第14話 演説はどうするか

 家に帰ったあとは、解放者としてLIONを介した会議を行うことになった。まぁ、それは当然の流れとなるだろう。

 ちなみに次郎がチャーリーになったのは既に了承済み。


『あたしもチラシは貰ったよ。放課後配ってたのを貰った』

 森も流石に状況を把握してくれていた。


『演説……取り敢えず行くよな?』

 次郎がメッセージを送るが、それに対しては即座に返事。

『いや、俺は行かない。予定ではお前らにまた、スマホで盗聴してもらって、俺は別の場所で聞くつもりでいる』


 そのメッセージのあと、しばらくして次郎から再度返信。

『そうか……ロミオ……。いや、田村零士って名乗ったな』


 森は変にメッセージを送ってこなかった。おそらく下手な返信をして、ロミオこと田村と手を組んでいることを、悟られるようなことはできないしな。


『ロミオとお前って前から知り合いだったんだよな? どういう関係かは知らないが……』

『あぁ、まあな。といっても、本当に知り合い程度だ。初めて会話をしてからたいした時も立ってない』


『でも……、ロミオ、お前が解放者ではないかと、疑っているんじゃないのか?』


 ……実に勘がいいことで。

『かもしれないな。でも、こっちも簡単にはボロを出すつもりはない』


 それに、田村もまた打倒キングダムを掲げている。それを信じる限り、田村が解放者の正体を知ったところで、たいした意味はない。あいつにとって、解放者の正体は、重要な情報ではないはず。


『それより今は偽者のことについて話をしない?』

 田村に関する話題を遮るように森がメッセージを送ってきた。これに関してはナイスと評価しておこう。


『そうだな』

 今一度、会議を仕切り直す流れにした。


『まず、演説をする奴らのこと、彼らのことを偽者として、わたしたちは共通認識していいんだよね?』

『あぁ、そういうことでいい。少なくとも、この三人の中で、奴らの事情を知る者はいないということでいいんだろう』


『問題は奴らの目的だよな? それによって俺たちの対応は変わる。奴らは放置していいのか。それとも黙らせるべきなのか』

 次郎が送ってきたメッセージ。それに関しては田村と既に話し合っていることだが、ここのメンバーではまだこれからの話題か……。


 だが……

『それはひとまず演説を聞いてから判断しようと思う。少なくとも、今の奴らは俺たちに手を出せないはず』

『わたしもそれに賛成する。今のままじゃ情報が足りなさすぎると思う』


 森が賛成。それに次、次郎も納得してくれた。


『あとは、演説を聴くときの話なんだが、お前らはどうするつもりだ?』


 そこに対して、森が先にメッセージを送ってきた。

『わたしは友だちと一緒に聞きに行こうと思う。前に話したよね、キングダムの組織において、わたしから見て下の立場にあるアカウント』


 そう言えば……森はもともと作っていたグループごと、キングダムの組織に入ったと言っていたな。そのメンバーで言うというわけか……。

『いいだろう。限りなく自然な流れだと思う。だが、できれば場所の指定をしたい』


 そうメッセージを送って、圭は一度チラシに目を通した。演説の場はセカンドパティオ、フライハイトの窓から見える場所だ。


『場所? セカンドパティオじゃないの?』

『そうだ。アリスにはセカンドパティオ、しっかりと中庭に入って聞いてもらいたい。スマホで演説を俺のケータイにまで飛ばして欲しい』


『分かった。でも、逆に聞くけど、セカンドパティオ以外の選択肢があるの?』


『無論だ。声さえ張り上げれば、あそこからなら建物内にも聞こえる。少なくとも窓を開ければ簡単に聴ける。


 わざわざ中庭に降りず建物の中から聞こうとする奴らも大勢いると考えている。なにしろ、セカンドパティオは目立つ場所だからな。どこからでも観察できる。演説にはもってこいってほどにはな』


 前に次郎と話していたこともあることだ。次郎はラブレターがどうのこうのと、ゲスな作戦を披露していたな。


『確かに、中庭に立てば「自分は支配されている側の人間です」って言っているようなものもんな。もちろん、そんな情報がバレたところで気にしないやつもいるだろうが、当然、避けたいやつもいるか』


『そ……そうか……』

 森が遅れてそんなメッセージを送っていた。

『だから、アリスにはしっかりとほかのメンバーと一緒に中庭に連れ出して欲しい。もしかしたら、メンバーは避けたいと言うかもしれないが』

『いや……大丈夫。それとなく言いくるめるよ』


 とやり取りをしたあと、さらに森がメッセージを続けてきた。

『ていうか、別にチャーリーがわたしの役をになってもいいんじゃ?』

『いや、チャーリーには別の仕事がある』


 チャーリーこと次郎。

『俺は何をやればいい?』


『フライハイトで聞いて欲しい。おそらくあそこは一番人が集まる場所だと考えている。そしてなにより、やつ、ロミオも来るはずだ。

 あそこは、場所的にすごく辺りを見渡しやすい。ロミオはそこに俺が居ないかも含めて、演説とその周りの場をしっかり観察しようとするはずだ。


 そして、チャーリーにはロミオと接触してほしい。面識があるのだから自然に話せるだろう。人がたくさん出てくれば、遠くからロミオの行動を見張るというのは難しいだろうから、隣で直接やつの動きを見ていてくれ』


『そういうことか……分かった。でも、そこまでロミオのことを警戒しておくのか? というか、現状なら下手に接触したら、よけいに圭の疑いが濃くなる気もするんだけど』


 本当は、ロミオと手を組んでいるから動きをしっかり見て起きたという理由がある。それを考えれば事情を知っている森のほうがいいと考えられるかもしれないが、なにしろ森こと解放者アリスは田村と直接会っている。

 できる限り、森と田村の接触は避けておきたい。


『俺はやつと何回か会話しているから分かる。普通じゃないんだよ、あいつは。何をしでかすか分かったものじゃない。

 それを恐れて、お前に警戒を頼むんだ。分かってくれ』


 しばらく止まったが、やがて次郎から返信がくる。

『了解した。とにかくロミオを警戒していればいいんだな?』

『あぁ、頼む』


 こういう場合、十まで話さずとも理解してくれる友人という存在はありがたいと思えた。


 こうして、解放者としての会議は区切りをつけた。

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