなわち、田村がこの状況下において『ワクワクしている』とはっきり言った部分だ。
そして、アリスの付け加えた説明が『田村は正義のための解放など微塵も思っていない。ただ、楽しいからこんなことをやっている』という旨を、はっきりと断言したもの。
この情報の入手経路(解放者の仲間から得た)、状況も合わせてしっかり伝え、間違いない情報であるように偽装させた。
結果、藤島は情報を送ってきたアリスに真意を確かめに来た。
といっても、まだ田村のことを本気で疑いをかけているわけではないだろう。むしろ気持ち的には、アリスが騙そうとしているのでは、という思考のほうが大きいぐらいかもしれない。
しかし、本当のことであるならと考えれば、田村に直接聞くのは難しい。であるならば、もう一人の相談相手として長井が候補に上げられただろう。だが、それより先にアリスが、会う場所時間を指定した。そうすれば、藤島は流れてくれる。
尤も、こうして藤島がアリスのもとに来てくれた理由として、森がそれなりに藤島から信頼を得ることが出来ていたことも大きいだろう。
そこは間違いなく、森の手柄だ。
『その情報が本当かどうかと言えば……、わたしははっきりと確信しているね』
そしてここで、藤島が持つ疑問に対して、アリスが堂々と回答の一つを提案してやれば、藤島は十分こちらに偏ってくるというわけだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます