第2章 進むべき道

第1話 圭と森と音声ファイル

 この流れになったからには、次郎から受け取ったあの音声ファイルを手元に、次の一手を考えることになるのだが……。

 現状としてはどうしたものか……。


 ひとまず、忘れてはならないのは、最大の目的は次郎の救出……すなわち、キングダムのリーダー、真の王を打倒すことにある。田村零士に関することも、すべてこれを基準に考えなくてはならない。


「……やはり……一番いい手は……田村先輩たちを解放者の中に飲み込んでしまうことか……」


 現状、一番の敵である真の王から見れば、敵が大きく分けて二つ存在していることになる。その状況が続く限り、真の王側としてはそう簡単に行動し詰め寄るのは躊躇してしまうのではなかろうか。


 しかも、もし攻めるとしたら、田村が解放者、どちらに対してを優先するかと言えば、それは田村になるというのが圭の見解だ。

 田村は、圭をおとりに……すなわち解放者のほうを狙ってくる可能性も考慮していたが、真の王にとって果たしてそれは得策だろうか……。


 今の解放者が真の王にとって邪魔な存在かどうかと言えば、正直微妙だ。どう考えても、勝利し独立を勝ち取った田村のほうが脅威となるはずだ。


 現状、真の王からすれば、攻められる相手が、圭のほかに、田村、長井、側近二人と豊富であるのはいただけない。

 いや……それ自体は構わないが、真の王がどこに来るか分からないということや、圭と関係ないところに近づいてくるのは面倒だろう。


 とにかく、真の王の選択肢を狭めて、誘導しないと。となれば、田村たちを吸収して、圭の手の中に収めるというのが一手となる。


 だけど、それが簡単な話でないことは重々承知している。果たしてどのようにすれば、目的にたどり着くことができるのだろう。


 やはりここは、森の手を借りるほかはないだろう。まずは、例の音声ファイルを森のスマホに送り付けるところから始めた。


 しばらくした後、森からLIONを通じた通話が入ってくる。出ると、真っ先に飛んできた森のセリフは以下だった。

『状況を説明しろ、状況を!』


 ……いろいろと考えすぎて、音声ファイルの説明文を一つも送っていなかったことに今気づいた。


「……なんかすまん。で、聞いてくれたか?」


『……一応……。あれってチャーリーと……いや、影武者と田村の会話ってことでいいんだよね? あれを送り付けた意図は何?

 まだ、そこを全然理解できていないんだけど』


 まぁ、当然そういう話になる。何も説明がない状態で、あの音声ファイルを聞いたところで、それ以上の感想は出づらいだろう。


「その影武者さんが言うには。田村はみんなを解放することが目的というよりは、ゲームを楽しむことが目的だと」


『……あのセリフを真に受けたってこと?』

 森も、『ワクワク』というあのセリフを、ただの煽りだと考えているわけだ。


『でも……分からなくはないかな』

 だが、ここにきて想定外の肯定を出してきた。


「……どういう意味で?」


『そもそも、今はっきりしている田村も目的も、ある意味復讐だと思っている。今の真の王の手で、王座を取られたから、それを取り返すために行動をしている……それはほぼ間違いない。


 その時点で、純粋にみんなを救う、解放することなど二次目的に過ぎない話になる。さらに、その駆け引きに楽しいという感情を抱いていたとしても、正直わたしの中ではそこまで変なことではない。


 もともと、田村先輩のことはそこまで信用していない側だったからってのもあるかもだけど』


 そういう風にとらえれば、確かになくはないか……。


 田村は楽しいと思ったから、キングダムを作り上げた。結果、真の王に取られるという事件が起きた。だけど、田村はそれを楽しいゲームだとして、取り返す駆け引きを仕掛けていった。


 実際、やっていた策もかなり奇抜と言えば奇抜。偽物の解放者をわざわざ用意して、自分の記憶を改ざんして……本物の解放者にとりつく……。


「正直、そこまでこの話を受け止めてくれるとは思っていなかった。そして、話も非常に早く進む。


 アリス、お前はまだ解放者、そう、前にいったよな?」


『……あぁ、言った。今でも解放者だ。ボブが立ち上がるというのならば、わたしはそちらに着くことを約束しよう。

 この音声ファイルとチャーリーがらみで、もう一度立ち上がることを決意したというわけか?」


「……そういう事らしいな」


『ならば、わたしは「それでいいのか」なんてくだらない質問はしないぞ? まずは君が考えた策を聞こうじゃないか。

 話し合いはそのあとでも十分間に合うはずだ』


 本当に話が早くて助かるな、森は……。下手すれば、森はここまでのことを想定して、自分はまだ解放者であると、前に言っていたのかも知れない。

 いや……それを願って……というべきか。


「いいだろう。これからお前に策の提案を行う。といっても、表面的な部分だけ。具体的なことはこれから決めていくことになるし、そもそも実行すると決まったわけでもない。


 じっくりと進めていこう。これ以上の敗北は……さすがに許されないからな」

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