第10話 影武者のコイン隠し場所

 コインの隠し場所についての説明を続ける。


「最適な場所……おそらく一回戦目も同じ場所に隠したんだろう。というより、影武者は第一フェイズ開始後以降、本物のコインを触ってもいないんだろうな。

 そして……その隠し場所は……」


 そう言って圭は教室の端、P22を指さした。そこは第一フェイズ中、ずっと真の王が立っていた場所。


「真の王がなぜそこに立っていたのか、一つはプレイヤーの行動を見渡せるからだろう。そしてもう一つは、そこが本当のコインの隠し場所だから。


 事前に隠しておくなら間違いなくベストな場所だ。真の王が立っているだけでプレイヤー含め全員、その角には近づきにくかった。少なくとも、わざわざお前が立つ場所近くに来てコインを隠すことはしない。

 なら、当然プレイヤー外の人物も隠さない場所にわざわざ意識を向けない。


 思えば、影武者も真の王の近くに寄ることは避けていたように思える。間違っても本来の隠し場所の近くを指定されたくなかったからだろうな。


 おまけに、こっそりと真の王が黙って影武者が隠したコインを回収してしまえば完璧だ。ルール上、影武者がコインを取られた事実を知らない限り、ペナルティにはならないからな。


 影武者は隠した場所を覚え続ければそこが答えであり続けるし、かつ、実際には真の王がポケットかどこかに隠し持ち、その答えの場所にもコインは存在しない。つまり、影武者の頭の中にだけ答えがあるという状況が出来上がるわけだ」


 あぁ、本当に恐ろしい策だ。おそらく実際に真の王がいる場所あたりをどれだけ探してもコインは見つからないだろう。だが、影武者はそこに隠していると思い込んでいるから、俺たちの目からみてコインが存在しないはずなのに、そこが答えとなる。


 ゆえに普通にプレイしていれば、どうあがいてもそこに至りつけなかっただろう。だが、奴らが提案したゲームである以上、何かしら高確率に勝てる策を用意しているはずと睨めば、見えてくる答えだった。


「これがお前たちの生み出したこのゲームでの必勝法だ。だが、それも今見破られたがな。


 あとははっきりと答えるだけだ。影武者、お前がコインを隠した場所はO21とその周り九マスのどこかだ」


 そう言い切ったあとしばらく沈黙の空気が教室内に走り渡った。だが、その空気をゆっくりと打ち壊していくように拍手を奏で始める真の王の姿があった。


 拍手のテンポが上がっていくかと思えば突如ピタリと止める。


「お見事、実に完璧な推理だ。こうでなくては……こうでなくては倒しがいがない。むしろ、当ててくれたことに喜びすら感じるよ。

 やはり、お前を……解放者を倒しておくべき敵であると認識しておいて正解だったようだ。こうやってここで一戦交えることに大きな意味があったと確信した」


 そう言いながら真の王は両手を広げる。

「さぁ、三つのコインが見つかった。第二回戦は終了。ワクワクの第三試合へと進めていこうか」



 三回戦目、まずは作戦タイム。再び集まった。

 現在の点数。影武者三点、森三点、そして長井一点。二戦目終了時点を考えれば間違いなくベストな流れ。いいや、それ以上か。


「ごめん……長井に当てられた」

「別にかまわん。むしろやつのとの点差は開いた。十分すぎる成果だ」


「おまけに王側との点差を無くすことができましたしね。二戦目で同点になるとは流石に驚きですよ。ボブさん、実にお見事でした」


 ……もう一点はこいつの機転によって手に入ったもの……いや、相手にも情報を与えて王側の点になったことも踏まえたらプラマイゼロってところか……。なら……わざわざ返す必要もないな。


「それよりは次だ。テンポは速い。既にアリスと影武者、二人にリーチが掛かっている状態だ。少しの油断が命取りになると思え」


「……ですね。次はどういう策で行きましょうか……」


 しばらく考え込む時間を作る。が、作戦タイムが刻々と過ぎていく中で、森も田村もとくに何か策を口に出そうとはしない。


「……なら、俺が提案する策、次はやってみるか?」


 王側の策を見破りながら、その考えを利用した策も思いついていた。もちろん単純な利用じゃ真の王に見破られるかもしれないが、それもやり方次第でなんとかなるだろう。


「どういう策?」


「……といっても簡単だ。コインを俺にあずけろ。ただし、今すぐだ。第一フェイズ開始前に俺がP4のポイント、すなわち外側の窓に隠しておいてやる。


 奪われたことを宣言しなければならないのは第一フェイズ中に起こったときのみ、第一フェイズ開始時は俺の手の下からコインは離れ、P4に隠されているんだ。

 お前はただ、P4に隠したことを頭に入れて、教室全体を練り歩けばいい」


「……それだけ?」


「あぁ、それだけだ。というより、それ以上はお前が知る必要はない。あとはほかの場所で隠す動作をしたり、目立つ行動をしたりしてくれれば十分だ。

 なんとなくわかるだろう? まぁ、あんまりお前に察しられすぎても不都合だがな」


 圭の説明に対し、隣で首を縦に振る田村の姿があった。十分理解したということだろう。

 実際策は単純。あとは圭がコインをポケットに入れておけばいい。わざわざ本当に隠さなくてもいい。ただ、森が隠したと仮定した場所を認識すればOKなのだから。


「まぁ、確かにその策は考えるところではあるでしょうね。王側の策を見破りましたが、それをこれ以上阻止するルールを追加することも、抑止する権利も存在しません。

 であるならば、こちらもその策を利用するのは間違っていない。


 ですが……、それをプレイヤー三人ともにやる羽目にやったら、一気にゲーム性が崩れるとは思いませんか? この策では駆け引きもなにもなくなります、完全な運勝負。


 確かに負ける可能性を低くすることはできるかもしれませんが……、勝ちに行くことができる策も立てることもできないですよ」


 負けにくいが、勝つのも難しい作ということ。

「……分かってるよ。そして王は絶対にそういうゲームを望まない。新しい必勝法を引っさげてくるはずだ。まずは見破ることを先決とする」

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