第3話 演説終了直後

 演説が終わったあと、すぐにコントラクトを介したチャットが田村から届いた。


『演説、あなたも聞いていたんですよね? あれを聴いて、あなたはどう思いましたか?』


 次郎に聞いていた質問を、解放者ボブにもしてきた。

 圭は口に手を当て、しばらく思考する。


『前にお前と考察した奴らの目的の中の、三番目が聞いてて可能性が高いと感じたな』


『ほぅ、それはなぜ?』


『あの演説は、自分の存在を認めさせる。アピールするような目的があるように感じた。少なくとも、解放者に対し単純な同調なら、あそこまで自分が解放者であることをアピールするとは思えない。


 で、あれば第一、単純に目立ちたいから、という目的が挙げられる。事実やつは注目を浴びた。この雰囲気だと、これからも注目を浴び続けるだろう』


 だけど、これはもしそうであれば、一番楽であるだけだ。単純に偽者が目立ちたがりというだけなら、どれだけ楽なことか……。


『だが、最悪は考慮しなければならない。その最悪は、解放者を乗っ取ること。少なくとも、今回の演説で、あの中庭とその周辺にいた人たちはみな、彼らを解放者だと思うことになる。


 奴らからしてみれば、むしろ俺は偽物だ。それが、どれだけ行動に支障が出来るかは分からない。だが、本気で乗っ取ろうとしてきたら、どう対処するべきか』


『でも、本当に乗っ取ろうとしてくるなら、君たちに接触してくる行動を見せてくる可能性が高いと思います。それは、逆にチャンスにもなりうるでしょう。

 特に奴らが真の王の差し金であれば、なおさらね』


 と、そんなチャットを交わしている時だった。唐突にケータイの方にショートメールが入ってきた。

 それは田村の電話番号から着たものだった。


 一瞬、スマホ画面の田村とのチャットと見比べ、そのメールを見る。


『明日、お話したいことがあります。放課後、少し時間をいただけますか?』

 こっちは、田村が友人の圭にかけたほうのメッセージだ。

『いいですよ』


『ありがとうございます。では、明日の放課後、よろしくお願いします』



 さらに時間がたった後、今度は解放者同士のLIONを用いた会議が展開された。

 だけど、結果としては奴らの今後の動きに注目していくほかないという話で決着がついただけのことだった。


 そこで、ひとつ思い出し、ケータイで亜壽香に通話を出した。


『もしもし、圭? どうしたの?』

『亜壽香、お前って結局演説は聞きに行ったのか?』


『あぁ、うん。聞いてきたよ。もう帰ってきて家にいるけど……。どうしたの?』


『いやぁ、演説どうだったのかな、って思って』

 自分もまた田村と似たようなことを亜壽香に向かってやっている自分に気がついた。


 でも、これを聞けば、支配される側代表の意見として取り入れることができる。確かな情報となれるはず。


『どうって……まぁ……いや、別に悪くはなかったんだけどさ……』

 亜壽香は歯切れ悪そうに言葉を連ねていく。


『けど?』


『うん……、なんか、結局なんなのか、よく分からなかった……。解放者はいるっていうのは分かったけど……結局あたしたちに出来ることはないのかな、って思っちゃってさ……』


 と、そこまで聞いたんだが、そこで亜壽香が急に声のトーンを変えた。


『あっ! 別にあたしが支配されている側だからってわけじゃないよ! あくまでも、支配される側だったらっていう話。あくまで、例えだからね!

 別に圭が心配する事じゃないんだから!』


『なんか、ちょっとキャラ変わってるぞ?』

『あれ? そうかな~』


 ……なぜ、今更そんなごまかしをするのだ? 亜壽香が支配される側に居るということは、昨日の話でなんとなく悟っている。

 いや、あくまでも心配させないという配慮か……。


『圭は関係ないから。わざわざ、圭が首を突っ込む必要はないから。例えどういう状況でも、それだけは絶対変わらないから』


 また、声のトーンを大きく下げてそんなことをいう。


 例えどういう状況でも……か。そのどういう状況が、自分こそが本物の解放者だと、しても……首は突っ込む必要がないのだろうか……。


 まぁでも、実際ただの小林圭である限り、亜壽香を救う行動をすることはできない。やるならば、本物の解放者として、だ。


『ちなみに、その解放者のことはどう思った?』


 圭はついでに聞いてみた。亜壽香はしばらく黙るが、そっと声を流してくる。


『……希望……かな。たぶん、あの人は、本当に全ての解放を達成するんじゃないかな? その気概は、演説からはっきりと感じ取れたよ』


 ……気概……か。


『じゃ、切るね』


 圭は通話が切れたケータイをしばらく見つめていた。

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