第15話 亜壽香と解放者
LIONを介した会議が終了したあと、しばらくして森からLIONを使った無料通話がかかってきた。
自分の部屋だが、一応後ろを見て誰もいないことを確認し、電話に出る。
『で、あのロミオとなんかあったわけ? いや、あのロミオがこの状況で動かないはずがないよね?』
圭は一度目を閉じ、息を吐いた。
「あぁ。というか、今日の放課後、すぐやつに呼び出された」
森は『そう』と小さく漏らし、さらに続ける。
『じかも、チャーリーまでロミオと顔合わせたって? しかも、あいつの名前は田村零士? 随分と近づかれているようだけれど?』
「心配しなくていい。さっきの会議でも言ったが、ロミオにとって解放者の正体は絶対必要な情報ではない。
というか、絶対ロミオに「田村零士」なんて名前で呼ぶなよ」
『それは分かってるよ。分かった……で? どういう内容を話したの?』
そこで、圭は一通り、田村と行ったやりとりを伝えた。それを聴き終えた森が通話の向こう側で沈黙をしている。
「……まぁ、基本的に田村の行っていることに対しては、間違っていることがない」
「……まぁ、確かに。少なくとも、その話を聞く限り、田村も偽者に対してはかなり注意を向けているということになるよね?」
「俺たちの差し金である可能性も疑っているがな」
「そういったことも含めて、チャーリーにロミオを監視させるわけか」
「そうだ」
そこから、また沈黙が走ったが、森がまた声を出した。
『分かった。まぁ、わたしもロミオには注意しておく』
そう言って森との通話は切れた。
それから、演説の日まで、校内のあちこちで偽者たちはビラ配りを行っていた。時間が経過すればするほど、そのビラの受け取りを拒否している人たちが多くなった。
だが、当然だが、解放者の演説という話は瞬く間に広がっていた。
そして、演説が行われる前の日の放課後。
「……で、なんでお前はまた、俺の部屋にいるんだ?」
圭の話などまるで通さず、圭の家、圭の部屋に入ってくるのは幼馴染、亜壽香。家に帰って部屋に入ったら、まさかの先客として亜壽香がいたのだった。
圭はカバンを置きながら、当然のように俺の机に腰をかけている亜壽香。その手には、例の解放者の演説ビラがあった。
そのビラを圭に見せつけてくる。
「やっぱ、圭も貰っていたんだ」
そう言って亜壽香は自分のポケットから折りたたまれたい同じビラを取り出す。
「まぁ、そりゃぁな。あれだけ派手に配られたりゃ、一枚ぐらい手に取ってしまうよ。たぶん、駅前で配っているティッシュなんかよりずっと、手にとった奴多いんじゃないか?」
座る場所が亜壽香に取られているため、圭はベットに腰をかけた。
「あっ、圭。あたしのこと気にしないで。着替えてくれていいよ」
「……結構。出て行ってくれたらすぐ着替えるよ」
「じゃあ着替えないんだね」
……ようは出て行く気がさらさらないということらしい。ちなみに亜壽香も制服のまま、カバンですら横に置いてある。
「……お前、学校から直でここに来たのか」
「うん」
「……帰宅は寄り道せずにしようや」
「ここ、ほぼほぼ自宅じゃん」
「ちげえよ!? いや、俺の自宅だけど……ちげえよ! お前の自宅じゃねぇ!」
と、一通りやりとりを終えて、立ち上がる。そして亜壽香の手から圭のほうのビラを抜き取った。
それをそのままクシャと丸め込み、ゴミ箱に捨てる。
「……なんで捨てるの?」
「興味ないからな」
「でも、ずっと置いておいたんでっしょ? 引き出しに入ってた」
「ほかのプリントと一緒にな。存在自体、忘れてたんだよ。ってか、勝手に人の引き出しを開けるなよ」
「大丈夫。そういうのは見つからなかった」
そういって亜壽香はグッドサインをしてみせた。
「……どういうのかは聞かないぞ」
もう、流石にと思い、亜壽香を強引にどかし、圭が自分の椅子に座った。一応、解放者の証拠になりそうなものがなかったことを確認。
「で、またなんの様もなく俺の部屋にまで来たわけか?」
確認しつつ、亜壽香に尋ねる。すると亜壽香は自分が持っていたほうのビラをさらっと振った。
「いや、この演説、明日の放課後じゃん? 圭は聞きに行くのかなって思って……。でも、その反応だと、圭は行かないみたいだね」
圭は一度亜壽香が持つビラに視線を寄せた。
「……亜壽香は行くのか?」
「うん、まぁ。面白そうだし」
面白そう……か。まぁ、確かに、校長先生の朝礼なんかよりはよっぽど面白そうなネタではあるが……。
そこで、ふと思い出した。
亜壽香が、コントラクトの被害者かどうかということ。もし、亜壽香もまたコントラクトに苦しんでいるのなら、解放者として助けるべきではないか、なんて思っていたこともあった。
結局、そのままズルズル来ているけど……結局のコトロはどうなのだろう。
「なぁ、亜壽香?」
「うん?」
圭はぐっと亜壽香と目を合わせた。
「なぁ、亜壽香って、やっぱり。コントラクトで不平等な契約でも結ばされていたりするのか?」
「……」
亜壽香は圭の言葉に対し、見開きそっぽを向いた。
「別に……そういうのじゃないんだけどね……」
その反応……やっぱり、被害者なのか……。
「でもさ、もし、あたしが支配されていたとして、それで圭は助けられるの? 圭は解放者になれるの?」
亜壽香はビラを強く握り、圭につきつける。
「もし、圭が解放者だというのなら、あたしはすべてを打ち明けてもいいよ。どうなの?」
「……そ……それは……」
圭は解放者だ。本当のことだ。「俺が解放者だ」と言えば、本当だし、それで亜壽香の話も聞ける。
でも……この状況じゃ……。
「……ごめん」
ウソをつくしかない。
ここで肯定すれば、ただでさえギリギリの均衡を保っている解放者グループが危うくなるかもしれない。話をややこしくは……出来ない。
亜壽香は圭の謝罪を首振って答えると、くるりと背中を見せた。
「大丈夫、圭を巻き込む気はないよ」
そう言って、圭の部屋から出ていった。
亜壽香は支配される側にいる。であれば……解放者として、助けるしかない。負けるわけには……いかない。
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