第9話 影武者の行動の真相

 プレイヤー三人ともに指定が終わり、答え合わせの時間となる。そして、真の王の指示を待たずして真っ先に長井が手を挙げた。


「もはや分かりきっているからね。あがきはしないよ」

 そう言って紙を二枚とも広げる。


「影がC17、アリスはC18。うん、どちらも正解。答えはC18でした」

 そう淡々と答え終わると「流石にまずいね」なんて呟きながら近くにある椅子にどさっと座り込んだ。

 隣にいる側近二人が不安そうな視線を長井に向けている。


 長井、頭の回転、状況判断力は高いと思っていたが……ゲームではそこまで力を発揮できないのかな? まぁ、今はどうでもいいか。


「じゃあ、次はわたしが」

 アリスが紙を捲り上げた。


 さて、……最初の二択として考えられるのは、F10(コインを置いた場所)、C3(終了時森が立っていた場所)。

 それ以外には、右前範囲で隠す動作をしたポイント四ヶ所、B8、D6、F3,G5。


 だが、相手二人から見たら、最後の行動のインパクトがかなり強かったはず、序盤に隠したこのポイントは覚えているかな? 覚えていたとしても、二択を差し置いて四分の一、いや六分の一にかけるのかな?


「影、C3」

 ……、ほう。そこに行くか……。一度失敗をしてもなお、もう一度自身のポケットに隠したと。おそらく、裏の裏をついてきたってところだろう。ポケットに隠すのは難しい、だからこそあえてそこに隠した。そう思考してなお、つく。


 だが、

「ハズレだ。続いて長井は……え?」


 森が一瞬言葉に詰まった。だが、すぐに顔を上げて座り込む長井に向かって声を投げかけた。

「おめでとう、正解だ。D6だ」


 そう言って森はD6と書かれた長井の付箋を見せた。森が長井に話しかける形をとってくれたおかげで、長井の反応も見れた。


 少し驚いた感じを見せたので、おそらく推測というよりは運要素が大きかったのだろう。回答の流れとしては、あからさまな二択はもうないと仮定して、四分の一に意識を向けた感じか。


 無論、二択のどちらかが答えの可能性もあるが、確かめて絞るより、四分の一を掛けて勝負に出たってところか。まぁ、一番負けているのは長井だ、追う側がある程度リスクを持って攻めるのは当然だな。


「では、最後。わたしだね」

 そう言って紙を開き、次の瞬間影武者の手がピタリと止まった。そしてその瞬間、圭は確信した。

 これは当たったな、正解だ。


「……な、長井、N8……はずれ」

 長井のほうは答えるが、森のほうは答えようとしない。すると、真の王が動きその紙をのぞき見た。その後、ゆっくりと圭のほうを向く。


「……」

 無言で圭のほうを見てくる。


「仮面で表情は見えないが良くわかる。なぜ、分かったかって聞きたいんだろう?」

「聞いたら教えてくれるのか?」


 真の王による質問返しを聞き仮面の後ろで笑みをこぼした。

 まぁ、普通に考えたらここでなぜわかったか答える必要はない。手の内を明かす必要はない。これが偶然当たったものと想定して同じ策を使い続けてくれたら御の字って感じか……。


 だが、そんな手を打つほど愚かな相手ではない。とすれば、プレッシャーを与えるという意味では悪くないのかも。なにより、長井に対する大きな牽制になりうる。このまま勢いを消して黙らせれば、真の王との一騎打ちに専念できる。


 なにより、今後この策を封じるためには……必要なことか。


「いいぞ。教えてやる」

 そう口にして圭は王たちの前に出た。


「最初に疑問を抱いたのは、影武者の行動範囲。この二戦、どちらも影武者の行動範囲は教室の半分までだった。これは最初、駆け引きのためだと思っていた。だけど、冷静に考えれば二人密着の監視下で行動範囲外にコインを隠すのはほぼ不可能。


 となれば、質問する内容も絞り込める……じゃない、質問される内容をお前たちが絞込みに行ったんだ。教室の半分に範囲を限定することで分かりきった教室を半分にしてどちらかという質問をさせないようにした。


 つまり、こうやって質問を誘導する必要がある所に隠していた」


 ここまで説明し、指を一本立てる。

「では、実際にその隠し場所はどこなのか。少なくとも、こうやって誘導しているぐらいなんだ。そんなことをしてまで、隠すふりした場所にコインがあるとはおもおえない。


 であれば、バレないように、隠す素振りを見せないようにして隠した。このゲームの為、訓練したのであればそういった芸当も可能かも知れない。そうなれば、はっきり言ってお手上げ」


 圭は両手を上げヒラヒラさせたあと、影武者を睨みつけた。

「が、ここでもう一つ浮上するのが、やはり行動範囲外に隠したのではないかという説。そして、その説が正しかった」


「……お前、さっき自分で言ったぞ? バレないように行動範囲外にコインを隠すのはほぼ不可能だと」


「あぁ。既にそう考えていた。ならば次の思考に移ればいい。行動範囲外にコインを隠す方法は本当にないのか。バレないように隠す以外の別の方法はないのかってな。

 で、気づいた」


 今度は一つの机に指さした。

「第一フェイズ開始前。コインを三つ並べるよな? お互い本物である確認をした上で、十分間が始まる。だけど、ルールで最初に並べたコイン三つが実際に隠すコインであると決めてなかったよな?」


 そこまで言うと影武者があからさまに首を動かした。しっかりと答えの方向に向かっていることを確かめられた。


「確かに最初、三つの柄のコインを用意した。イーグル、虎、バッタの三つ。それぞれがどの柄を利用するかも決めた。そして、影武者、お前が隠すのはイーグルコイン。


 だが、どのイーグルコインかまでは決めていなかったんだ。お前、同じ柄のコインを二枚以上持っているだろう?」


 もう一度圭は指を立て影武者の仮面を見る。


「やり方としてはこうだ。コインはゲーム開始前にあらかじめ隠しておく。そして、同じ柄のコインを用意して俺たちの前で見せていた。だが、影武者本人は隠しているコインをあらかじめ隠しておいてある方だと認識して、その場所を覚えていた。


 実際、ルールに開始前に隠しておくことを違反とするものはない。重要なのは第一フェイズ終了時、コインが存在する場所を覚えておくことだけ。


 言ってしまえば、もうひとつの俺たちが見ていたイーグルコインは偽コインの一つとして扱っていたんだろう。こうすれば、行動範囲外にコインを置くことは造作もないことだ」


「だが、それではまだ本物のコインの隠し場所が分からないぞ?」


「いいや。分かったさ。ここまで推測したなら、さらにもう少し思考をしてみればいいだけ。コインをあらかじめ隠しておくのに最適な場所をな」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る