第14話 圭による再提案
第四回戦、作戦会議の時間が始まろうとしていた。そんな中で圭は長井らと王らのチームを交互に見渡す。
ここで二つのチームどちらにも動きがないのであれば、こちらから提案していかないといけない……。
と言っても、おそらくこちらから動かないと無意味か……。
王側はあと一点を取れば勝ち、少なからず延長。王側が今の状況に対して積極的に変えるメリットはない。対する長井は三点だが、それはこちらも同じ。
しかも、長井は先のセットで二点取っている。このまま、次のセットでも二点取れるというのであれば、同じく変える意味はない。
しかし……。
「作戦会議の前に、少し提案をしてもいいか?」
どちらにもこちらの提案を受けるメリットもまたある。
「なにかな?」
王はとくに大きな反応を見せることなく受け答える。おそらく、この行動は予想済みだったということだろう。実際、圭としてはこの流れのまま次のセットを迎えるのはマズすぎる。
「現状のゲームでは、第一フェイズが実質無意味な状態になっている。それはお互い感じているだろう。だが、この状況は同時にゲーム性を著しく損なわしているとも思うのだが……提案者である王はどう思う?」
真の王は仮面の奥で軽く笑う。
「わたしに同意を求めようとするのは無意味だ。例えどうであれ次で我々が勝てる可能性が高いんだぞ。この意味は分かるよな?
わたしが同意をすれば提案を呑まれやすいと思ったのだろうが残念だな。
おそらく君は自分たちが一番不利な状況であることを十分理解しているのだろう。ならばそれをはっきりと認めた上で、自分からの提案を述べてみるといい」
「……そうか」
……返しがうまいな。やはり、それ相応のメリットを与えないと無意味か。
「……ボブ?」
心配そうに……というより自分はどうしたらいいのか分からないといった感じに突っ立っている森の肩に手を置く。
そのまま、圭は前に出た。
「もう一度、第一フェイズを有効的に使えるルールにしよう。今の状況では完全な運で決まるゲームとなっている。お互いにコインを隠し場所を探る手段があまりになさすぎる。駆け引きもなにもない。
そこで、プレイヤー同士で契約の追加を要求する。プレイヤーがそれぞれ隠すコインを第一フェイズ開始前に確認しあう。そしてその確認されたコインが隠し場所となる。
第一フェイズ開始時、プレイヤーが隠すべきコインは自分が立っているマスと周り八マス以内に存在させなければならない制限を儲けたい」
真の王は深く頷きを見せた。だが、冷たい声を振るってくる。
「理屈は分かる。だが、わたしに受けるメリットは?」
嬉しい返しだ。興味を持ってくれてありがとう。
「お前はこのまま運勝負で絶対に勝てると思っているのか? こっちだって二点を取れば少なからず延長戦に持ち込める状態。そちらとしてはこのまま確実に勝ちを得ておきたいのではないのか?
もう一度ゲームを仕切り直し、お前たちが考えていた必勝法で勝利を掻っ攫えばそれで全て終了。ゲームセットだ」
真の王は圭の提案に対して微動する様子もない。代わりに別の方向にいた長井がそっと手を挙げた。
「横からごめんね。だけど、その要求じゃ僕はとても呑む気にはなれないよ。少なくとも、僕にとったら別にこのゲームが運ゲーになったわけではないしね。
このまま策を取り続ければ確実に次のセットで二点取れる。
きっと王に対する提案も、本当は僕にその二点を取らさないためのものなのだよね? 王側としてもこのまま僕の策を放っておくわけには行かない。だから、提案したんだよね」
まぁ、長井は当然そうくるよな。
「次のゲームで二点を取れる……ね」
それに対する受け答えも既に想定済み。
「本当にそうか?」
「……どういうことかな?」
今度は体ごと長井のほうに向けた。そして視線を合わせる。
「それは本当に確実に次も二点を取れる策なのか? 確かにアリスの隠し場所は一発で当てた。だが、王側の隠し場所については一発で当てられなかった。しかも、第一フェイズ中、あからさまに真の王へ攻め寄ったのにだ。
少なくとも、次のセットも王に対して有効な策であるのかと思えば、かなり疑問が残るようだが? 果たして”確実に”点の取れるのかな?
となれば、俺たちに対しても怪しい話だ。その策はあくまでも三回戦目だけ有効であっただけで、次のセットでも果たして一発で答えを絞り出せるのかな?
はっきりと言おう。お前、その策、確実な策ではないだろ?」
長井は俯き顎に手を当てている。そんな様子を見て更に圭は続ける。
「もし、お前は次の策が確実に二点を取れるものでないと分かりつつ、ハッタリをかますため、提案を断ろうとしているのならやめたほうがいい。
黙って受け入れたほうが、お前のためにもなる」
さて……これに対して長井はどうでるか。
「ふふっ」
……ん? ここで笑うのか……ということは……。
「いやぁ、ごめん。君のあまりに的外れだったからね、つい。悪いけど、やはり僕は提案に乗るつもりはないよ」
長井は嫌味のない笑顔で圭を指差してきた。
「悪いけど、確実に点を取りに行ける策だよ。無論、百パーセントではないかもしれないけれど、十分勝てる見込みがあると僕は思っている。
少なくとも、やっぱり僕にはその提案に乗る理由はないかな」
「……ッ」
くそ……やはりこうなるか……。
「あと、さっき色々格好つけて話してくれたけど、本当に的外れだったんだよ。君はこの中では一番不利なはず。あんまり粋がらないほうがいいんじゃないかな? 負けたとき、恥ずかしいよ?
別にイヤミとかじゃなく、純粋な忠告として、と付け加えておくけど」
「……ご丁寧にどうも」
そんな会話が進む中、今度は真の王が手を挙げた。
「その二人を聞いて……というわけではないが、わたしもその提案に乗る理由はまったくもってない」
真の王も……。
「君が言うとおり、確かにわたしはこのゲームの提案者。そして君が二回戦で見破った策もわたしが考えたもの。そして、見破られたあとのことも、当然想定している。すなわち」
真の王はキツネの仮面の前で指を一本立て、ひと呼吸を置く。
「これも想定内だ。第一フェイズ前にコインが隠されようとも、まだ策は用意されているということ。わたしは決して運ゲーにはしない。
あるんだよ、まだこのゲームには……、運に頼らないゲームの進め方が」
こっちも……交渉……決裂……。
「せいぜいそちらだけ、運ゲーをしているといい。ただし、それはお前の敗北を意味することになるんだがな」
真の王はくるりと背中を見せるとタイマーをスタートさせた。
「さぁ、作戦会議の時間、スタートだ」
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