第17話 ゲームの行方

 真の王が影武者の背中をポンとたたくと、それに合わせて漏らすように「正解」という言葉を吐いた。


 そのあと、パチパチと数回真の王が拍手する。

「そうか。よかったじゃないか。お見事、ここの着てあの策を出せるとは思ってもいなかったよ。まさか、もう一枚のイーグルコインを君たちに利用されるなんてね」


 そう褒め始めたかと思えば、「だが」と声のトーンを一気に下げる。

「我々の勝ちは変わらないぞ。ここで確実にお前たちから二点をとれるんだ。お前ら二人でさらにもう一点取れたとしても、意味はない。


 六対五対五で、一位は決定される。いろいろ最後のあがきをしたみたいだが、残念だったな」


 もう勝ちを確信したらしい真の王が近くの机に座りそっと足を組んだ。そして、手を伸ばし、プレイヤー二人に指を向ける。

「さっさとこのセットは終わらせよう。そして仲良く二人で二位と三位を決めるといい」


 余裕を表に出して悠々とする真の王。だが、今の圭から見ればそれはあまりに滑稽。笑いが仮面越しにこぼれ始めてしまう。


 何か言いたげな真の王をよそに、そっと森の肩に手を置いた。

「さぁ、お前の回答を教えてやれ」


 森が一枚目を開く。

「まず、影武者、お前の指定先、F5。わたしが第一フェイズ終了時に立っていた場所だね。でも、残念ここではない。はずれだ」


 そう、はずれだ。森は第一フェイズ終了時、真の王が床に転がしたコインは偽物であるとはっきり判断出来ていた。


「……何を言っている?」

 組んでいた足を元に戻し、ドスが利いた声で聞いてくる真の王。対して、圭はポケットからコインを取り出し、真の王に向かって投げた。


「そのコインの印が答えだ」

「……印?」


 圭はさらにサインペンを取り出し、手の中でクルリとまわして見せる。

「一二回戦で、自分のコインを二枚以上用意していたことから考えて、同じように同じ柄の別のコインを利用した策をしてくるんじゃないかと推測した。


 であるならば、対策は一つ。俺たちの間で決めた印をつけておけばいい。俺たちはコインの淵をサインペンでなぞっておいた。つまり、お前が床に転がしたあのコインは印がないから、すぐに偽物だと分かったわけだ」


 森はさらにもう一枚をめくる。圭の後ろからその紙を覗いた。

「P20。……長井は正解だ」


 やはり、どうやったのかは相変わらず分からないが当てに来たか……。まぁ、隠し方は第三回戦と同じやり方だったのだから、そう来るとは思っていた。


「ふっ、想定の範囲内だ。これで、長井は五点。だが、長井の隠し場所はもう分かっている。真の王の策で丸わかりだからな。これで、ともに一点ずつ、影武者と森も五点で並ぶ。

 これで、ゲームは延長戦に突入だな」


 よし、これでひとまず打てる最善手を決めることができた。ここからはサドンデスか……、まずは長井の策を見破らないといけないな。


「ふふふっ」

 そんな中、今度は静かに長井が笑いをこぼした。特に嫌味もない、本当におかしいと言った笑い。


「うん? 何がおかしい? 俺の計算が間違っているとでも?」

「いいや、安心して。君の算数ならあってるよ。でも、どうやら君は問題を読み違えたようだね」


 訳の分からないことを言い出したかと思えばニッコリを屈託のない笑顔を見せて、二枚の紙を広げた。

「二人とも指定場所は一緒だね。僕は第一フェイズ終了時、立っていた場所。H10だけど……」

 とたんに勢いよく紙を破り捨てた。

「残念、二人とも外れ。よって、僕の一位抜けが……決定だね」


「……は? 嘘抜かせ」

 相対外の展開によって、思わず意味のない質問を出してしまう。当然、嘘などつけない。絶対に出来ないんだ……。

 であるならば……。


「いや、にしても非常にいい策だったよ、おかげで助かった」

 そういってポケットからコインを取りはじいて見せる。

「ありがとう、偽物の解放者、ボブくん」


 そういって投げだされたコインを圭が受け取った。

「ありがとう、だと?」

 しかし、そのコインを見た瞬間その意味がはっきりと分かった。


「印……コインの淵に……まったく同じ策……、お前も思いついていたというわけか……いや……違う」

 ありがとう、だぞ……。大体、印の形まで同じなのはどう考えても不自然……。


 圭たちの情報が……筒抜けだった? しかも、長井はこっちの隠したコインをヒントなく一発で二回もあてに来ている……。

「あ……っ、まさ……」


 今更気づき始めた失態を整理する間もなく、圭の肩が後ろに立っていた人によって叩かれた。その人物はそのまま圭の横を通り過ぎ、長井の横に立ち、そして横に並ぶ。


「ボブさん、わたしたちの勝ちです」

 そう不敵な意味を浮かべてそう言い放ったのは他の誰でもない……田村零士だった。

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