第12話 偽者の目的は?
フライハイトでチラシが配られた日の放課後。圭のスマホにはコントラクトのチャットを介して田村から連絡が着ていた。
『話があります』
ただ、その一言と時間場所の指定のみで。
圭は指定された場所に仮面を被り、服装や髪の雰囲気を替え突入した。
そして、教室に入った瞬間、キツネの仮面が目の飛び込んできたため、一瞬のけぞってしまった。
だが、すぐにそれは田村が仮面をかぶっているだけだと気づき、ため息をつく。
「どういうつもりだ?」
田村は圭の問いに対し、愉快そうに笑う。
「そりゃぁ、君たちに合わせてわたしも仮面を装着してみたんです。どうです? 似合いますか?」
「……随分とセンスがいいことで」
真の王と同じ仮面をかぶるなんて、どうかしている。どう考えてもこのチョイスはわざとだ。
「お褒めに預かり光栄です」
そういった田村は特に躊躇することなく仮面をはね上げた。仮面の下からあの田村の笑みが見える。
「まぁ、わたしが顔を隠す必要はないと思うのでかぶりませんけどね。ちょっとしたジョークです」
そう言うと、キツネの仮面は横に投げるように置いた。そして、田村は愉快そうにしていた表情をぐっと真剣な表情にすり替えてきた。
「本題に入りましょう。ボブさん……知らないとは……言わせませんよ?」
いきなり不敵な笑みで圭に迫ってくる。
まぁ、当然だろう。あの情報をまだ知っていないのだとしたら、解放者を今すぐ辞めるべきだと、圭も思う。
「当然だ。偽者のことだろ?」
「ええ。その話以外はないでしょう」
そう言って田村はポケットから一枚の紙を取り出した。例のチラシだ。
「ちなみに、これって君……解放者の差金であったりします?」
第一の質問としてくるだろうとは思っていた。だが、当然そんな差金をした覚えは微塵もない。
「そんなわけがないだろう?」
「そうですか? こうやって偽者に注意を向けておけば、解放者として裏で活動しやすくなるとは思っているのですが? そのために看板になりうる偽者を用意したってのが、わたしの考えですけど」
田村の推測に対して圭は深く頷いた。
「その点に関しては俺も同意だ。あいつらがピエロを演じてくれていれば、こっちとしては動きやすい。
といっても、肝心の真の王が奴らを本物だと考える可能性は皆無だろうがな」
「ですよね。そんな奴なら苦労はしていません。それどころか、彼らを本物だと信じる人がどれだけいるでしょうか?」
「まぁ、支配されているだけの底辺ぐらいなら信じるだろうよ」
圭は田村が取り出したチラシを一瞥。そのまま近くの机にもたれかかった。田村はそんな圭に合わせてか、目の前の椅子に座り込んだ。
「で、仮のあの偽者が解放者の差金ではないとすると、どう対処するつもりですか?」
仮に……か。まぁ、関わっていないという証拠は提出できない以上しかたない。
「対処か……正直に言えば、俺は放っておいても問題はないと考えているんだが」
「……放置……ですか?」
田村は本気で驚いた表情をしてみせていた。
「ちなみに、これは君たち解放者と偽者の間で繋がっていないという仮定での話ですよ?」
「あぁ、分かっている」
確かに、田村の疑問はもっともだ。放置するというなら、それこそ偽者は圭の差金っぽくなる。偽者が解放者の差金説を否定するには、放置という選択肢は選ぶべきではないのかもしれない。
だが、
「少なくとも、ロミオ、お前に偽者との繋がりがないことを証明する必要はない。お前がどう勘違いしようが策に支障はでないだろうからな。
それに、今のところ偽者が邪魔になると決まったわけではない。必要以上に偽者に気を取られて、本来の目的を疎かにすれば元も子もない。わざわざ、自ら振り回されに行く理由はない。
それに、さっき言ったように、カモフラージュとして利用できるかもしれなからな」
もし、偽者が圭たちの邪魔をしてくるようなら別だが。
圭の説明を聞き、じっとチラシを見つめる田村。
「あくまでも……わたしは偽者が解放者の差金でないという前提で話をしますが」
そう前置きを言うと、圭のほうに勢いよく顔を向けた。
「ボブさんの話はもちろん一理あります。彼らに翻弄されて終わりというのだけは、避けたいことです。
ですが、それもこれも、偽者の目的によって変わってくるんじゃないでしょうか?」
「目的……ねぇ。今の段階で奴らの目的がわかるのか?」
「それを調べるためにもある程度の接近は必要だと思います」
田村はそっと立ち上がるとチラシを持って教室内を歩き始める。
「現状では奴らの目的をしぼり込めるだけの情報がありません。でも、それなりの候補を上げることはできます」
田村は指を一本立てる。
「まず一つ目、ただの目立ちたがり。解放者の名を借りて注目を集めようとしている」
圭も田村の発言に対し、反応を示しておいた。
「それだと一番無害な奴らだな。ただの馬鹿、いいピエロだ」
田村は笑みを作ったあと、二本目の指を立てる。
「二つ目、本物の解放者に憧れて名乗りをあげている」
「……それは正直言って、厄介だな。面倒なことになりやすい」
田村は圭の言葉に対し深く頷く。
「えぇ、わたしもそう思います。もし偽者が解放者の存在に同調した結果こういう行動を起こしているのだとすれば、いずれ本物の解放者、すなわち君たちに接触してくる可能性があります。
そうなれば、単純に放っておくのも難しくなります」
「邪魔にもなるだろうしな。目立つ奴らが解放者の周りにうろついてもらっては困る。
変に解放者まがいの行動をされるもの迷惑極まりない。そういう奴らなら、さっさと黙らせておきたいな」
もちろん、これ以外にも可能性はある。
田村は三つ目の指を立て始めた。
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