第9話 仕掛け

 圭は教室にある自分の席に座りながら、思考に耽っていた。


 さて、一応ずっと待っていたネイティブからの返事が来たわけだが……。

「二週間か……」


 とりあえず、まず言えることとして今回集金された金は二週間以内にネイティブの手元に渡ったということか。もちろん、もっと早い段階で渡っていて、時間が置かれて返事が出された可能性もあるが……。


 ……三ヶ月まで残り二回の納金か……ここをどう使うか……だが。やはり、作戦どおり、突き進むしかないか。

 少なくとも、今回の策でネイティブにこっちの意思は伝えられたはずだ。それに対してネイティブがどう捉えてくれるのかは、運しだいか。


 そう考えながら、ポケットからあるものを取り出した。手に平にすっぽりと収まるほどの大きさをした黒い箱。割と軽めなその物体は発信機。

 所持金を削るという名目も含めて買った代物だ。


 尾行ができないならば、こうするまでだ。



 二回目の納金日。既に次郎は作戦から外して一人、納金箱の中に手を突っ込んだ。内側の壁に発信機を取り付ける。入れる前と入れた後、実際に箱を持ってその重さにさほどの違いがないことを確認。


 その後、部屋を出て、自分のスマホで発信機のGPS探知アプリを立ち上げた。問題なく作動している。


 この発信機は一時間ごとに発信させる設定にしていれば一ヶ月弱は持つ。二週間で一円玉が渡ったことを考えれば、発信機のバッテリーは充分保つはずだ。

 だけど……


「まあ、意味はないよな」


 改めてGPSアプリで確かめてみるが、対象が学校という建物の中にあるということ以外は分からない。少なくとも教室の特定なんてまず不可能だ。

「まあ、これでいい。これは全て布石となる」



 発信機は想像通り、場所を暴くのにはまるで役には立たなかった。学校の中以上の特定はできないまま。やがて発信機のバッテリーも切れて、今や発信機が今、どこにあるのかもわからない状況だ。


 だが、これでまず、ネイティブに発信機が仕込まれていたという事実は伝わったはずだ。


 もし、箱ごと発信機がネイティブにまで渡されたら、ネイティブが直接見たことだろうし、運び屋が途中で気づいて外したとしても、そのことはネイティブに知らされていることだろう。

 そんな重要なことを隠させたままにするほど、愚かではあるまい。


 ここまで来たら、あとは信じるしかない、己の運を。



 来る三ヶ月目の納金日。

 当然納金しなかった圭は二日目の予備日も過ぎ去ったあと、ネイティブに直接コントラクトのチャットを利用してメッセージを送りつけた。


「すみません、今回も納金できませんでした。何しろ、手持ちがからっきしなくて。それと、今日、放課後、特別棟四回、奥から二番目の教室に用があるんですよね」


 そんなメッセージを送りつけて、圭は一人、その指定した教室、初めてネイティブと対戦したあの教室で待機した。


 それとほぼ同時、圭のケータイに通話が入る。次郎からの着信だった。


『ブラボー、こちらアルファ 指定の位置に到着した。送れ』

 ……おう、いきなりどうした、次郎!? 何だそのノリは? 大体、それ、無線の用語だろうが……。


「じゃあ、予定通り、セッティングをよろしく頼む」


『ブラボー、こちらアルファ お前ノリ悪いな。でも了解 送れ』

「……こちらブラボー さっさとやることやってろアルファ。黙れ」


 そのままぶっちぎってやった。とりあえず、向こうのことは次郎に任せて、こっちはこっちに集中しなければいけない。そう思いながら、自分のポケットの中に忍ばせた発信機をそっと握り締める。


 ネイティブ、やつは必ず……くる。契約上、奴が圭の未納金を知ってしまえば、取立てに来なければならない。そして、奴が圭の未納金を知ることが出来るのは、納金箱を手に入れてから、すなわち二週間後となになってしまう。


 そして、詳しい日時は知らないがゆえに、いつ取り立てに来るかわからない状態だ。


 だが、今回、ネイティブに直接圭の未納金を知らせた。その情報を知った奴は……今すぐにでも取り立てに来なければ、いけなくなる。


 と言いつつも、絶対とは言い切れないので、内心焦っていたが、そんなのは実際に教室に入ってくるネイティブの姿を見て吹き飛んだ。


「待ってましたよ、ネイティブ」

「……らしいな」


 フルフェイスヘルメットをかぶった男子生徒、ネイティブがついに姿を現した。

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