第4話 偽物はどっちだ? 本物は……いるの?
演説があった次の日の登校。朝、玄関を出来ると、亜壽香が向かい側で壁にもたれかかっていた。
圭の姿を見た亜壽香が手を振ってくる。
「おはよー」
「……あぁ、おはよう」
圭は亜壽香に挨拶しながら学校に向けて足を進める。亜壽香はそれを追うようについてきた。
「圭は、昨日の演説、本当に聞きに行かなかったの?」
亜壽香がこっちに顔をのぞかせてくる。
「あぁ、行かなかった」
「なんで?」
亜壽香がぐっと首をかしげさせる。
「なんでっ……て……、興味ないから。関係いないから」
「関係ない……そりゃあ、まあそうかもしれないけどさ……。なんか、いつもと違うイベントだし、なかなかお目にかかれないことだと思うけど……。
好奇心とかも沸かなかったの?」
……まぁ、おそらく本当に関係ない者でも、その好奇心だけで演説を聴きに行った人も中に入るだろう。逆に関係あるけど、バカバカしいと言って帰宅した人もいただろうし。
「コントラクトで被害にあったわけでもない俺からしたら、その解放者ってのも、演説ってのも、バカみたいな茶番にしか思えないけどな……中二臭い……とでもいうのかな」
ちなみに、その中二くさいことを思いっきり真面目にやっているのが張本人である圭だが。まぁ、関係ない他人から見たらそういうふうに思われているだろうと、自覚は普段からしていた。
「でもさ、そんな感情持っているなら、なんで昨日電話をかけてきたの?」
「……」
「やっぱ気になったんでしょ?」
圭は少しニヤついている亜壽香に対し、横目で流した。
「どうやらお前はコントラクトの被害者らしいからな。ちょっとは気になるさ……と言っても、俺に出来ることがあるのか……分からないが」
「うん、出来ることはないね」
亜壽香は圭の言葉に対し、食い気味に言い切ってきた。そんな亜壽香に少しひるんでしまう。
「あたしは被害を受けている側ではないと、一応否定してから言うけど。
少なくとも、圭が本当にコントラクトの被害を受けていないなら、そして、解放者でもないなら圭に出来ることはないよ」
亜壽香はそう言いつつ、自分の手を見た。
「助けるなんて、口では何とでも言える。でも、実際に助けるとなれば行動しなきゃいけないよ? 解放者は、演説という形で行動を見せたけど、今の段階だとただの見せかけだよ。
あの解放者が本物であれば、きっと動き始める。逆に口だけの目立ちたがり屋なら、これ以降の動きはない。そして、無力なただ支配されるだけの人たちは、彼らがただの目立ちたがり屋ではないことを祈るしかない」
「……亜壽香?」
亜壽香の雰囲気がなんか変わりだした。普段の……言ってしまえばパッパラパーな彼女とは違う。
「圭は……どうなの?」
亜壽香が圭のほうに顔を向けてくる。
「……どうって?」
「もし、あたしが助けてって言ったら、行動を起こしてくれる? それとも……「今行く待ってろ!」って口だけ動かす?」
……その答えは、圭なら間違いなく前者を選択する。行動を起こす。事実、解放者として活動している今の圭は、すでにその選択をしているのだから……。
――本当にそうか?――
圭が今まで解放者として動いてきた経緯はなんだ? 結局は自分のためじゃなかったのか? その結果、森の手伝いまでさせられているだけで、もし、森との契約がなかったとしたら、それでも解放者として行動していたか?
それは間違いなく、否だ。森との契約がなかったら、圭は間違いなくあとは黙って大人しくしていた。
じゃあ、果たしてそんな圭は、本物の解放者なのだろうか……、圭こそ、自分こそ、偽者なのではないだろうか。
偽者は演説で言ったように、解放者とは元々は噂から生まれたもの。ネイティブを壊滅し解放に導いた存在が解放者と呼ばれただけ。
そして、演説により、その解放者は全てを救う者として、希望の象徴として人々の胸に刻まれた。
そんな中で、圭は果たして本物で有り続けることができるのだろうか……。というか、そもそも、本物の解放者は存在するのだろうか……。
「助ける……、その状況に実際、なってみないと、何とも言えないな」
気が付けば、そんな答えを導き出していた。
そんな圭の答えに対して、亜壽香が口に手を当て笑う。
「ふふっ、それって、結局助けない人の答えだと、あたしは思うよ」
そう言うと、亜壽香は一歩大きく前に歩み出た。
「果たして、本物の解放者とは、いったい誰なのかな~。ちょっと、ワクワクしてきた。あの人たちの今後の動きが楽しみだよ」
まるで亜壽香は当事者ではないと、他人事で外から見物する側だというようなセリフを最後に吐いていた。
そして、本人もまた、口では被害者ではないと言っている。
だけど、亜壽香の行動は被害者そのもの、支配される側が解放を待ち望んでいるように思える。
亜壽香……その答えもまた、分からない。
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