第5話 指定タイム
長井に対して、O9。影武者に対して、N2。アリスの名と共にこれを指定した紙をそれぞれの箱に入れる。
全員の投票が終了し、回答の時間に移る。それぞれは投票された紙を手に取った。
「ここの順は特に勝敗には影響しない。誰からでもいい……。とりあえずお前から答えろ」
真の王がそう言って影武者に促しを向ける。対して、影武者は頷くと二枚の紙を広げて見せた。
「アリスさん、長井くん。共に指定場所はN2」
……長井もか……おそらく相手も圭と同じ考えでその答えに至ったのだろう。影武者はその紙をクシャリと握りつぶした。
「残念だね。外れだ」
……違ったか……。だが、これでまた範囲は絞れていく。それよりはまず、それ以外の回答だ。
「じゃぁ……わたしが続いて」
森がそう言いながら紙を広げる。
「長井は……C5。……外れ」
長井はその言葉の聞き小さく俯く動作をした。まぁ、ここは仕方ないだろう。王側が森に対して質問をパスしていた。情報量が教室の右半分という情報だけでは絞りきるには難しい状況だ。
だが……問題は……その王の方……。
「影は……E……9……」
そこで森はピタリと口を止めてしまう。この反応は……。
「正解だね?」
自分のターンを終えた影武者が近くにあった椅子に腰を掛けて言う。余裕で、確かな確証を得ての答え……。
「……正解だ」
そして、森は小さく呟くようにそう答えた。やはり……。だが……。
「解せないな……。なぜ、ほぼほぼノーヒントの状態からそこまで指定できた? まさか、サイコロを振ったなんて言わないよな?」
答えを貰えるとは思えない。これが策だというのなら……尚更……。
だが、それに対して答えたのは影武者でも真の王でもなく、森だった。
「ボブ……わたしのコインの隠し場所は……」
そう言って自分のスカートのポケットに手を突っ込んで見せた。……つまり、コインは森のポケットの中。E9は第一フェイズ終了時、森が立っていたマス……。
が……なぜそこに気がついたのか……。いや……言うまでもないな……。おそらく森は自分のポケットに隠したんじゃない……。コインを隠せなかったんだ……。
近くには側近のひとりがじっと付いて回る。さらに真の王からの視線も強く感じていたことだろう。そんな監視された状況下で下手な所に隠したら簡単に見破られてしまう恐れがある。
結局、どこに隠せばいいのか分からないまま十分間が経過してしまった。
まして、森は解放者代表として挑んでいる。自身に課せられる責任というのも、結果この行動に起こってしまった……。そして、そういう雰囲気を真の王は読んだわけだ……。このゲームの提案者だ。
そういう思考に陥る表情や仕草は見逃さなかったというわけだろう。
なによりタチ悪いのは……この状況に目を瞑れば、ポケットに隠すと言うのは悪い選択肢ではないということ。隠す動作をあちこちで行っておけば意識は自然とそちらに向き、プレイヤーの体自身には集中しづらくなる。
「最後だ、長井。答えろ。ここで長井のコインが当てられれば次のセット。当たらなければ質問からやり直しだ。さぁ、どうだ?」
長井は真の王に支持されるまま、紙を捲り上げる。そしてその瞬間、確かに目が大きく開いた。それは……間違いなく驚愕の目。
「アリス、影……共にO9……」
同じ指定場所!? こいつはまた驚いた……。これはどうなんだ……。外れるのもありがたくはないが……当たったとしても素直に喜べないぞ……。もし当たったのだとすれば、こいつは一ターンで、二つのコインを当てたことになる……。
「……二人とも正解だ」
……ッ!? やはり……当たった……。
「では、影が二点。アリスが一点。長井がゼロ点で一回戦を終了する。続いて二回戦目スタート。まずは作戦会議の十分間だ」
「その……ごめん……」
集まって真っ先に謝罪してきたのは森だった。まぁ、森の気持ちはよくわかる。
「謝るな。軽く見て配慮を行った俺も悪い。俺だってやらかしてるしな……謝る暇があれば次の為に活かすしかない。
このゲーム、想像以上にテンポが速い……。いや、王が速くしている」
まさか一ターンで一回戦が終了するとは……。一つずつ絞り込んでいけばいと考えていたが……、こうなればなんの意味もない。遅すぎる……。
「わたしも……もしかして……とは思っていましたが……本当にここまでとは……ね」
田村が苦笑いを浮かべつつ影の端で影武者と話す真の王に視線を向けていた。
「まず、この一戦で分かったことをまとめましょう。まず、このゲームは進行が速い。王側が速くしようとしています。
お互いにバレないように隠しきればサイコロを振り合うゲームになります。ですが、外野がいる以上確実にバレないように隠せる場所と言うのは極端に少ない。事実、長井くんの隠し場所はあっさりバレていました。
または、アリスさんのようになる。
そして第一フェイズで行っていた影武者の大胆な行動。わたしは直接見たわけではありませんが、机を移動させたり花瓶を持ったり、そしてその花瓶にコインを入れる振りをしたのも……。
単純にコインを隠すという違和感ある動作を隠すためともう一つ、質問内容や回答を誘導するという点もあったのでしょう」
「……確かに俺の質問も回答も、すべて空振りに終わった……。それは答えを絞り込むための段階と踏んでいたが……。そこにある事実は、質問という権利を無駄打ちさせられ、回答をそらされたということ……か。
花瓶の中にコインがないと知っても、逆に言えばそこ以外のどこにあってもおかしくはないということ。絞れたようで、絞り込めていない。何十通りという中で、一つ可能性が消えただけ」
「そして、無駄な質問と回答をさせている間に正解へとたどり着く。ゲームの肝は、わたしがコインの隠し場所について、うまくプレイヤー外の相手を誘導。しつつ、相方は誘導に惑わされないでコインの場所を特定していく……ということ」
そこで田村はさらに指を一本立てた。
「そして言えばもう一つ。質問と回答は公開情報ということも重要ですね。質問が有益な情報であればあるほど、もうひとりにとっても重要な情報。確信をついた質問であればあるほど、もうひとりも点を取ってくることになる。
つまり、点数差は開かない。
であるならば、質問はできる限り必要十分な形で取らないといけません。できるのであれば、今回の影武者のように質問をパスすることすら考えないと。事実、質問パスによって長井くんは情報不足に陥ったのですから」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます