第13話 偽者の目的その三
田村は三つ目の指を立てた。
偽解放者の目的、理由その三。
「真の王による差金」
「……え?」
圭は思わず声を漏らしてしまった。あんまり、深く想定していなかった理由だったからだ……。
田村がいった意味を理解するため頭で思考するが、やはりピンと来ない。
「なぜそうなる? 真の王のメリットはなんだ?」
田村は立てた三本の指を畳み込んだ。
「そうですね。それは、君の正体を知るためでしょう」
田村はひと呼吸置くと、圭に一歩近づく。
「まず、安心して欲しいのですが、真の王は、君が思っていり上に解放者の情報を持っていません。
少なくとも、今までの契約がしっかり聞いており、解放者のアカウントが「仮面ファイター5103」であることはバレていないはずです。当然、君も正体もね」
くるりと田村が体を回転させる。
「でも、解放者は確かにキングダムに対して牙を剥き始めた。であれば、どうにかして抑止したいと思うのが自然でしょう。それは分かりますよね?」
圭は黙って頷く。
「抑止する一番の方法は解放者自身を潰すこと。そして、もうひとつは、活動そのものをさせなくすること。
偽者には、このどちらかをさせるために真の王が生み出したものなのではないでしょうか?」
圭は田村の説明に何度も頷いた。理由として分かる。
「だが、具体的には?」
田村は「まぁ、そうですね」と言いながら天井を軽く指差す。
「解放者を偽者が流れで乗っ取るか……、解放者を物理的に倒しにくるか……。
前者であれば、偽者が全生徒に存在をアピールして、君たちを偽者だと扱い、貶めてくるとか、ありそうですよね。
後者ならば、エンゲームでも仕掛けてくるのでしょうか……。まぁ、なにかしら接触してくる可能性はあるでしょう」
そういうことか……。ずっと敵は真の王とばかり考えていたが、相手が必ずしも直接攻撃を仕掛けてくるとは限らない。
いや、影武者を使っているあたり、直接動いてくる可能性は低い。なにかしら、コマを利用して解放者を潰してくる……。
「その場合は、本当にやっかいな存在と言えるでしょうね。解放者を倒すという明確な目的を持って行動してくるわけですから。
こちらが放置したとしても、向こうは絶対に近づいてくる。そうなったら、巻くなり戦うなりしなければならない。ですが……」
「同時に真の王に近づく手立てにもなるというわけだよな?」
「ふっ、その通りです」
そりゃそうだ、偽者が真の王とつながっているというのならば、近づける可能性もまたあるということ。
「まぁ、これ以外の目的の可能性もあります。それこそ、細かく言えばキリがないし、推測の意味もなくなる。
ですが、この三つは……三大の可能性として考慮してもいいのではないでしょうか? 無論、それに縛られて本質を見逃すのは避けるべきです。
この三つしかないと断定するのは、悪手ですがね」
圭は田村の話を聞きつつ、田村が出していたチラシに視線を戻した。三日後の放課後、偽者は演説を開くと宣言しているチラシ。
「まぁ、その推測はその偽者の演説を聞いてから本格的に考えてもいいんじゃないだろうか。少なくとも、今の状態では向こうは、こっちに何かする手立てはないんだ。
チラシを配っていたあの二人のことは、俺も知らないからな」
そう言ったとき、ピクリと田村が反応した。
「……君もあの昼のとき、居たんですか?」
……つまらんところで墓穴を掘ってしまったか……。でも、ここは変に否定するよりはましか……。
「かもしれないし、アリスから写真を送ってもらっていたかもしれない。まぁ、あのチラシも解放者は持っているのは事実だ。
それに……」
圭は校門がある方向に教室の壁に視線を向けた。
「どうせ、下校時や登校時も配りまくるんだろ? もちろん、同じやつが配るとは限らないが……」
そこまで言うと田村は笑いながら首を横に振った。
「大丈夫ですよ。いくらなんでも、今日の昼、フライハイトにいた人物の顔を全員覚えていることもないですから。
そこから君の正体がばれるようなことはありませんよ」
田村はそう言いながらチラシに手を伸ばすと折り畳み始めた。
「とにかく、ひとまず演説までは偽者の動きを見るということでいいでしょう。対王はその後、また話しましょう。
ですが、その前にひとつだけ、聞いておいてもいいですか?」
また、田村は指を一本たてて圭に向けていた。
「なんだ?」
田村は不敵な笑みを浮かべる。
「この演説、君は聞きに行くつもりですか?」
圭は一瞬考えたが、変に悩む必要はないと思った。
「無論だ。演説は当然聞きに行くさ」
「ちなみに仮面は?」
「付ける訳無いだろ」
もしかしたら、演説を聞きに行くやつの中には顔を隠してくるやつもいるかもしれない。だけど、そのほうが目立つ。
もし、行くならば普通の人に紛れるという選択肢一択だ。
もっとも、小林圭は……演説の場に行くことはないが。
田村の笑みがどういう意味を含んでいるのか、知る由もないが、こいつが偽者に対して警戒心を抱いているということだけは、十分に分かった。
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