第11話 変わりゆくゲーム性

 第三回戦、第一フェイズ開始前、三プレイヤーが集まる……が。


「……やはりか……」

 その現状はあまりに想定内だが、いざ見るときついと言わざるえない展開にゲームは動いていた。


「クククッ、あれ? 皆さん、隠すコインはどうされたんですか?」


 ひとり、コインを机の上に並べながら影武者がいう。そう、森も長井ももはや、机の上にコインを乗せようとはしなかった。


「そっちこそ、どうせそのコインはお前が隠すコインじゃないのだろう? 真の王も今度は動き始めて、次は一体、何を企んでる?」


「あれ? 交渉はしてこないのかね? 隠すコインを今から指定したやつに限定しろ、とか、第一フェイズ開始前に隠すのは禁止にしろ、とか」


「したら、呑んだのか?」

「我々にそれ相応のメリットがあるのであればね」


「なら無意味だ。変わっていくゲーム性に対応していくしかないということだな」


 森はそんなことを言いつつ、目の前のコインを掴みに行った、それは当然、影武者のイーグルコイン。


 森たちが会話をしている段階、圭もまた真の王と同じように教室の周りをうろつく。そして当然、P4のポイントにも足を向かせる。実際に隠しはしないが、最低限の隠す動作をしておかないと、森が隠していないと判断し、奪われた宣言をせざるを得なくなる可能性もあるからだ。


「さぁ、さっさとゲームを勧めてくれ」

 そう、森が真の王に向けて言うと、定位置から完全に離れた真の王が手を前に出した。


「いいだろう。第三回戦、第一フェイズ。スタートだ」

 そして、タイマーが動き始める。が、誰も動かない。


「……やはり……このコインは偽物か……」

 森はそう呟きながらそのコインをポケットに入れる。


 これも作戦の内だ。今の状況、影武者が次に取る作戦は検討もつかない。その可能性を少しでも探り寄せるために仕向けたのがさっきの策。


 もし、今度の策は、本物のコインを影武者が持つものだとすれば、森がコインを奪ったということになり、影武者はそれを宣言しなければならなかった。もし、されていたら森はマイナス一ポイントされていたが……。


 ただ、森の言うとおりやはりだったが、結果は逆。やはり、それは本物ではなかった。やはり、隠すという上で、プレイヤーがバレずにコインを隠すのは相当に難しい。


 であるならば、もはやプレイヤーがコインを隠すことに意味はない。


 さぁ、この状況下で、王側はどう動く?



「……」

 第一フェイズ開始から五分が経過した。終了まで残り五分……。だれも動こうとせず、第一フェイズ開始時からずっと定位置にいる。


 この状況は控えめに言ってよろしくない……。このままでは第一フェイズの中に情報はまるでない……。いや、違う……もはやこのゲーム、第一フェイズは無意味なフェイズと化したと割り切っていいのか……。


 であるならば……、第一フェイズ開始前、真の王と……側近二人が移動した場所こそが、重要な情報ということになるのか……。

 やつらの行動範囲は……。


「随分と静かなゲームになってきたね……」


 ……ん? 突然長井が話し始めた……というより、独り言?


「おまけに僕は二人に二点差がついている……。このまま僕も君たちと同じような逃げ策を取っていても……勝ち目はないんだよね」


 ……なぜ独り言を言うのかは知らんが、言っていることは正しい。この中で一番負けている長井が、運要素となるこの策を取るのは愚策だ。少なくとも、森たちと同じ策を取っていては、点差は開かず先に五点取られて終わり。


 であるならば、この中で一番攻めに向かって走らなければならないのは王ではなく……長井……。王側は……長井が動くのを待っている?


「……そろそろ……反撃にでないと、だね」

 ゆっくりと長井は指を一本天井に向ける。

「今こそ、その時だ」


 ……今さら長井は何をするつもりだ……?


 すると、長井はゆっくりと歩み寄り影武者の隣に立つ。かと思えば、スルーしてその後ろに立っている真の王の前に立ちふさがった。

 そして、手を伸ばし、そっと真の王の首元に手を当てていく。


「教えてくれるかい? 君たちのコインの隠し場所を」


 唐突であまりに意味がわからないセリフ。真の王はキツネの仮面を手で押さえながら首をかしげた。

「それはどういう質問かな? このわたしがその質問に答えるとでも? 無意味な行動にしか感じられないよ、それともただの足掻き?」


「いいや、君はきっと僕に隠し場所を教えてくれるさ。僕はね、君を思いのままに動かすことが出来るんだよ。僕が君に教えろ、と命令すれば、君は僕に隠し場所を教えてくれるんだよ」


 ……なんだ、そのハッタリは?


「幼稚はハッタリだ、そう思ったよね?」

 ……ッ!


「当然そう思うよね。だけど、本当にハッタリだと言い切れる? 君たちは既に、それ相応の力を体験しているはずだよ。そう、コントラクト。

 コントラクトで教えろ、と契約すれば、教えてくれるじゃないか」


 ……。

「コントラクトが効力を働かせるその仕組みの予想なんだけど、催眠術の一種じゃないかって考えているんだよ。事実、契約したときに契約者が意識した契約内容が正しく実行される点や、契約者が知りえない範囲までは効果は効かない」


 それは、前に圭も考察していたことだ。だが、それ以上追求しても無意味だしきりがないと考えて考察をやめていた。

 だが、その仕組みをより詳しく追求して言ったら?


「ここまで説明したあとで言うけど。僕はね、コントラクトを介さずとも、人に命令できる方法を見つけ出したんだよ。そう、コントラクトで契約したかのように人を支配することができる」


「……なっ」

 思わず全身の背筋が凍りかけた。だとすれば……、根本から崩れ落ちるような話だ……。だけど……そんな……。


「なんてね、冗談だよ。そんなチート能力、あるわけないよね」


「はっ!?」

――やべぇ、めっちゃ俺、こいつに踊らされてらぁ――


 と、すると長井は真の王の仮面を覗くような仕草を見せた。

「ふふっ、君、今少しほっとしたんじゃないかい?」


 真の王は動揺を見せないようにしてか、長井から視線を外すように逸らす。だけど、どう考えてもそれこそ奴の思うツボだろう。


「あと、ごめんと言っておくけど、もう君たちの隠し場所は分かっているんだよね」


 そんなことを言いながらゆっくりと真の王から離れ別の場所に移動していく。


「さてと……もう時間だね」

 くるりと体を回転させ、両手を広げる長井。

「第一フェイズ、終了だ」

 そう言うと同時、タイマーが鳴り響いた。

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