第4話 推測
「隠し場所は把握している」
その言葉とともに森への質問権をパスする影武者。あまりに想定外な行為に思考が停止仕掛けた。
「では、指定タイムに移る」
真の王によるゲーム進行でなんとか我を保ちつつ真の王へ集中する。すると彼女はメモ帳型の付箋を取り出した。
それを切り出し、中央の机へ六枚並べる。
「それぞれ二枚ずつ取れ。そこに指定するマスを記入し相手に渡す。この箱に投票するという形でいい」
そう言ってさらに紙の折り紙でサラっと作られた箱が用意され、さらに付箋で、「影」「アリス」「長井」と印をつけられる。
そしてその三人は付箋を受け取ると、それぞれのチームのもとへ行った。
圭たちも集まると真っ先に森に視線をぶつけた。
「おい、アリス。お前、コインをどこに隠したんだ?」
圭の質問に対しビクリと肩を動かす森。
「そ……それは……」
視線を逸らし俯く。まったく……王は森が隠した場所を完璧に把握しているとでも言うのか……?
「それはひとまず置いておくとしましょう。ただのハッタリで動揺を誘う罠とも考えられますから。それより今は、相手側のコインの場所じゃないですか?」
田村にそう指摘され、圭は一度深呼吸し落ち着かせた。
「まったくもって田村の言うとおりだ。奴らの隠し場所を指定しないと……」
圭はそう言って机に目を向けた。十分を図るタイマーが着々と進み続けている。必要以上に時間を使わせないためを言っていた。まあ、そもそも、今からコインの隠し場所を探そうとしても、既に回収されているから無駄だし。
「で、影武者の隠し場所、検討は付いたんですか?」
「……すまん。それはまだだ……」
田村は小さくため息を付き、首を横に振る。そんな田村に対して、自ら圭はフォローの言葉を入れておく。
「と言ってもまだ一ターン目。ここから絞っていけばいい話だろう」
田村はそれに対し、しばらく無言で答えたあと、続けた。
「まぁ、いいでしょう。まずは長井くんの隠し場所についてです。まず、彼は第一フェイズでぐるりと教室の壁を一周しました。その過程で何枚かティッシュでくるめられたコインが置かれながら」
そう言って一つポケットからティッシュの塊を取り出した。田村がティッシュの上からイジリ、中に硬貨らしきものが入っているのを見せてくる。
「教室の壁……ということは窓のサッシとかに? だが、お前の質問は机の中に隠したかどうかだった気がするが?」
「確かに彼は窓際を一周しました。これを取ったのもサッシに乗っていたものです。ですが、壁際には机椅子もたくさん追いやられていますからね。彼はその机と壁の間を縫って歩いたんですよ。
窓際に意識を向けさせながら机に本物を隠した可能性を否定できませんでしたからね。でも、質問でそれはないと分かりました。であれば、窓に隠されたコインである可能性が大きくなりましたね」
そう言って田村は二本に指を立てる。
「続いて、王側の質問。これによって教室の左側……すなわち外側の窓のどこかに隠した可能性がかなり高いと見ていいと思っています」
そう言いながら田村は手に持つティッシュの塊を広げだした。やがて中から硬貨が出てくるが……指定されたコインではなく百円玉。
「……やはり、これはハズレでしたか……。ですが、これでさらに範囲は絞り込めました。まず、柱の部分には隠せないですから、そこを差し引いて、さらにこのコインの隠し場所を排除すると。
答えとしては……そうですね……。O列の6、9、14、17、20、この五つのどれかに絞り込んでもいいかもしれません」
「……なぜそこまでしぼり込める?」
「それは簡単、彼がカーテンの裏に手を突っ込んで、何個かこのティッシュの塊を隠していたからです。おそらくあの中のどれかが本物なのでしょう。だからこそ、絞り込めたといっても、五択ですけどね」
「隠してたのが見えたんだろ? だったら、それを全てつけながら先に回収すれば終わりだっただろう? その偽物一枚を取ったように」
「隠されたコインを取るということは、意識をそこに向けるということ、視線を相手から逸らすということなんですよ? それが以下に悪手かも分からないのですか?」
……え?
「下手に回収しても相手がたくさん隠せば一個以外全て偽物。わざわざ視線を外して一枚、偽物であることを確認できたとしても、その視線を逸らした間に本物を隠されたら話にならないですよ。
このコインも、ゲーム終了時、花瓶にコインを入れる音を立てた影武者にヘイトが向いているとき、カーテンをくぐって手に入れたものです。しかも、その後すぐ側近がやってきてそれ以外のコインを回収していかれましたし……。
まぁ、あの近くにはこのコイン以外ないということが分かったので、絞込みはひとつ減らせましたが……」
田村の説明を聞き、自分のしくじりに遅れて気がついた……。そもそも、相手のあとを付き怪しい行動をした場所を片っ端から確認していけばコインを見つけることだって可能などか思っていたが……ゆえに隠し場所は難しいと……。
違う、そうではない。ちょっとでも相手がカモフラージュの行動をとって、圭がそれに釣られて確認に行けば、そこに隙が生まれる。ということは、相手にとって絶好のチャンス。その瞬間に隠せば、圭はそれを確認すらできない。
「……どうやら……すでにやらかしているようですね」
それに関しては返す言葉がなかった。ただ、その代わり影武者のコイン隠し場所としてひとつの候補が出来上がった。ちょうど空のティッシュを取って視線を外した時奴が居た場所。すなわち、花瓶が置いてあった場所……。
「アリス……影武者のコイン隠し場所は……、N2だ……。百パーとは言い切れないが……な。ここにないとなれば、また一つ範囲が絞れたということにもなる」
そんな圭を横目で見てくる田村。
「まぁ、君がそこを選ぶのならば、わたしは特に口を挟みませんよ。彼の隠し場所については君が頼りですから。それより、長井の隠し場所ですね。
やはり……O9、ここにしておきましょう」
やはり? ……しかもまたあっさりと……。
「その言い方……ただのサイコロではないのか?」
「……まぁ、直感に近いですけど……O9の位置でカーテンに手を突っ込んだ時、ほかの時と比べて周りに視線を配る動作が長かったんです。このゲーム、隠した場所は把握しておかないといけない。
まぁ、ゲーム終了直後、ちょうど反対側、すなわちA9当たりに足を運んでいました。それを隠した場所の確認のためと考えれば……。無論、それを踏まえての騙し策、演技である可能性もありますが……。または、奴が出した駆け引きか……」
「だが、答えが絞り込めているのは事実。それがハズレであっても次回の正解率は上がる。まずはそこと」
「……まぁ、今はそういうことにしてみましょうか?」
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