第16話 動き出した四回戦
さらっと一通り策を二人に伝え終えるとすぐ、タイマーが作戦タイム終了を告げた。
そのままそれぞれのプレイヤーが中央の机の前回りに集まる。
「では第四回戦、第一フェイズ……スタート」
真の王の合図とともにタイマーが再び十分の時を刻み始める。しかし、プレイヤー三人ともやはり動かない。
もし、動き出すとすれば第一フェイズの終盤……少なくとも五分以降か。
ただ沈黙の時間が続き、五分経過……まだ誰も動かない……。……しかし、長井も動く気配はないな……。……少し予想外だ。
てっきり、今回も圭たちか王たちどちらかに接近仕掛けてくるのかと思ったが……。
だが、これに関しては好都合か。確かに前回と同じように長井が真の王に話しかけ、また策を阻害出来たらそれはそれでもいいかもしれない。
しかし、奴の策を阻害しても勝ちにはならない。
であるならば、できる限り相手の策を出して、それを利用して上に行く。今の圭の立場からすれば、それぐらいしか勝ち筋はない。
チラリとタイマーに視線を送る。残り……三分。すると真の王が教室の中をうろつき始めた。……来るか……。
教室中の視線が集まる中、新の王が机に手をかけると同時、激しい音を立てて机が倒された。
想定外の行動に少し肩を揺らしてしまったが、視線を真の王に向け続ける。その中、真の王は机が倒れた床を覗くしぐさをして見せた。
そこにあるのは机の中から転がったのであろう二枚の硬貨。
「あれ? このコインって、バッタと虎のコイン……君たちが隠したコインなのかな?」
真の王……動き出した!
真っ先に驚きの反応を示したのは長井だった。素早く、その場に行きそのコインを拾い上げる。遅れてコインを拾いに行く森。
おそらく転がっているのは本当に虎やバッタの柄が描かれたコインなのだろう。だけど、それは当然フェイク。本物は圭の手の中に持っている。
だが、問題はそこではない。
「……こう使うわけか……。確かに必勝法だ」
「……へぇ、もう分かったの? この意味が」
圭がつぶやいた一言を拾いあげ、声をかけてくる真の王。
床に転がしたコインは偽物だろう。だけど、おそらく同じ柄。
思いついたのはこのように偽物のコインを使う方法だった。影武者が隠すイーグルコインを二枚以上用意していたのだから、ほかの柄だって当然用意しているはずだ。
しかし、まったく同じ柄なら、初めてそのコインを触る森や長井では見分けがつかない。少なくとも、同じ柄のコインを二つ並べられ、どっちが隠すべきコインかを当てるのは不可能だ。
それを利用する策となれば……。
現状のゲーム性では、第一フェイズ開始時には既にプレイヤー外の人物によってしかるべき場所に隠されていることになっている。
真の王がそれを見つけ出して床にばらまいた、それが嘘であるという確たる証拠がない。しかも、あくまで机を倒して偶然コインが落ちてきただけなんだから、盗まれたという判定もない。
そのコインが偽物であると森がはっきり確かめるには、圭が本物のコインは圭のポケットの中にあることを教えればいい。だが、その瞬間、森は圭によってコインを盗まれたという判定になってしまう。
その時点でゲームはやり直しになり、かつ森はマイナス一ポイントとなる。
ルール上、コインは見失わない限り問題はない。だが、移動したとすれば移動した先が隠し場所となる。すなわち、今の長井や森にとって、隠したコインは今、手に持っているコインになってしまうのだ。
時間はもう三十秒とない。森は状況を把握し、手に持つコインを相手にばれないよう隠さなければならない。
「あきらめろ。コインは今、お前らの手の中にある。チェックメイトだ。お前らが一点ずつとっても影が二点を取る。このゲーム、六対四対四で、わたしの勝ちは確定した」
そういうことになる。
が……ぬかったな、真の王。まだ時間は残っている。この残り二十秒が……お前の策を打ち破り、かつこちらの点を増やすこととなる。
「おい、影武者!」
そう声を上げ、同時に真の王の真似をして机を思いっきり倒した。そして机の中からコインが転がり落ちる。
「こんなところにお前が隠したコインが見つかったぞ?」
「クククッ、猿真似かな? 実に愚かな足掻きだね」
「どうかな?」
圭は落ちたコインに足をかけ、影武者のほうに向かって蹴る。
「確認してみろ、お前が隠したイーグルコインで間違いないはずだ」
影武者が首を振りながらチラリと床のコインに目を向ける。そして一瞬止まるすぐさをしたが、すぐに大きく笑う。
「クククッ、確かにそうだね。イーグルの柄だ。でも、残念。第三回戦開始前、偽物のイーグルコインが森によって盗まれたはずだ。どうせ、それはそのコインだろう。言うまでもない」
「……え?」
そんな中、急に疑問の声を上げるのは森。首をかしげながらポケットから硬貨を取り出す。
「お前から奪ったコイン、まだわたし、持っているが?」
「……ん?」
その瞬間、第一フェイズ終了を告げるタイマーが鳴り響いた。
そのタイマーのベルをすぐに止めようとするものはおらず、しばらくなり続ける。数回、コールが続いたころだろうか。
「……あっ」
やがて……影武者の口から声が漏れた。
同時に圭は仮面の奥で笑みを浮かべた。
「影武者、お前、森が持っているコインこそが偽物のコインで、床にあるコインは本物じゃないのか、そう一瞬疑ったんじゃないのか?」
タイマーのベルが一定時間を過ぎたため勝手に停止する。そんな中、森に視線を送った。
「アリス、そのコインを見せてやれ」
森は言われた通りに、最後取り出したコインを影武者に向かって投げる。それを受け取った影武者がそれを見てつぶやく。
「……五百円玉……」
「そうだ、お前の床に転がっているイーグル柄のコインは偽物のほうだ。だが、このゲームの答えとなる場所は、第一フェイズ終了時、すなわちタイマーが鳴ったその瞬間、隠していると認識した場所だ。
その瞬間、お前は果たして、どこにあるのが、本物コインだと認識していたのかな?」
完璧だ……すべて、想定通り。
「その真意は質問によって確かめるとしよう。もし、俺が思っている場所にコインがあるのならば、このゲームはまだ楽しめそうだな」
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